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統合失調症では、患者さんによって、さまざまな症状が現れてきます。ここでは、一般的に認められる症状について概観したいと思います。
(1)急性期の症状
ここでいう急性期とは、統合失調症の発 症初期や再発の増悪期など、幻覚や妄想、興奮、混乱などの症状が激しく出ている時期のことをいいます。 この時期の患者さんはどのような状態にあるのでしょうか。まだ、すべてが明らかとなったわけではありません。しかし、現在わかっていることは、脳内の物質のバランスが不均衡となり、「過覚醒」、つまり、神経過敏の状態となっている、ということです。
私たちは普段、たとえば宴席などの様々な音が交錯する騒がしい場面でも、自分の話し相手の言っていることを聴き分けることができます。これは、意識を、注意を向けるべきものに集中させ、その他の情報を不必要なものとしてカットしているからです。このように、私たちの脳は、自分に必要な情報だけ、フィルターを通し、その他の情報を“雑音”として背景におしやることで、エネルギーの消耗を防いでいます。ところが、統合失調症の急性期では、このフィルターに破れ目ができ、必要な情報もそうでない情報も、区別なく流れ込んでくる、という状態になっています。
こうした状態では、普段は気にならない音に敏感になったり、周りの人のちょっとした仕草や表情が気になったりしてしまい、 「何かのサインが送られているのではないか?」とか、「何か特別な意味があるのではないか?」などと疑り深くなってしまいます。また、意識を集中して何かを考えようとしても、思ってもみないようなことが頭をよぎったり、考えてもみなかった心配が頭に浮かんだりして、なかなか考えがまとまりません。患者さんにしてみれば、恐ろしく不安をかきたてられる体験です。こうした情報の氾濫から身を守るために、部屋に閉じこもったり、何とか理屈で事態を納得しようとします。たとえば「盗聴器がしかけられている」とか「スパイに狙われている」という訴えは、こうした理屈づけによるものと考えられます。また、こうしたときに人とかかわると、「見透かされている」とか「馬鹿にされている」と感じられるために、つっけんどんな態度をとってしまったり、追い詰められたと感じると衝動的な行動に走ったり、興奮して怒りを表現したりすることも起きてしまうのです。
(2) 急性期の治療
それでは、急性期の治療は、どのようにして行われるのでしょうか?その中心となるのは薬物療法です。抗精神病薬によって、脳の神経細胞から神経細胞への、情報の伝わる量をコントロールして、患者さんを過覚醒の状態から、通常の覚醒の状態にもどしていきます。先に述べたような、刺激に敏感になりすぎた感覚を和らげていきます。次に、患者さんにしっかりと休息してもらうことが必要です。患者さんは、過剰な情報の中で混乱し、非常にエネルギーを消耗しています。
そのため、薬物の助けも借りてしっかりした睡眠を確保することが必要となります。さらに、患者さんが受け止める刺激の量を、努めて減らす工夫が必要となります。たとえば、人ごみに出かけることは極力さけたり、テレビやラジオも楽しめないならば観たり聴いたりするのをやめます。一度に行う会話の量も少なめにします。
<急性期の養生のポイント>
- 何はなくとも、まず睡眠
- 薬を飲むとどんな状態になるか、予め知っておく
- 休むための雰囲気づくり
- 音や光などの小さな刺激も避ける
- 説得よりも、簡潔な一言
- ご家族は、さりげなく見守って
- 患者さんの混乱がひどく、ご家族も疲れ切ったら、入院を
(3) 消耗期
この時期は、いわば「病み上がり」の時期です。病気による激しい症状が過ぎ去った後に、失われた心と身体のエネルギーをゆっくりと、時間をかけて取り戻そうとしている時期です。
一般に、神経系の回復するスピードは、非常にゆるやかなことが知られています。通常、2〜3年の間は、回復の過程がゆっくりと続くと考えてよいでしょう。この時期の患者さんは、まだまだ本調子とはいえません。この時期の特徴としては、まず、患者さんはよく眠ります。夜も寝て、朝も寝て、昼も寝て・・・という状態がしばしば認められます。これは、睡眠をとることで、神経の消耗からの回復作業が行われている証拠です。決して怠けているわけではありません。逆に、患者さんご本人が「よく眠れていない」と感じるときは、まだ回復の過程がうまく滑り出していない、というサインかもしれません。ご家族の方も、「よく眠れた?」とあいさつ替わりに聞いてみると、ご本人の状態を理解することができます。
次に、疲れやすく、根気や集中力がなく、倦怠感が強い、という症状を呈します。このような状態に対しては、決して叱咤激励するのではなく、「ゆっくりと時期を待つ」という姿勢でのぞみましょう。さらに、振舞いがどことなく「こども返り」する、という特徴もあります。ご家族に甘えてみたり、甘いものなどをいつも口に入れ、始終なにか間食をしているようなこともあります。脳の働きのうち、大人としての判断を行う機能を担う部分は、とても高度なものです。ですから、よほど回復がすすまなければ、充分に機能しない、ということがあるのかもしれません。こどもっぽくなるという現象は、悪化のサインとしてではなく、エネルギーを充電していく過程で起こる、一過性の現象として、捉える方が良さそうです。暴力に発展しそうだとか、度を過ぎた振舞いについてはたしなめざるをえませんが、それ以外は、大目にみていただければ、と思います。
(4)回復期
回復期は、患者さん本来の、健康的な部分が顔をのぞかせる時期です。消耗期を過ぎると、少しずつ、少しずつ、患者さんのできることが増えてきます。たとえば、今までより少し長い時間、テレビを観ていられるようになるとか、自分から友人に電話ができるようになるとか、一人でぶらぶら散歩に出かけられるようになるとか・・・。徐々にその活動範囲が広がっていきます。ただし、なんでもほどほどにできるようになる、というよりは、自分の興味のあること、好きなことから活動を始めることが多いようです。周囲の心構えとしては、「わがまま」とか「好きなことばかりして」という見方をせずに見守る、ということでしょう。また、回復は極めて緩やかに進みます。ご本人もご家族も、あせらず、一つ一つ、できるようになったことを確認しながら進むのが大切です。
この時期に有効なのは、デイケアや作業所などのリハビリテーションの場です。薬物療法を続けながらも、こうした場を利用して、ほどほどに人と付き合うコツや、働くコツ、休むコツを体験的に学んだり、自分と同じような課題を抱えている仲間との支えあいの中で、力を蓄えていくことができます。
患者さんが、何か再び活動を始めようとするとき、どんなにそれまで慣れていたことでも、はじめは非常におぼつかない感じで再開することが大半です。ですから、アルバイトや就労・就学への復帰、といったときにも、ご本人もご家族も「おためし」という感覚を忘れずにチャレンジする方が良いようです。いきなりうまくいくことを想定して臨むと、たとえ小さな失敗だとしても、ダメージは大きく、次にチャレンジするための意欲を奪ってしまいます。まずは「おためし」。こうした態度ですこしずつ、チャンスを広げていくと良いでしょう。 |