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認知行動グループ療法通信No20 考え方を見直していく方法3
こんにちは。認知行動グループ療法アシスタントのYです。
前回、前々回と、「考え方を見直す方法」ということで、当クリニックの認知行動グループ療法でも使用している「7項目の思考記録表(コラム法)」をご紹介してきました。思考記録表では、嫌な気分を引き起こしている自動思考(認知)について、「根拠」と「反証」を考えていくことで、より妥当な(嫌な気分を和らげるような)考え方を導き出していきます。
しかし、実際に記録を付けていただくと、「根拠」と「反証」がなかなか考え付かないようです。前回はそれらを見つけるコツということで、「これまで同じような状況でどうなっていたか?」、「友人が同じような状況だったらなんと言うか?」などと自問する方法があることをお伝えしましたが、それでもやはり難しいことがあるようです。
そこで、本日は、考え方(自動思考)を見直していく他の方法を、下の例に沿って、ご紹介しようと思います。
例:Aさんは、「主婦であれば家事をしなくてはいけない。家事ができなかった自分はダメな人間だ」と考えて、ゆううつな気分を感じている。
(1)言葉の置き換え
Aさんは、「主婦であれば家事をしなくてはいけない」と考えています。以前(通信No12参照)ご紹介しましたが、これは「〜すべきだ」という「べき思考」といわれるものです。このような考え方には、「言葉の置き換え」という方法が効果的です。「〜すべきである」という表現の代わりに、「〜の方がより望ましい」という表現にしてみてください。Aさんの例では、「主婦であれば、家事をするとより望ましい」という言い方になります。最初のAさんの考え方に比べて、やわらかい表現になったと感じられるのではないでしょうか。
(2)灰色の部分を考える
「何かに失敗した」と感じているときや、「何もできなかった」と感じているときには、「本当に全てが失敗なのか?」、「本当に何もできていないのか?」と自問してみてください。「全てが」とか「何も」という表現は、白黒思考(通信No12参照)と呼ばれる考え方である可能性が高く、このような考え方には、上のような自問(灰色の部分を考える)が役に立ちます。Aさんの場合、「家事ができなかった」と考えに対して、「本当にすべての家事ができなかったのか?」と自問してみることになります。家事と一言でいっても、洗濯・掃除・炊飯などいろいろありますし、洗濯、炊飯、掃除と言う行為についても、それぞれいくつもの過程に分けることができるはずです。たとえ些細なことでも、何かしらできていることは見つかることが多いでしょう。Aさんの場合、「掃除機をかけること」と「洗濯物を洗って干すこと」までできることがわかりました。「家事ができない」という表現より、「掃除機をかけることと洗濯物を洗って干すことはできた」という表現の方が、より正確ですし、嫌な気分を引き起こすことは少なくなるでしょう。
次回も引き続き、考え方を見直していく方法をご紹介しようと思います。
参考文献:デビッド D.バーンズ(著) 野村総一郎(監訳) 関沢洋一(訳) 「フィーリングGoodハンドブック」 星和書店
認知行動グループ療法アシスタント Y 2006/09/12
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認知行動グループ療法通信No19 考え方を見直していく方法2
こんにちは。認知行動グループ療法アシスタントのYです。9月に入ったのに、まだまだ暑い日が続きますね。「9月なのに・・・」と思うと、余計に暑さを感じてイライラするようなことはないでしょうか?私は、よく感じていますが、これも「9月なのに・・・」という認知のせいなのかもしれません。
さて、前回は、積極的に自分自身の考え方を見直していく方法として、思考記録表(コラム法)をご紹介して、その3つの項目までご説明しました。今日は、残りの4つの項目についてご説明していきたいと思います。
最初の3つの項目(状況・気分・自動思考)によって、どのような考え方(自動思考)が、どのような気分と結びついていたかが明確になります。つまり、嫌な気分を作り出している自動思考を発見したことになります。気分を改善していくには、嫌な気分と結びついている自動思考を見直していけばよいのです。
自動思考を見直していく方法にはいくつかありますが、7項目の思考記録表では、
(4)根拠:この自動思考が正しいとする理由、そう考えた理由
(5)反証:この自動思考が間違っているとする理由、そう考えなくてもよい理由
を考えていきます。これまでもお話ししてきたように、抑うつ的なときの自動思考(認知)は、偏っていることが多いものです。根拠と反証を考えていくことで、様々な視点から自動思考を検証することが可能となります。
例えば、前回の例を挙げると、根拠と反証は次のようなものが考えられます。
(1)状況:○月○日、○時頃、職場でレポートを提出したところ、上司に不備を指摘され直すように言われた。
(2)気分:ゆううつ(80%)
(3)自動思考:また怒られた。この仕事をこなせる能力はない。直せない。
(4)根拠:以前にも同じ上司から怒られたことがある(「また怒られた」への根拠)。
1ヶ月かけて一生懸命作り上げたレポートだった(「直せない」への根拠)。
(5)反証:関わったプロジェクトが成功し上司から褒められたこともある(「また怒られた」への反証)。
直すよう指摘されたのは数箇所で、具体的な指示が出ている(「直せない」への反証)。
同じような指摘を受けでも、直せたことがある(「直せない」への反証)。
根拠と反証を考える際のコツとしては、「これまで同じような状況があったか?」、「同じような状況でどうなっていたか(どうしたか)?」と自問する方法があります。また、反証をあげる際には、「仮に同じような状況で困っている友人がいたら、どのように慰めるだろうか?」と考えてみるのも効果的です。反証をたくさん挙げることができれば、つまり、嫌な気分を作り出した自動思考が100%正しいわけではないと気づくことができれば、気分もずいぶん楽になるはずです。
さて、残りは、
(6)適応的思考:根拠と反証に基づいた妥当だと思われる考え方、バランスの取れた考え方
(7)気分の変化:適応的思考まで書き上げたとき、最初の気分はどうなったか?
をまとめるだけです。反証まで書くことで気分は楽になるかもしれませんが、それに加えて「根拠と反証を踏まえると、どのように考えるのが妥当的であるか(適応的思考)」を記録として残しておきます。書くことでより整理できますし、後々同じような状況が繰り返されたときにも見直すことができます。
適応的思考をまとめる際、「根拠と反証を踏まえて」と言っても、なかなか難しく感じる方もいらっしゃるかもしれません。その場合は、「根拠 けれど 反証」のように、「けれど」のような接続詞で根拠と反証をつなぐと良いでしょう。例えば、これまでの例では、「1ヶ月かけて一生懸命作り上げたレポートだった けれど 同じような指摘を受けでも、直せたことがある」のようになります。「直せない」という自動思考と比べてみてください。根拠と反証を「けれど」でつなぐだけでも、柔らかい表現になったことが分かるのではないでしょうか。
これまでの例に関して、7項目でまとめると次のようになります。
(1)状況:○月○日、○時頃、職場でレポートを提出したところ、上司に不備を指摘され直すように言われた。
(2)気分:ゆううつ(80%)
(3)自動思考:また怒られた。この仕事をこなせる能力はない。直せない。
(4)根拠:以前にも同じ上司から怒られたことがある(「また怒られた」への根拠)。
1ヶ月かけて一生懸命作り上げたレポートだった(「直せない」への根拠)。
(5)反証:関わったプロジェクトが成功し上司から褒められたこともある(「また怒られた」への反証)。
直すよう指摘されたのは数箇所で、具体的な指示が出ている(「直せない」への反証)。
同じような指摘を受けでも、直せたことがある(「直せない」への反証)。
(6)適応的思考:一生懸命作ったレポートで直すのも大変ではあるけれど、具体的な指示が出ており、以前にも直せたことがある。上司はよく怒る人であるが、うまくこなせた仕事については、しっかり評価してくれる。
(7)気分の変化:ゆううつ(30%)
2回にわたって、思考記録表についてご紹介してきました。これを参考にして、嫌な気分を改善していくことができるとすれば何よりです。しかし、一人の力でやろうとしてもなかなか難しいのも事実です。認知行動グループ療法では、参加者様が自分自身の力で嫌な気分を改善していけるように、思考記録表や以前ご紹介したアクションプランの使い方を身に着けていただくお手伝いをしております。
認知行動グループ療法アシスタント Y 2006/09/05
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認知行動グループ療法通信No18 考え方を見直していく方法1
こんにちは。認知行動グループ療法アシスタントのYです。
これまで、抑うつ的な時に特徴的な考え方があること、さらに、そのような状態の時には、記憶される情報や原因をどこに求めるかという判断にバイアス(偏り)がかかることをお話ししてきました。抑うつ的な時の認知傾向を知っているだけでも、冷静に状況を捉えることができるようになり(振り返ることができるようになり)、感情に圧倒されるようなことは少なくなることが期待されます。
しかし、認知行動療法では、より積極的に自分自身の考え方を見直していくことで、感情や行動を変化させていく方法が考案されています。本日は能動的に考え方を見直していく方法として、当クリニックでの認知行動療法でも使用している「思考記録表(コラム法)」についてご紹介しようと思います。
コラム法では、初めに、何かつらいことがあったり、嫌な気持ちになったり、うまくいかず困ったりしている事柄について、
(1)その状況、
(2)そのときの気分(感情)、
(3)その状況をどのように捉えたか、その状況に対してどのようなイメージを持ったか(認知)
*特に、(3)の認知については、その状況に対して自然に生じた思考ということで「自動思考」などと呼ばれています(以下、自動思考と呼びます)。
を別々に記述していきます。まずは、どのような状況に対して、どのような思考が浮かび、どのような気分が生じたかを整理するわけです。この発想は、気分が認知(思考)に影響を受けるという認知行動療法の基本原則に基づいています。つまり、どのような考え方がどのような気分と結びついたのかを明確にするのです。
「状況と気分と自動思考を区別する」と、言葉にすると簡単そうに聞こえますが―実際それほど難しく考える必要はありませんが―、いざやってみると初めは難しく感じる方もいらっしゃるようです。そこで、分類する際には次のような点に注目していただくとよいかもしれません。
(1)状況:いつ、どこで、誰が、何を(誰と・誰に)、どうした
(2)気分:1単語で表わせる。
(3)自動思考:文章。その状況に対する頭の中の独り言のようなもの。
上のような点に注意して、例えば、「Aさんが仕事でレポートを提出した時に上司から不備を指摘されて、もう一度直してくるように指示を受け、もうできないと落ち込んでいる」という出来事について、記述すると・・・
(1)状況:○月○日、○時頃、職場でレポートを提出したところ、上司に不備を指摘され直すように言われた。
(2)気分:ゆううつ(80%)
(3)自動思考:また怒られた。この仕事をこなせる能力はない。直せない。
のようになります。
上の記録では、気分のところに(80%)という記述があります。これは、そのとき感じた気分―例ではゆううつ―について、その強さを表わしたものです。気分の強さについては、主観的判断でかまいません。このように数値化することで、どの程度強い気分を感じていたかが、より明確になります。
さて、本日は、思考記録表(コラム法)の3つの項目までご紹介しました。当クリニックで使用している記録表は全部で7つの項目からなっています(思考記録表は必ずしも7つの項目からなるわけではありません。場合によって3項目の記録表などもあります)。次回は、続きの項目についてご紹介していきます。
認知行動グループ療法アシスタント Y 2006/08/30
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認知行動グループ療法通信No17 考え方でストレスの感じ方がかわる
みなさん、こんにちは。認知行動グループ療法アシスタントのYです。
日々の生活の中では、多かれ少なかれストレスを感じることがあるかと思います。例えば、新しい仕事を依頼される、いっぺんに多くの仕事をこなしていかなくてはならない、大勢の前で話さなくてはならない、苦手な人と一緒にいなくてはいけない、就職や入学試験など人から評価される場面を控えているなど。
これまで、ある状況に対して、「どのように捉えたか(考えたか)=認知」が、気分や感情を引き起こしていることをお話してきました。このような認知療法の基本的な考え方は、「ストレスの感じ方」にも当てはまるといわれています。つまり、ある状況に対する認知の仕方によって、ストレスの感じ方が変わってくるのです。
上に挙げた例はストレスを感じやすいと思われる状況ですが、その全ての状況に強いストレスを感じる方もいれば、特定のいくつかに強いストレスを感じる方、この中にはストレスを感じるような状況がない方もいるでしょう。ストレスを感じやすい状況というのは、人それぞれ異なってきます。
また、例えば、新しい仕事を依頼されたという状況があったとして、非常に強いストレスを感じる方もいれば、それほどのストレスを感じない方もいます。同じような状況に対して同じようにストレスを感じたとしても、その程度にはやはり個人差が認められるでしょう。
ストレスを感じやすい状況や感じるストレスの程度に個人差があるということは、ストレスの感じ方が、それぞれの人の「どのように状況を捉えたか(捉えているか)」という認知に影響されていることを示していると考えられます。
それでは、ストレスの感じ方に影響する認知とはどのようなものでしょうか?
ストレスの発生には2つの認知過程(判断過程)が関わってくると考えられています。1つはその状況が「どの程度脅威的であるか」という判断です。その状況を脅威的であると捉えるほど、ストレス反応は強くなります。例えば、新しい仕事を依頼された時、「この仕事を覚えることは自分には難しい」と考えたり、「失敗したら大変なことになる」などと考えると、非常に強いストレスを感じる可能性が高くなります。逆に、「初めてだから失敗したとしても仕方がないところもある」と判断すれば、強いストレスを感じることは少ないでしょう。
もう1つは、その脅威的な状況に対して「対処ができるかどうか」という判断です。仮に、ある状況が脅威的であると判断されたとしても、その状況に対して「○○のようにすればなんとかなる」のように、対処方法があると判断できれば、それ程大きなストレスを感じなくてすむ可能性が高くなります。例えば、新しい仕事を依頼された時、「仕事を覚えるのは難しいし、失敗したら大変なことになる」と考えたとしても、「以前に受けた仕事で使った道具が使える」とか、「以前に行なっていた仕事の○○のところを工夫すればできる」などと判断されれば、強いストレスを感じることは少なくなるでしょう。
ストレスは日常生活につきものですが、それが強くあるいは続きすぎると、心の健康を害する原因の1つとなり得ます。ある状況にストレスを感じた時、その状況に対してどのような判断をしているのか、それが妥当であるかどうか、立ち止まって見直すことができれば、思ったほど難しい状況ではないことに気付くことがあるかもしれません(ただし、個人の判断だけがストレスを発生させる要因ではありません。ストレスフルな状況に対して、改めて評価し直すことで、必要以上のストレスを感じることが少なくなるということです)。
参考文献:坂野雄二(著) 「認知行動療法」 日本評論社
認知行動グループ療法アシスタント Y 2006/08/22
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認知行動グループ療法通信No16 無力感を感じやすい考え方
こんにちは。認知行動グループ療法アシスタントのYです。
うつ病や抑うつ状態で悩んでいる方の中には、家事ができなかったことや、仕事での失敗をとりあげて、「自分には能力がない」、「自分の性格のせいで失敗した」などと考える傾向のある方がいらっしゃるようです。このように考えると、「これからもうまくはいかない」、極端な場合「自分には価値がない」などのような結論へとつながりやすく、ゆううつ感や無力感を感じることになります。
仕事で失敗した、家事ができなかったなど、ある結果が得られたとき、人は何が原因であったかを特定しようとします。このような「原因をどこに求めるか」という判断を、専門用語で「原因帰属」といいます。上の例では、家事ができない、仕事の失敗という結果について、自分の能力や性格に原因帰属した(原因を求めた)ことになります。そして、上の例では自分の能力や性格に原因を求めたために、無力感やゆううつ感を生じやすくなると考えられるのです。原因帰属は無力感やゆううつ感などと密接に関わっているわけです。
原因帰属はいくつかのパターンに分けられると考えられています。まず大きく、内的な帰属と外的な帰属の2つに分けることができます。内的な帰属とは自分自身に原因を求めることで、例えば能力や性格、体調や気分、努力などを原因として考えることです。一方、外的な帰属とは自分以外に原因を求めることで、例えば運命、相手の問題(例えば、「aさんは機嫌が悪かった」)や課題の問題(例えば、「この仕事は難しい」)などを原因として考えることです。
さらに、内的な帰属と外的な帰属は、時間が経過しても変わりづらい安定したものへ原因を求める場合と、時間経過に伴って変わりやすい不安定なものへと原因を求まる場合に分けることができます。例えば内的な帰属のうち、能力や性格は安定したもの、体調や気分、努力は不安定なものです。一方、外的な帰属では、運命は安定していますが、相手や課題の問題は不安定なものです。上の例では、自分の能力や性格に原因を求めているため、内的かつ安定したものへの帰属だといえます。
一般的に、失敗(うまくできない)という結果が得られたときに、内的で安定したもの―能力や性格に原因を求める傾向があると無力感などが生じやすいといわれています。自分の能力や性格が原因と考えるならば、「これからもうまくいかない」という結論が導かれるのは直感的にも理解できるでしょう。
つまり、うつ病や抑うつ状態で無力感を感じやすい方は、うまくいかなかったことについて、内的な帰属、特に自分の能力や性格などのような安定した(変えることが困難な)ものへと原因を求めている可能性があります。
何かを失敗して(例えば家事や仕事ができなかったことなどで)、「もううまくいかない」と無力感を感じていらっしゃる方は、「どうしてできなかったのか」、もう一度状況を整理し直してみると良いかもしれません。おそらく、自分の能力や性格以外の原因が見つかるはずです。認知行動療法では、そのようなお手伝いもさせていただいております。
認知行動グループ療法アシスタント Y 2006/08/15
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認知行動グループ療法通信No15 抑うつ状態の時は現実的?
こんにちは。認知行動グループ療法アシスタントのYです。
これまで、抑うつ状態の時には、不快な感情へと結びつきやすい認知傾向が多いこと、また、否定的な事柄を覚えやすく思い出しやすいことなどをご紹介してきました。確かに、これらのことは1つの事実であり、だからこそ、抑うつ状態が治療の対象となり、それに対して認知行動療法が効果的であるといえます。しかし、これらの事実は、ともすると「抑うつの時の認知はネガティブで悪いものなのだ」という考え方へと発展するかもしれません。事実、「抑うつ状態の人の認知がネガティブに歪んでいる」と主張する研究者もいます。
しかし、上のような主張とはまったく逆、つまり「抑うつ状態の時の認知は現実的なもので、健康な時(抑うつ状態ではない時)の認知にポジティブ(楽観的)なバイアスがかかっている」と主張する研究者がいて、このような主張を裏付ける実験結果が報告されています。
1つ実験をご紹介しましょう。どのように操作しても必ず勝つようにプログラムされたコンピュータゲームを抑うつ者と非抑うつ者に行ってもらい、ゲーム終了後「ゲームの結果について、自分でどの程度コントロールできたか」を評定してもらうという実験が行われました。その結果、非抑うつ者は「勝ったのは自分の能力のため」と、自分のコントロールを高く評価したのです。ゲーム自体は必ず勝つようにプログラムされていたわけですから、非抑うつ者には自分の能力を高く見積もる楽天的なバイアスがかかったと考えられるのです。抑うつ者にはこのような錯覚は認められなかったようです。
このように、抑うつ状態の時のほうが現実的な認知を行い、健康な時の認知が楽観的に傾いてきるという考え方のことを、「抑うつリアリズム」といいます。抑うつリアリズムは、上の実験のような「統制の錯覚」のほか、「成功への予期の評定」、「原因帰属(出来事の原因をどこに求めるか)」などの認知過程に認められるといわれています。あくまで、ある特定の認知過程において、抑うつリアリズムという現象が確認されることをおさえておいてください。
では、なぜ抑うつリアリズムという現象が認められるのでしょうか?1つの説明として次のようなことがいわれています。
抑うつのようにネガティブな感情が生起するということは、その固体(人間)にとって「安全ではない状態」におかれている可能性が高いということです。そのため、ネガティブな感情状態の時には注意深く細かい認知(情報の処理)を行う必要が出てくると考えられます。逆に、ポジティブな感情を経験しているということは、その固体(人間)にとって「安全な状態」におかれている可能性が高いことを意味しています。そのため、ポジティブな感情状態の時には、できるだけ自動的で単純で発見的な認知(情報処理)を行うことができるようになると考えられるのです。
今回は、抑うつリアリズムという現象についてお話してきました。このようなことを知っていただくだけでも、うつ病や抑うつ状態に対する見方が少し変わってくるのではないかと思い、お話しさせていただきました。ただし、抑うつ状態がある側面では現実的であるからといって、この状態が不快な感情や身体反応と結びつきやすいことにかわりはありません。抑うつリアリズムという現象は、抑うつ状態を治さなくてよいということを意味してはいません。
参考文献:丹野義彦(著) 「エビデンス臨床心理学 認知行動理論の最前線」 日本評論社
認知行動グループ療法アシスタント Y 2006/07/20
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認知行動グループ療法通信No14 うつ状態の時に思い出しやすいこと
こんにちは。認知行動グループ療法アシスタントのYです。
認知行動グループ療法では、過去の経験を思い出していただいて課題を進めていくことがあります。例えば、「いつも仕事で失敗する」と思っている方に、「仕事で失敗しなかった」あるいは「仕事で成功した」経験を思い出していただくことがあります。長い人生の中で、「すべて失敗してきた」という方は、まずほとんどいらっしゃらないので、このような質問をすると、たいてい「失敗しなかった」経験を思い出してくださいます。そして、「いつも失敗するわけじゃない」ということに気づかれます。
ですが、このような作業をお一人でやるとなると、なかなか難しいようです。「悪いことばかり思い出してしまう」という声を多く伺います。「いつも失敗する」という考え方は、「失敗したことばかりが思い出された」結果とも言えそうです。
それでは、なぜ悪いことばかりが思い出されるのでしょう?
認知心理学では「気分一致効果」と「気分状態依存効果」という現象が実験的に確認されています。簡単にご説明すると、気分一致効果とは「気分に一致した事柄を覚えやすくなったり、思い出しやすくなる」という現象で、気分状態依存効果とは「ある事柄を覚えたときの気分になると、その事柄を思い出しやすくなる」という現象です。つまり、うつ気分の時にはそれに一致するような否定的な事柄を覚えやすくなり、うつ気分が続くときあるいは再びうつ気分になったときは、その時に覚えた否定的な事柄を思い出しやすくなると考えられるのです。
このような現象があるということを知っていただくだけでも、より冷静にご自身の思考や感情をみつめることができるようになるのではないでしょうか。
認知行動グループ療法アシスタント Y 2006/07/14
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認知行動グループ療法通信No13 うつ状態に特徴的な考え方のパターン2
こんにちは。認知行動グループ療法アシスタントのYです。
梅雨に入って蒸し暑く、はっきりとしない天気が続いていますね。曇り空が続くと、どうも気分がのりづらいです・・・。これも、曇り空をどう捉えているかの影響があるのでしょう。「曇り空なら暑くならずにすむ」と思ったりしている方なら、それほど嫌な気分にもならないのかもしれませんね。
さて、今日も前回に引き続き、うつ状態に特徴的な考え方のパターンをご紹介します。このテーマについては、今日が最終回です。
(4)過大評価、過小評価
自分の問題や短所(予想にあう)を過大に、うまくいったことや望ましいこと(予想にあわない)を小さく捉えてしまうことです。例えば、コミュニケーションが下手だと思っていると、上手に話せなかったこと経験ばかりに意識が向いてしまい、上手に話せた経験にはなかなか意識が向かなくなります。
(5)自己関連付け
どんなことでも(たとえ自分ではどうすることもできないことでも)、自分の責任だと考えてしまうことです。例えば、自分の子供が学校で問題を起こしたとき、すべて自分の育て方が悪かったと思ってしまいます。客観的にみれば、子供が問題を起こしたとしても、学校の環境、(子供の)友人関係など、親の力だけではコントロールできない要因も関わっているはずです。このような、自分の力だけではどうにもできないことについても、自分のせいだと考えてしまう認知傾向が自己関連付けです。
(6)否定的予言
これから行うことについて、自分自身で否定的な結果を予測するために行動が制限され、予測通りの否定的な結果を得てしまうことです。例えば、大勢の前で話すことを苦手だと思っている人がスピーチを依頼されると、「スピーチなんてできない。声が震えるのではないか」と失敗するイメージばかりを考えてしまうでしょう。このように考えると、非常に強い不安を感じることになります。不安が強くなれば、たいていの人は発汗したり、手が震えるたり、声が震えたりするものです。つまり、上のように考えた人は、本番で予想通り声が震える可能性が高くなるわけです。
2回にわたって、うつ状態に特徴的な考え方のパターンについてご紹介してきました。前回もお話したように、自分自身にどのようなパターンがあるのかを知っておくことは、不快な気分を改善する上で大切なことです。そして、考え方のパターンを認識した上で、それを修正し(極端なものではなくし)、不快な気分に振り回されないようにしていくことが、認知行動療法の1つの目標です。
ところで、ここでご紹介したような考え方は、不快な気分を引き起こすということで、修正していく対象となりますが、必ずしもこれらの考え方が間違っているわけではありません。例えば、「べき思考」は公共性や倫理観といったものとも関わってきます。「うつ状態の時には、これらの考え方が極端になっているために問題となる」ということを、ご了承ください。
認知行動グループ療法アシスタント Y 2006/06/27
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認知行動グループ療法通信No12 抑うつ状態に特徴的な考え方のパターン
こんにちは。認知行動グループ療法アシスタントのYです。
抑抑うつ状態の時は、ゆううつ、悲しみ、いらいらなど、不快な気分を経験しやすくなります。これまでお話ししてきたように、認知行動療法では、このような気分が、「認知(ものの見方や考え方)」によって引き起こされると考えます。つまり、抑抑うつ状態の時は、不快な気分を引き起こすようなものの見方や考え方をしがちになるということです。
これまでの研究から、抑抑うつ状態の時に顕著な認知のパターン、つまり不快な気分を引き起こしやすいものの見方や考え方の型が存在することが分かってきました。今日は、抑抑うつ状態に顕著な認知のパターンについてご紹介しようと思います。抑抑うつ状態の時にどのような認知に陥りやすいかを知ることで、より客観的に自分自身をみつめることが可能となり、必要以上に不快な気分を感じることが少なくなると考えられます(実際に、認知行動療法で用いられるテクニックのひとつです)。
(1)白黒思考(全か無か思考)
物事をすべて白か黒か(あるいは0か100か)で考えようとしてしまうことです。例えば、「掃除、洗濯、炊事のすべての家事を完全に出来なければだめだ」というような考え方です。このような傾向を持っていると、仮に1部屋の掃除ができたとしても、「何もできていない、だめだ」と考えてしまうことになります。
(2)極端な一般化
少数の事実を取り上げて、全てのことが同じ結果になるだろうと決めつけてしまうことです。特に、抑うつ状態では、1つの否定的なできごとを取り上げて、すべてが否定的結果になると考えてしまいます。例えば、たまたま「就職の面接で一つが不合格だっただけなのに」、「どうせ俺には就職は無理」と考えてしまうような傾向です。
(3)べき思考
「(自分は、あるいは他人が)〜すべきだ」、「(自分は、他人は、あるいは物事は)〜であるべきだ」という考え方です。このような考え方は、自分に向かうと束縛であり、他人に向かうと要求(期待)となります。例えば、「主婦であれば食事を作るべきだ」という考えは、言い換えると「食事を作らなくてはならない」という考え方であり、自分を大変縛ることになります。また、「Aさんは約束の時間までに来るべきだ」という考え方は要求であり、その通りにならないとイライラなどの気分を引き起こします。
ご紹介したような内容については、グループ療法の中でもとりあげています。毎回、大半の参加者の方が「自分にも当てはまる」とうなずいていらっしゃいます。そして、「自分にはこういう考え方の傾向があったのか」と、改めてご自身の考え方のパターンに気づかれるようです。不快な気分を改善していく上で、「自分自身の考え方のパターンに気づく」ということはとても大切なことです。
次回も引き続き、抑うつ状態に特徴的な考え方のパターンをご紹介します。
認知行動グループ療法アシスタント Y 2006/06/20
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認知行動グループ療法通信No11 フォローアップグループが始まりました。
こんにちは。認知行動グループ療法アシスタントのYです。
ハートクリニックの認知行動グループ療法は全12回からなるプログラムですが、この過程を終了された方を対象に、引き続き認知行動療法を実践していただくためのプログラムであるフォローアップグループが5月22日(月)に始まりました(詳しくはホームページをご参照下さい)。そして、このフォローアップグループは、主に私が担当させていただくことになりました。
さて、前例のない第1回目のフォローアップグループということで、どのような進行が良いのか、ずいぶんと悩みました。結局、第1回目は自己紹介と復習をかねての全体討論という形で進めさせていただきました。慣れない進行ではありましたが、ご参加された方々に様々なご意見を出していただきまして、全体討論を進めていくことができました。復習をかねたこともあって、私が話す時間が長くなってしまったかもしれません。できれば、もう少しお一人お一人がお話しできる時間を作りたかったという思いが残りました。
そこで、第2回目(6月5日)は3人ずつの小グループでのディスカッションという形で進めさせていただきました。皆さんが熱心にタスクへ取り組んでこられたこともあって、1回目に比べると有意義に時間を使うことができたのではないかと思います。今後も、このような形でセッションを進め、適宜、ご質問をお受けし、アドバイスさせていただくことができればと思います。
なにはともあれ、「参加して良かった」と思っていただけるような時間をご提供できるように工夫していきたいと思います。よろしくお願いいたします。
認知行動グループ療法アシスタント Y 2006/06/12
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