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こころの病気のはなし > 専門編 >せん妄

せん妄

せん妄(アルコールおよび他の精神作用物質によらないもの)

Delirium, not induced by alcohol and other psychoactive substances

疾患の具体例

73歳女性、肺炎のため夜間に熱が上がり、救急搬送されました。

それまで認知症もなく元気でしたが、入院翌日から様子が変わりました。看護師が病室を訪れると、「早く家に帰らなくちゃ」と慌てて身支度をしています。

なんとかなだめて点滴による治療を続けたものの、夕方になるとうなり声をあげながら点滴を抜こうとしました。

その晩は、寝付けないようで怖い顔でぶつぶつ言っていましたが、肺炎が治るころには、もとのように元気になっていました。

 

特 徴

せん妄の有病率は年齢とともに上昇し、85歳以上では14%にのぼります。救急科を受診する高齢者は特に有病率が高く、10〜30%と推計されます。さらに集中治療中の患者では70〜87%に見られます。介護施設への入居中、または急性期治療を終えた状況の患者では60%も見られ、終末期の人すべての中では83%にまで及びます。

 

症 状

せん妄はさまざまな症状が見られます。まず、「注意の障害」は、話をしていても集中して聞くことができなかったり、無関係な刺激によって注意をそらされたりしやすくなる症状です。また、「意識の障害」は、自分はだれか、今どこにいるのかといった見当識の低下が見られます。

どちらの障害も、短期間のうちに発現するようになり、通常は数時間から数日間続きます。1日のうちでも変動し、夕方や夜間に悪くなる傾向があります。

また、ついさっきの記憶を失ったり、新しいことを覚えにくくなったりもします。「知覚障害」と言って、ものごとの誤認、錯覚、幻覚が表れる場合も見受けられます。人によっては情緒が不安定になり、不安、恐怖、抑うつ、いらいら、怒り、多幸症、無気力などを示します。大声で叫んだり、ののしったり、ぶつぶつ言ったり、うなり声をあげたりすることもあります。

なお、せん妄は睡眠−覚醒の周期とも関連しています。日中の眠気や、昼夜逆転、夜間の焦燥感、入眠困難、1日を通じての過剰な眠気、夜間を通じた覚醒などが起こることもあります。

 

原 因

せん妄を起こしたり、悪化させたりする要因は「環境要因」と「遺伝要因・生理学的要因」に分けられます。環境要因としては、身体の機能障害、寝たきり、転落の既往、活動の少ない生活などが、せん妄になるリスクを高めるとされています。

一方、遺伝要因・生理学的要因には、認知症および軽度認知症が関係しています。ともにせん妄の危険を上昇させ、その経過を複雑にすると言われています。

 

治 療

せん妄を治すには、もとになっている病気を治療することが先決です。また、療養中の環境に気を配ることも、回復を後押しすることが分かっています。せん妄患者は、部屋の中に友人や親戚、もしくは決まった付添人がいることで落ち着きます。よく知っている絵や時計、カレンダーなども安心感を与えますから、入院中の病室に持ち込むのもいいかもしれません。

なお、精神病症状がある場合は、「ブチロフェノン系」の向精神薬。不眠症状には、「ベンゾジアゼピン」などによる薬物療法も行われます。

 

経過・予後

せん妄の症状は、たいてい完全に回復します。早期発見でき、早めに医療機関を受診すれば、回復までの期間が短くなります。しかし、基礎となる病気の治療をしていなければ、昏迷、昏睡、けいれん、または死へと発展する可能性もあります。入院中のせん妄患者の致死率は40%と高く、特に悪性疾患や他の基礎医学的疾患のある患者は、診断後から1年以内に死亡します。

また、せん妄によって認知症が進行するという説もありますが、明確にはわかっていません。うつ病や外傷後ストレス障害は、せん妄に引き続いて生じることがあると言われています。

 

診断基準:ICD-10

確定診断のためには、以下のいずれの症状も軽重にかかわらず存在しなければならない。

  • 意識と注意の障害(意識は混濁から昏睡まで連続性があり、注意を方向づけ、集中し、維持し、そして転導する能力が減弱している)。
  • 認知の全体的な障害(認知のゆがみ、視覚的なものが最も多い錯覚および幻覚、一過性の妄想を伴うことも伴わないこともあるが、抽象的な思考と理解の障害で、典型的にはある程度の思考散乱を認める。即時記憶および短期記憶の障害を伴うが、長期記憶は比較的保たれている。時間に関する失見当識、ならびに重症例では場所と人物に関する失見当識を示す)。
  • 精神運動性障害(寡動あるいは多動と一方から他方へと予測不能な変化、反応時間延長、発語の増加あるいは減少、驚愕反応の増大)
  • 睡眠−覚醒周期の障害(不眠、あるいは重症例では全睡眠の喪失あるいは睡眠−覚醒周期の逆転、昼間の眠気、症状の夜間増悪、覚醒後も幻覚として続くような睡眠を妨げる夢または悪夢)。
  • 感情障害、たとえば抑うつ、不安あるいは恐怖、焦燥、多幸、無感情あるいは困惑。 発症は通常急激で、経過は1日のうちでも動揺し、全経過は6ヵ月以内である。上記の臨床像は特徴的であるから、基礎にある疾患が明確でなくても、かなりの確信をもってせん妄の診断をくだすことができる。診断が疑わしいときには基礎にある脳あるいは身体疾患の既往に加え、脳機能不全を示す証拠(たとえば、必ずとは言えないが通常、背景活動の徐波化を示す異常脳波)が要求されるかもしれない。

 

診断基準:DSM-5

  1. 注意の障害(すなわち、注意の方向づけ、集中、維持、転換する能力の低下)および意識の障害(環境に対する見当識の低下)
  2. その障害は短期間のうちに出現し(通常数時間〜数日)、もととなる注意および意識水準からの変化を示し、さらに1日の経過中で重症度が変化する傾向がある。
  3. さらに認知の障害を伴う(例:記憶欠損、失見当識、言語、視空間認知、知覚)
  4. 基準AおよびCに示す障害は、他の既存の確定した、または進行中の神経認知障害ではうまく説明されないし、昏睡のような覚醒水準の著しい低下という状況下で起こるものではない。
  5. 病歴、身体診察、臨床検査所見から、その障害が他の医学的疾患、物質中毒または離脱(すなわち乱用薬物や医療品によるもの)、または毒物への曝露、または複数の病因による直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある。

 

※参考文献

『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)

『IDC-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)

『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)

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