家族教室
2005年度第5回 家族会報/家族教室開催報告
2005年6月5日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケアセンター
講 師:池沢 佳之・剱持 慈子(ハートクリニックデイケアセンター スタッフ)
テーマ:「デイケアについて」
梅雨入り間近なすっきりとしないお天気の中ではありましたが、15名のご家族の方々にご参加いただくことができました。
今回は、「デイケアについて」とのテーマで、ハートクリニックデイケアセンターのスタッフ2名により、精神科デイケアの概要、及び、ハートクリニックでの運営の実際が紹介されました。セミナーは、前回同様、参加者に配付されたレジュメに基づき、スライドを使用して行われました。
「デイケア」とは?
セミナーではまず、「デイケア」の定義が紹介されました。「デイケア」の教科書的な定義は、“在宅の障害者に対して、外来治療では十分に提供できない医学的、心理社会的治療を、週数日、1日数時間以上、包括的に実施する場”といったもののようです。しかし、このような定義を聞いて、実際に、具体的に「デイケア」のイメージを思い浮かべられる方というのは、どれほどいらっしゃるでしょう。
セミナーでは、いまひとつイメージしづらい「精神科デイケア」について、説明されました。
精神科デイケアの意義
さて、それでは、精神科デイケアは、利用者にとって、どのような益をもたらすのでしょうか?セミナーでは、9つの利点が述べられました。順に、要点をまとめてみましょう。
1.外に出るきっかけとなること
病気のために家に閉じこもりがちとなっている方にとっては、日中、行くところがあるということは、生活のメリハリや、社会との接点を持つという点で意味があります。
2.色々な人と出会えること
デイケアを利用することによって、医療スタッフだけでなく、他メンバーなど、様々な人と自然な形での交流がもてます。また、他者と悩みを共有することができます。デイケアの優れた機能として、メンバー同士の支え合いを体験できる、という点があります。
3.様々なプログラムに参加出来ること
何らかの活動を行うことにより、達成感や 喜びを感じたり、他者との共同作業を通じて、交流を促進することができます。
4.自由に過ごせる場があること
デイケアが「安全基地」の機能を果たし、たとえストレス状況に陥っても、デイケアを利
用することで、一時的に退避することができます。
5.スタッフに相談できること
悩みや心配ごとを、様々な専門的背景をもったスタッフにじっくりと相談できます。
6.医療機関スタッフの目が届いているということ
スタッフは、メンバーと生活時間の一部を共にすることになりますが、再発・発症が起こった際に、迅速に主治医と連携が取れます。
7.食事を提供すること
きまった時間に食事をとることができます。 家族の団欒のような、暖かい雰囲気の中で食事する、という機会をもてます。
8.目標を持てるということ
社会の縮図ともいえるデイケアの中で、目標をもって活動することができます。そして、身近な目標の達成を数々経験することが、社会への一歩を踏み出しやすくします。
9.他の機関や同じ機関の中のサポートとの連携
デイケア以外のサポートを組み合わせ、情報交換など、連携をとることで、より包括的にメンバーをサポートすることができます。
こうした点を見てくると、デイケアの最大の意義とは、利用者が外の社会へ一歩を踏み出す前に、“サポートを受けられる”という保障のもとに、人間関係を練習できることである、といえそうです。
デイケアの実施機関
では、こうしたデイケアは、どのようなところで実施されているのでしょうか?
利用者側としては気になるところですが、意外にも、身近な、様々な場所で実施されているようです。セミナーで紹介された実施機関としては、病院、クリニック、保健所、精神保健福祉センターなどがあります。
そして、それぞれに、特徴があるようです。たとえば、病院で実施されているものは、退院後の患者さんへの居場所の提供を主な目的としており、継続医療の色合いが強いようです。また、クリニックのデイケアは、通院されている患者さんの利用が主で、病院くささがなく、街中の利便性の良い場所にあることが多く、利用しやすい、という特徴があるとのことでした。実施機関ごとに、利用できる頻度や実施内容などに違いもあるようです。利用する前に、色々と調べて、自分に合ったものを選ぶことも大切なようですね。
デイケアの三大要素
セミナーの中では、デイケアという場を舞台にたとえて、その機能が説明されました。
それによれば、メンバーが主役、スタッフは脇役、プログラムが舞台装置、とのことでした。メンバーは、サービスを提供される存在ではあるのですが、デイケアでは、メンバー自身の持つ自然回復力を信じます。また、他メンバーと交流・情報交換を行うことにより、個々人の回復力が相互に作用していると考えます。よって、デイケアという舞台の主役はあくまでメンバー自身であり、スタッフは、メンバーがそうした回復力を発揮しやすいように援助することに努め、脇役に徹します。そして、プログラムは、役者(メンバー、スタッフ)が演じるストーリーを成立させる仕掛けや舞台装置ということになります。何となく、イメージが湧くでしょうか?
ハートクリニックデイケアの実際
以上のように、精神科デイケアの概要が説明された後、ハートクリニックで実施されているデイケアの実際について、紹介されました。
ハートクリニックのデイケアを利用されている方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか?開設からおおよそ1年半の間に、登録手続きを行った方が、106名、性別の内訳は、半々、といったところのようです。年齢としては、平均25.3歳と、比較的若い方の利用が多いのが特徴的です。しかし、中には40代の方もいらっしゃるとのこと、幅は広いようです。こう聞くと、活動にあたって、年代の差が気になるところですが、実際には、年代の差が活動の妨げになることは、スタッフとしてはさほど感じない、といったことでした。
ところで、デイケアのプログラムには、どのようなものがあるのでしょうか。セミナーでは、6月よりスタートした新プログラムの一覧表が配付されました。紙面の都合上、個々の種目をここで紹介することはできませんが、その特徴について、次のような説明がありました。大きな特徴として言えることは、種目の性質に幅を持たせている、ということがあるとのことです。5月まで行われていたプログラムには、どちらかというと“レクリエーション的”な色の濃いものが多く、内容に偏りが生じていたそうです。スタッフの間にも、そのような問題意識があり、また、メンバーからの声にも、楽しむためのものだけでは物足りない、デイケアの活動に意義が見出せない、といったものがあったようで、そうしたことから、6月のプログラム改変に伴い、プログラムの内容に幅を持たせるような努力がなされたということです。その結果として、手工芸のような作業的なものからレクリエーション的なもの、そして、就労ミーティングや心理教育といった、教育的なものまで、新しい種目が加わりました(プログラムの詳細については、クリニック・デイケアで一覧表を配付しています。関心をお持ちの方は、お気軽にお申し出ください)。
スタッフの役割
スタッフの役割として、先に、「脇役」という表現が出てきましたが、デイケアのスタッフは、具体的にはどのような役割を果たすのか、は気になるところではないでしょうか。そもそも、デイケアのスタッフには、どのような職種があるのでしょうか。
デイケアにかかわるスタッフの特徴として、セミナーではその多様性が述べられていました。“リハビリテーション”と名のつく領域では、多職種が集まってチームを形成していることが珍しくありません。しかし、デイケアでは、施設基準として、かかわる職種の割合が規定されている、ということも幸いして、そのバランスの良さが、際立った特徴となっているそうです。
ハートクリニックのデイケアにかかわっているスタッフの職種には、精神科医、看護師、精神保健福祉士、心理士、があるとのことです。それぞれが、それぞれの持つ専門的背景を活かした役割をとり、デイケアの運営にあたっているとのことでした。
ここで特記すべきは、デイケアでは、さまざまな専門性をもったスタッフが、ばらばらに、個別に動くことはない、ということです。スタッフ全員が、メンバー全員を見ていく、ということです。デイケアを利用するメンバーは、多種多様な悩みをもって、日々を過ごしていることを考えれば、1つの領域に長けたスタッフの対応だけでは、絶対的にサポートが不十分になることは、想像できる気がしますね。
また、ハートクリニックのデイケアでは、メンバー1人に対し、1人のスタッフが個別担当者としてかかわりますが、たとえば、自分の担当スタッフが心理士だった場合、具体的な体調の不調に関しては、看護師である他のスタッフに相談する、などのことが自然に行われるのも、デイケアにおける特徴のひとつではないでしょうか。
スタッフとして大切にしていること
デイケアにかかわるスタッフには、独特の、心がけるべき事項があるようです。
まず、メンバーを「援助しなくては」と思うあまり、過保護・過干渉になり、かえってメンバーの自発性を妨げることにならないようにすることが挙げられました。そして、メンバーの、診断名にこだわらず、「生活のしづらさ」に焦点をあてた援助をすること。さらに、デイケアが、「楽しむ場」であるとともに、「苦しい」「つらい」感情を出して良い場となるようにすること、ということが述べられました。確かに、「苦しい」「つらい」感情は、外の社会ではなかなか表出しづらいものです。しかし、どこでも吐き出せないそうした感情を出せる、守られた場であることも、デイケアには必要なことでしょう。
他には、グループでの活動が多くなるデイケアにおいて、スタッフは、グループの動きだけに目を奪われてはいけない、ということが挙げられていました。全体をつくっているのは、個人のメンバーだ、ということを忘れないようにしている、とのことでした。
デイケア参加後の経過
デイケアに参加したメンバーには、どのような変化がみられるのでしょうか。それぞれ、個人差はあるものの、概ね、次のような経過を辿ることが多いようです。まず、知らない場・集団へ参加することに対する不安と緊張を強く経験する初期。次に、徐々にデイケアという場に慣れ、集団に入り始め、プログラムへの参加も安定し、定期的な通所が可能となる中期。そして、体力的にも余裕が生まれ、関心がデイケアの外へ向き、デイケアの通所に物足りなさを感じる後期へと向かいます。
セミナーは、こうした経過を辿った後のメンバーの進路について、就職(学)・復職(学)する方もいれば、作業所や授産施設を利用する方、家庭での活動を再開される方など、社会復帰の形は様々であり、どんな薬にも副作用があるように、イケア利用中、残念ながら病状が悪化し、入院へ至るケースもあることを説明し、やや、予定時間を超過しての終了となりました。
まとめにかえて
今回のセミナーでは、今まで、知られているようで知られていない「精神科デイケア」について、系統的に紹介されたように思います。こころのトラブルに対する治療というと、個人対個人の治療が真っ先に思い浮かべられるきらいがありますが、こうした集団を利用した(しかも、メンバー同士の相互作用を重視した)治療法にも、もっと注目していきたいものです。
2005年度第5回 家族会報/定例会報告
日 時: 2005年6月5日(日)17:00~18:00
場 所: ハートクリニックデイケアセンター
大型連休に重なる日程となったにもかかわらず、19名と、多数のご家族の方々にご参加いただくことができました。診察時間の延長のため、やや遅れて会場に入った浅井先生の簡単な挨拶の後、早速、講演が開始されました。講演は、参加された方に予め配付されたレジュメに基づき、スライドを使用して行われました。
今回の定例会では、セミナー部分に関連して、デイケアについての意見交換がなされ、その後に、現在、患者さんへの対応に困っていることについて、ディスカッションが行われました。
デイケアについての意見交換の中で、印象的なものがありましたので、掲載させて頂きます。
最近デイケア利用を開始されたばかりの患者さんのご家族さまからの体験談です。
そのご家族さまは、患者さんの病気・障害を、当初はなかなか受け入れることが出来ず大変なご苦労をされたということでした。そのために、患者さんに対して、どのように対応してよいのか、また、患者さんが自閉的な生活を送っていることに対し、病気ではなく、本人のやる気の問題なのではないか、などと考え、つらくあたってしまったこともあったということです。しかし、そうしたご本人、ご家族ともにつらい時期の中から徐々に、ご家族は次のようなことに気づかれた、というのです。それは、「本人は、決してなりたくて病気になったわけではない」ということです。
一見、当たり前のことのようですが、つらいときには、つい、忘れてしまいがちな視点ではないでしょうか?体験を語られたご家族さまは、この事実に気づいたときから、全てが変わったと述べ られました。そうした視点をもつことによって、ご家族には、本人をひたすら「受け入れよう」という態勢が整い、ご本人は、家庭でのいづらさが軽減されたそうです。そして、そうしたご家族の理解のもと、デイケア通所を開始した患者さんは、病気を持ちながらも、明るく、生き生きと生活する他メンバーと接することによって、その姿に自らの将来を重ねあわせ、希望をもって生活することができるようになったそうです。
体験を語ってくださったご家族さまの強調されたことは、2点。誰も、望んで病気になったわけではないということを十分に認識すること。そして、病気を持ってしまった本人のあるがままをひたすら受け入れてあげること。
患者さんの病気と付き合う上での極意を教わったような気がします。何にせよ、こうした境地に至るまでには、想像を超えるご苦労があったことでしょう。貴重な体験をお話いただき、ありがとうございました。