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認知行動グループ療法通信No15 抑うつ状態の時は現実的?

 こんにちは。認知行動グループ療法アシスタントのYです。

 これまで、抑うつ状態の時には、不快な感情へと結びつきやすい認知傾向が多いこと、また、否定的な事柄を覚えやすく思い出しやすいことなどをご紹介してきました。確かに、これらのことは1つの事実であり、だからこそ、抑うつ状態が治療の対象となり、それに対して認知行動療法が効果的であるといえます。しかし、これらの事実は、ともすると「抑うつの時の認知はネガティブで悪いものなのだ」という考え方へと発展するかもしれません。事実、「抑うつ状態の人の認知がネガティブに歪んでいる」と主張する研究者もいます。

 しかし、上のような主張とはまったく逆、つまり「抑うつ状態の時の認知は現実的なもので、健康な時(抑うつ状態ではない時)の認知にポジティブ(楽観的)なバイアスがかかっている」と主張する研究者がいて、このような主張を裏付ける実験結果が報告されています。

 1つ実験をご紹介しましょう。どのように操作しても必ず勝つようにプログラムされたコンピュータゲームを抑うつ者と非抑うつ者に行ってもらい、ゲーム終了後「ゲームの結果について、自分でどの程度コントロールできたか」を評定してもらうという実験が行われました。その結果、非抑うつ者は「勝ったのは自分の能力のため」と、自分のコントロールを高く評価したのです。ゲーム自体は必ず勝つようにプログラムされていたわけですから、非抑うつ者には自分の能力を高く見積もる楽天的なバイアスがかかったと考えられるのです。抑うつ者にはこのような錯覚は認められなかったようです。

 このように、抑うつ状態の時のほうが現実的な認知を行い、健康な時の認知が楽観的に傾いてきるという考え方のことを、「抑うつリアリズム」といいます。抑うつリアリズムは、上の実験のような「統制の錯覚」のほか、「成功への予期の評定」、「原因帰属(出来事の原因をどこに求めるか)」などの認知過程に認められるといわれています。あくまで、ある特定の認知過程において、抑うつリアリズムという現象が確認されることをおさえておいてください。

 では、なぜ抑うつリアリズムという現象が認められるのでしょうか?1つの説明として次のようなことがいわれています。

 抑うつのようにネガティブな感情が生起するということは、その固体(人間)にとって「安全ではない状態」におかれている可能性が高いということです。そのため、ネガティブな感情状態の時には注意深く細かい認知(情報の処理)を行う必要が出てくると考えられます。逆に、ポジティブな感情を経験しているということは、その固体(人間)にとって「安全な状態」におかれている可能性が高いことを意味しています。そのため、ポジティブな感情状態の時には、できるだけ自動的で単純で発見的な認知(情報処理)を行うことができるようになると考えられるのです。

 今回は、抑うつリアリズムという現象についてお話してきました。このようなことを知っていただくだけでも、うつ病や抑うつ状態に対する見方が少し変わってくるのではないかと思い、お話しさせていただきました。ただし、抑うつ状態がある側面では現実的であるからといって、この状態が不快な感情や身体反応と結びつきやすいことにかわりはありません。抑うつリアリズムという現象は、抑うつ状態を治さなくてよいということを意味してはいません。

参考文献:丹野義彦(著) 「エビデンス臨床心理学 認知行動理論の最前線」 日本評論社

2006/07/20
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