家族教室
2005年度第7回 家族会報/家族教室開催報告
2005年8月7日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケアセンター
講 師:剱持 慈子(ハートクリニックデイケアセンター スタッフ)
テーマ:「セルフ・ケア~見過ごしていませんか?あなたの健康~」
8月最初の日曜日、猛暑の続く中ではありましたが、11名のご家族の皆さまにご参加頂くことができました。
これまで、6回、ハートクリニック家族教室を開催させていただきましたが、セミナーの内容としましては、病気そのものに関わることや、患者さまのことなどがテーマとなってきました。そこで、2005年第7回となる今回は、視点を変えて、「セルフ・ケア~見過ごしていませんか?あなたの健康~」とのテーマで、日頃、患者さまとともに生活する、ご家族自身の健康について考えました。
なお、年頭の予定では、8月のテーマは「家族のかかわりについて」となっておりましたが、前回の内容と重複する点も多いため、内容を変更させていただきましたことを、ご了承ください)。
より効果的な援助のために
患者さまの病気からの回復や再発の防止には、医療スタッフだけでなく、日頃、一緒に生活をしていらっしゃる、ご家族の皆さんの協力を欠かすことができません。
このことは、色々な場所で、すでに聞かれてきたことと思います。では、ご家族が、より効果的に、患者さまの援助を行なっていくために必要なこととは、一体何でしょうか?それは、ご家族自身の、ゆとりある生活であると言えます。ここで、ご家族自身の生活を、少し、見つめなおしてみたいと思います。
日頃、どのようなことにエネルギーを使っていますか?
生活全体をひとつの円と考えたとき、皆さんは、次に挙げるような4つの事がらは、どのくらいの大きさを占めるでしょうか?(セミナーでは、統合失調症を患う息子さんをお持ちのAさんの場合を例として挙げ、その後、セミナーに参加されている皆さんも、それぞれ、白紙の円グラフにご自身の状況をご記入されました)。
患者さんを抱えるご家族は、仕事や家事、患者さんのことに気を配るあまり、自身のことが二の次となってしまうことも少なくないようです。皆さん、本当に患者さんの回復のために、尽力されているのですね。
こころの病気の特徴
さて、こころの病気はご本人にとっても、そして、ご家族にとっても、大変つらいものです。それには、こころの病気ならではの特徴が大きく作用しているようです。セミナーでは、こころの病気の特徴として、6点が挙げられました。第一に、回復するまでの期間が比較的長いこと、第二に、いろいろな意味で不確かな点が多いこと、第三に、一時的な緩和を得るにも、比較的多大な努力が必要であること、第四に、患者さんの生活にとってきわめて侵害的であること、第五に、多様な補助的サービスを必要とすること、第六に、費用がかかること、がそれです。こうした特徴により、患者さんと生活しているご家族は、将来の見通しを立てることができない不安や焦りを感じたり、心身ともに疲れてしまったり、という生活の困難を感じてしまうようです。
私たちの日常は、さまざまな出来事の連続ですが、患者さんを家族に抱えることは、こうした日常に加えて、先に挙げた病気の特徴と世間の偏見(たとえば遺伝、不治、危険)を抱えることであり、誰にとっても大変なことと言えるでしょう。
ご家族の皆さまが、患者さんのことを思い悩む気持ちや、その回復や支えのためなら自分を犠牲にしても何でもしてあげたいと思うお気持ちは、ごく自然なことです。しかし、ご家族あっての患者さんでもある、ということを、どうか忘れないで下さい。
病気が引き起こしやすい家族の感情
皆さまは、ご自身が抱えているストレスをどのくらいだと思われますか?
患者さんを抱えていれば、色々な気持ちが湧いてきて当然です。人は些細なことでも心を揺さぶられてしまうものです。揺さぶられまいと我慢すると、かえって辛くなることもあります。
次に挙げるような気持ちは、ご家族がしばしば経験される感情だと思いますが、皆さまの場合はいかがでしょうか?チェックしてみましょう。
- 病気の説明をきちんと受ける機会に乏しく、戸惑い、理解に苦しむ
- 本人の苦しそうな様子を見ると、助けてあげられない自分がいらだたしくなる
- 何とかしたいと一生懸命なのに、本人の様子が変わらず、情けなくなり。腹が立つ
- 何かにつけて本人のことが気がかりで、いつも頭から離れない
- 病気自体が不安定な様子なので、はらはらさせられる
全部あてはまる、という方も、どうぞがっかりしないで下さい。このような気持は、一生懸命であればあるほど、生じてくるものです。こういう気持ちでいっぱいのときには、「私の気持は○○です」という言い方で、誰かに気持ちを伝えられる機会を持てると良いですね。怒りや悔しさ、悲しみなどの気持ちをどこかで言葉にすることで、ほんの少しは楽になるものです。
さて、これらの気持ちは、大きく、2種類に大別されます。1つは、「相手(患者さん)を批判する気持、拒否したい気持、批判的な気持」と言えます。もう1つは、「(患者さんを)心配するあまり、距離がとれずに巻き込まれている気持」と言えます。
前者は、患者さんといること自体がストレスに感じてしまってなかなか患者さんの暮らしの支援までするゆとりのない状態のときに、出やすいと言われています。また、後者は、患者さんのことを思い、ケアに多くの時間を割いているにも関わらず、なかなかうまくいかず、生活に困難を感じてしまっているときに、ますます過保護、過干渉になってしまい、出やすい気持といわれています。
どちらにせよ、ご家族が患者さんとともに生活すること自体に困難を感じてしまっていると、ネガティブな感情が湧きやすい、ということが言えるでしょう。このことからも、まず、ご家族自身が楽になることが必要と言えます。
では、逆に、ご自身の気持ちにゆとりがあるときというのは、どのような感情が湧いてくるものなのでしょうか?皆さんは、次のような気持をもつことはないでしょうか。チェックしてみましょう。
- 本人は、皆にとても気を遣ってくれる優しい人だ
- 病気になって、本人自身がとても苦しいのだと思う
- ときどき、本人の思いやりがわかってうれしくなる
- 本人の良いところを、3つはすぐに挙げることができる
- いろいろ大変なことはあるが、何とかなるとも思う
こうした感情は、ご家族の生活のしづらさが減り、ストレスに上手に対応できる状態で、自然と湧いてくるものです。こうした感情を、日頃からもつことができている方は、すでに、患者さんの病気と上手に付き合う工夫のいくつかをみつけていらっしゃるのですね。どのような工夫をされているのでしょう?そうした工夫が、暮らしの上で、大切な知恵となります。
ご家族自身の健康について(大切な4つのポイント)
患者さんと生活されているご家族の皆さんは、病気のこと、患者さんの言動や行動などに大変気を配りながら、毎日精一杯、暮らしていらっしゃることと思います。本当に大変で、お疲れになることも多いかと思いますが、ご自身の健康状態はいかがでしょうか?
ストレスの高い状況にあると、疲れるのは当たり前です。中には、もともと身体の病気をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。「一病息災」という言葉がありますが、皆さんは、それなりの健康といったものを保っていらっしゃると思いますか?
ここでは、次に挙げるポイントについて、確認してみましょう。
(1) ご家族自身の健康診断や通院の時間を確保しましょう
ご自身の健康診断を定期的に受けられなかったり、忘れたりしていませんか?少しくらい具合が悪くても、つい我慢していませんか?ご自身の受診・通院は後回しになっていませんか?
心あたりのある方は、ご自身のことを二の次にしても、頑張ってしまう傾向があるのかもしれません。しかし、身体の調子が悪かったら、何をおいてもまず、受診・通院の時間を確保しましょう。つらいときにはぎりぎりまで我慢せず、SOSを発し、十分休養して調子を取り戻しましょう。
(2) 睡眠を十分とりましょう
患者さんが遅くまで寝ないときや、調子の悪いとき、少し無理してでも起きていることがありませんか?ストレスがたまって眠れないことがありませんか?
睡眠は、身体の疲れやストレスを癒し、健康を維持していくための大切な要素です。また、浅い睡眠や極端に短い睡眠では、心身の回復を図ることはできません。起床・就寝時間を一定に保ったり、日中、適度に身体を動かしたり、自分の時間を作ってストレスを発散したり・・・良い睡眠のために、少しだけ工夫してみましょう。不眠がちのときには、遠慮せずに医師に相談しましょう。辛いときには薬の力を借りるのも良いことです。
(3) 食事をしっかりとりましょう
悩みがあると食事も喉を通らない、などと言いますが、皆さんは、毎日美味しく食事することができていますか?一日3回規則的にとる、バラエティーに富んだメニューを心がける、誰かと一緒に食べる、家族で協力して作る・・・など、色々工夫をして美味しく、そして楽しく食事ができるようにしたいものですね。
ただし、作る人が疲れてしまったら、無理せず、他の人に協力を求めたり、外食する、出前をとる、などして楽することも必要です。楽しい食事は楽な準備から!
(4) 身体を動かすことをこころがけましょう
皆さんは、心地よく身体を動かすことができていますか?身体を動かすことは、体力の維持・老化防止に役立ちます。日中、適度に体力を使うと、ストレス解消にも、良い睡眠にも繋がります。散歩に出掛けてみたり、買い物を楽しんだり、軽い体操をしたり、サークル活動に参加してみたり・・・といったことはどうでしょう?気を遣わずに、身体を使いましょう!ただし、疲れているときには、無理せず、休養第一にしましょう。
セミナーでは最後に、これまでの人付き合いの大切さが強調されました。
ある調査では、こころの病を持つ患者さんを抱えるご家族は、他者に援助を求めることに対する抵抗感が強い、という結果が提出されています。しかし、その一方で、支えとなる存在について、情報や知識の提供は専門家や医療関係者、気持ちの支えとなるのは友人や親戚、同病者家族、との回答が得られているそうです。つまり、ご家族の心の拠りどころとなるのは、これまでにはぐくんできた人との繋がり、ということが言えるのです。「世間体もあるし・・・」
「自分だけが楽しんでは申し訳ない・・・」などと気兼ねせずに、ご自身の仲間と過ごす時間を大切にしてください。今までお付き合いをしていたお仲間も、あなたと楽しいひとときを過ごしたいと考えていることを忘れないでください。
まとめにかえて
今回のセミナーの内容について、「いまさら・・・」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、こころの病気をお持ちの患者さんを抱えるご家族にとっては、本人のことを思い、心配するあまり、ご自身の健康を見過ごしてしまいやすいものです。そこで、ここではご家族自身の健康について、あえて取り上げてみました。
今、患者さんの病状のことで精一杯で、とてもご自分のことまで考えられない、という方もいらっしゃって当然だと思います。しかし、そういった状況でいくらかでも、疲れないコツとか、ヒントを得られると良いですね。
2005年度第7回 家族会報/定例会報告
日 時:2005年8月7日(日)17:00~18:00
場 所:ハートクリニックデイケアセンター
今回は、10名のご家族の方にご参加いただきました。人数の関係上、グループを2つに分けることはせず、全員で1つのグループを作りました。また、初めて参加される方もいらっしゃいましたので、前回に引き続き、グループディスカッションの意義などを説明全員で順次、簡単に自己紹介を行った後、現在、困っていることや、他のご家族の方に聞いてみたいことなどを話し合いました。
今回のディスカッションで主に取り上げられたのは、服薬の問題でした。
あるご家族の方は、患者さまに薬が処方されること自体に疑問をお持ちとのことでした。患者さまの状態が、本当に薬が必要な「病気」であるとは考えにくい、と。またあるご家族の方は、患者さまが医師の指示通りの服薬をしていないことに、不安を感じていらっしゃるとのことでした。その患者さまは、薬の作用によって思考が妨げられるような感覚に抵抗を感じて、ご自身で何とかコントロールしようとされているようです。そして、またあるご家族の方は、薬を飲んだことによって、病状が悪くなったように見えてしまう、とのことでした。
活発に意見が交換され、時間が足りないと感じられるほどでしたが、そうした中で実感されたのは、患者さまの病気やその治療について、ご家族の受け止め方には、それぞれに段階がある、ということでした。それは、意見交換の中で、現在は服薬について、ごく当たり前のように患者さまを援助されているご家族の方も、決して治療開始当初から、薬について疑問を持っていなかったわけではない、といった体験談が、複数語られたことや、また、以前は、服薬によって病状が悪化しているように見えていたが、後になって振り返ると、病状の波の激しい時期と薬の調整の時期が重なっただけであったことが見えてきた、との意見が語られたことから感じられたことです。
こころの病気は、身体的な病気に比べ、治療を受ける側にとって、まだまだ不確かな要素が多く、その治療経過についても不安をお持ちになることもあるかと思います。そうした不安をお一人で抱え込まず、同様な経験をされた他のご家族の方との交流の場として、家族教室をご活用頂ければ、と思います。