家族教室
2006年度第5回 家族会報/家族教室開催報告
2006年6月4日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケアセンター
講 師:ハートクリニック看護師
テーマ:「心の病の看護―家族の悩みとかかわり」
梅雨入り間近の、はっきりしないお天気にもかかわらず、今回も大勢のご家族の方においでいただくことができました。
今回は、「心の病の看護~家族の悩みとかかわり~」と題して、ハートクリニックの外来とデイケアを兼任する看護師より、心の病をもつ患者さんへの、家族のかかわり方について、その留意すべき点、医療スタッフからお願いしたい点、などについて、レジュメに基づいて説明されました。
家族のかかわりにおいて大切な点
心の病を持つ患者さんへ、ご家族の方がかかわる際、重要となるのは、いったいどのような点といえるのでしょうか?セミナーでは、大きく次の2点が挙げられました。それは、(1)病気に対する理解、(2)治療に対する理解、の2点です。順に、その2点がなぜ大切なのか、をまとめてみましょう。
まず、(1)の「病気に対する理解」についてです。これは、病気の種類(身体的なものでも、精神的なものでも)にかかわらず、共通することでもあると考えられますが、まず“敵を知ろう”ということです。たたかう相手の正体を知らずしてたたかえない、ということですね。なかでも、心の病気は身体的な病気や、怪我と異なり、ご本人が、どのようなことに苦しみ、困難を感じていらっしゃるのか、外側からは、なかなかわかりにくいところがあります。ですので、他の病気の場合よりいっそう、身近な存在である、ご家族の方の理解が、ご本人の病気の治療に大きな力を発揮するのです。
次は、(2)の「治療に対する理解」についてです。ともにたたかう相手のことがわかったら、次に必要となるのは、その相手を打ち負かすために有効な手段には、どのようなものがあるのか、そして、その手段は、どのような手順で行われるべきものであり、どのような効用があるのかを知る、ということなのではないでしょうか?手段について、正しく理解できれば、より効果のある方法を、適切に、そして、先の見通しをもって用いることができるでしょう。
病気に対する理解
それでは、病気を理解するためにできることとは、どんなことでしょうか?
現在は、一般の書店でも、心の病に関する書籍がたくさん陳列されています。また、インターネット上でも、多種多様な情報が提供されています。そして、地域でも、心の病をテーマとした講演会などが、以前に比べれば、頻繁に開かれるようになってきています。もちろん、こうしたものを片端から利用されるのも、1つの方法でしょう。しかし、これらの、身近に氾濫する情報を、患者さまやご家族自身のために、本当の意味で効率よく“活用”するためには、他に欠かせないものがある、と考えられます。それは、患者さまの病気は何なのか、そして、現在、どういった段階にあるのか、今後、どのような経過をたどっていく可能性があるのか、ということを、正確に把握することではないでしょうか。それには、主治医の説明を受けることが第一歩となるでしょう。
セミナーでは、前回の家族教室の際に、実施させていただいたアンケート(有効回答数28)の結果が報告されましたが、その中で、医師からの説明を受けた経験の有無をご回答いただく項目についての報告がありました。そこでは、半数以上の方が「医師からの説明を受けたことがある」とお答えになっていました。アンケートでは、受けた説明の内容まではお聞きしていませんが、少なくとも、多くの方が、医師から患者さまの病気について、1度は何らかの説明を受けたことがある、ということでしょうか。しかし、その一方で、患者さまの年齢が27歳以上のご家族の回答を見てみると、そのほとんどが、医師からの説明を受けていない、という結果が得られました。 27歳といえば、じゅうぶんな大人、ということで、診察に同席したりすることをためらわれる、ということもあるのかも知れません。また、患者さまご本人が自身の治療にご家族がかかわることに、抵抗がある場合もあるかもしれません。しかし、年齢に関係なく、ご家族には、ぜひ、患者さまの主治医から、病気や治療について、詳しい説明を受けていただきたいものです。そして、患者さまの病状や、現在、受けている治療などについて、正確な知識を持ちましょう。
主治医とコミュニケーションをとることはまた、ご家族が知識を得るというだけでなく、医師も、患者さまご本人からだけでは得られない、ご家族から見た、気になる症状や、普段の様子などを、詳しく知る良い機会となります。多くの情報があればあるだけ、治療にとっては有益です(患者さまと同席しての受診が難しい場合には、個別に医師とお話しいただけます)。診察場面を、ご家族は、正確な情報を得る場として、また、医師に、より多くの情報を伝える場として、積極的に活用していきましょう。
余談ですが、短い診察時間を効率よく利用するためには、事前に、医師に聞きたいこと、伝えたいことを整理して、メモにまとめておくと便利なようです。
治療に対する理解
医師の指示のもと、行われる心の病の治療法としては、さまざまなものがあります。たとえば、グループセラピー、認知行動療法、行動療法、リラクセーション、プレイセラピー、表現療法、森田療法、内観法、精神分析、アニマルセラピー、精神科デイケアがその代表的なものとして挙げられます。しかし、数ある治療法の中で、精神科治療の中心となるのは、薬物療法です。上で挙げたような治療法は、殆ど全て、薬物療法を行った上で、それと並行して、薬物療法の補助的な手段として用いられるものといって良いでしょう。
となると、ご家族の方にまず必要となるのは、まずは、薬物療法についてのご理解・ご協力ということが言えるかも知れません。ここで、セミナーでは詳しくは述べられなかった、心の病気になぜ、薬による治療が必要か、といったことについて、また、服用の注意点について、説明を加えたいと思います。
かつて、「心」の病気は、病気として扱われず、どこか得体の知れないもの、として扱われてきました。物理的な現象とは無縁の存在、と考えられてきたのです。もしかしたら、まだ、皆さんの中にも、そうした、「心」に対する漠然とした思いをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。ですので、心の病気の治療に薬物を使用する、というと、違和感をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、科学技術の進んだ現代では、私たちの「心」も、決して物理的な現象と無縁の存在ではないということがわかってきました。たとえば、うつ病の患者さんの色々な症状は、脳内のセロトニンとノルアドレナリンという物質の働きが低下していることが一因となって起こっている、ということがわかってきました。そのため、治療の際、この一方、あるいは両方の働きを回復させる働きをもった薬を服用することにより、より短期に、また確実にうつの症状を軽減させることができるようになったのです。他の病気の様々な症状に関しても、同様のことが言えます。物理的な現象であるものに対し、「薬」という物理的な存在で臨むのは、ある意味、当然であり、必要であると言えますよね。
このように、薬物治療の目的は、姿ある、脳内の物質に直接的に働きかけることによって、症状のコントロールと軽減を目指すことにあります。しかし、薬を服用したからといって、一夜にして症状が回復する、といったことはないようです。薬を服用される際に常に頭においておかなくてはならないのは、「症状の回復には時間がかかる」という点と言えそうです。変化が実感されるまでは、大抵の場合、数週間から数ヶ月の時間が必要、との見方が一般的なようです。時間の余裕をもって臨むことが大切なのですね。また、「症状がよくなっても、服用を続ける」ことも重要です。心の病気は、再発・慢性化することもある病気のようです。症状が軽くなっても、医師の指示があるまでは、自分の判断で勝手に服用を中断しないことが、確実に病気を治すためには、重要な点です。せっかくの回復への道、無用な後戻りはしたくないものです。そして、薬の量に一喜一憂しない、ということも、頭の隅においておくと良いかもしれません。心の病気の治療に使う薬は、基本的には少量から始めて徐々に量を調整していくのが普通です。ですので、途中で薬の量が増えたからといって、即、病状が悪化したと考える必要はないのです。更に、薬を服用する際の注意点として、副作用があります。これは、もしかすると、いちばん気になる点かもしれませんね。全ての薬には、残念ながら、必ずと言っていいほど、副作用が存在するようです。心の病気に用いられる薬の副作用としてよく見られるものには、めまいや吐き気、口の渇き、眠気、手などのふるえ、便秘などがあります。もちろん、全ての方に現れるわけではありません。また、そうした副作用を抑えるのに有効な薬がある場合もあります。気になる症状が現れたら、早めに主治医に相談することが大切です。
ご家族の悩み
さて、家族教室で実施したアンケートでは、ご家族の悩みについても、お聞きしました。その結果、もっとも多かったのは、「患者さまの将来のこと」でした。親がいなくなった後、患者さまはどうなるのか。結婚できるのか。就職して自分の生活を確立していけるのか、などなど。これは、心の病に限らず、病気を抱えた患者さまを持つご家族の、全国共通の悩みともいえるかもしれません。また、それ以外にも、患者さまの最も身近にいらっしゃるご家族には、さまざまな悩みや不安がおありのことと思います。こうした悩みや不安は、内に抱えるのではなく、外へ出していくことが大切です。
それでは、こうした不安や悩みをどうやって解消していったらよいのでしょうか。
これをお読みの皆さんはいかがでしょうか?もしかすると、例えば、親戚や友人・知人など、普段なら、もっとも気持の支えとなりそうな方に、病気のこと自体を打ち明けられないがゆえに、相談する相手を失ってしまってはいませんか?
そこでお勧めしたいのが、家族教室のような、ご家族同士の集まりへの参加です。同じ「心の病」という病気を持つ患者さまを抱えたご家族同士、ご家族にしかわかり得ない気持を語りあい、お互いの体験をお互いの生活に役立てることができるという意味で、ご家族同士の支えあいは、大変意義のあるものです。もしかしたら、ご自身の悩みを既に乗り越えられている方が、いらっしゃるかもしれません。また、逆に、ご自身が乗り越えた悩みに、今、悩んでいる方がいらっしゃるかもしれません。ご自身の不安を解消するきっかけとなるだけでなく、他のご家族の不安を解消する助けとなることもできる、それがご家族同士、集まることの利点です。当院の家族教室では、こうした観点から、病気や療養生活についての知識を医療関係者からご提供するセミナーと、ご家族同士の話し合いの場の2つのプログラムを行っています。
患者さまのよりよい療養生活を実現するには、ご家族の協力が不可欠です。しかし、それと同時に、ご家族が、ゆとりのある自身の生活を大切にすることも同じくらい重要です。そのために、家族教室を積極的に利用してみませんか?