家族教室

2006年度第10回 家族会報/家族教室開催報告

2006年11月5日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケアセンター
講 師:剱持 慈子(ハートクリニック ケースワーカー 堤 こずえ)
テーマ:「様々な社会資源・制度について(1)」

今月は、あいにくの雨となりましたが、多数のご家族の方にご出席いただくことができました。

今年の家族教室も、早いもので第10回となりました。これまで、個々の疾患についてや、家族の過ごし方など、どちらかといえばメンタルな面に重点をおいたテーマでお話しをさせていただきましたが、第10回と11回は、「様々な社会資源・制度について」と題して、心の病を持った患者さんの生活を支えるために有効な制度や施設などをご紹介していきます。
第10回は、当院外来を担当するケースワーカーより、まずは、“社会資源(施設)”についてお話しをさせていただきました。 

社会復帰施設の現状

社会復帰施設の利用率は、全国平均で約70%で、定員の2~3割が空いています。さまざまな理由が考えられると思いますが、社会復帰施設は、医療法人が設置していることが多く、まだまだ医療の延長線として位置づけられています。また、病院の近くに設置されているところが多く、地理的な問題でなかなか利用しにくい、という現状もあるようです。

そのような中で、今後は医療の延長線と考えるのではなく、社会福祉施設として運営し、生活者として、どのような援助・施設が必要か、という視点が必要なのではないかと考えられます。そのような考えの中で、1970年代から活発に活動されている作業所の取り組みは参考になるのではないでしょうか。地域に、「自分たちの必要とする福祉サービス」を作るということを目的に、「居場所的」「就労訓練」など各地域の実情に合った作業所を作り、展開していきました。

今後も、それぞれのニーズに合った、決め細やかな援助を提供できる施設の充実が望まれます。

生活や住まいに関する社会資源

ここでは、生活や住まいに関する社会資源として、「地域生活センター」「生活訓練施設(援護寮)」「福祉ホーム」「グループホーム」について説明します。

地域生活支援センター

地域生活支援センターは、利用者にとって最も身近な相談機関として、また、当事者活動やボランティア活動などの地域活動の拠点として、福祉サービスや福祉制度の利用相談や施設の斡旋などの総合相談窓口として期待されています。
具体的なサービスとしては、訪問を含めた、当事者や家族への相談援助、食事会などの食事サービスや入浴サービス、診察への同行など、幅広く行なっています。登録制になっており(登録していなくとも、利用は可能)、年間数百円から数千円の登録料とサービスに応じた料金(こちらもおおよそ数百円となっています)がかかるところが一般的です。平成19年までには、全国で1,200ヶ所(人口5万人あたり1ヶ所)の設置が目標として掲げられています。

生活訓練施設(援護寮)

生活訓練施設は別名、援護寮と呼ばれています。例えば、長期入院をされていた方が退院して、なかなか在宅生活に自身がもてないという場合に利用されることが多い施設です。
具体的なサービスの内容としては、利用者と相談しながら、食事や洗濯、掃除などの家事能力を訓練したり、金銭管理についても訓練したりします。すなわち、原則2年間(1年間延長は可能)という期限の中で、一人暮らしをするための指導訓練を受けます。しかし、日中の活動の場は提供されていませんので、デイケアや作業所などを併せて利用します。
費用は生活保護や障害年金でまかなえる程度の料金となっているところがほとんどです。

福祉ホーム

生活訓練施設が主に家事能力などの生活能力についての訓練を主な目的としているのに対して、福祉ホームの主な目的は、「住まいの提供」となっています。

福祉ホームには、「住む場所さえあれば、少しの援助で生活できる人向け(A型)」と「長い入院生活のため、家がなく、高齢で、訓練しても生活が難しい人向け(B型)」があります。特にB型は、長期在院者対策として、今後ますます注目されている施設です。

A型は定員概ね10名で、期限は2年間、B型は定員20名以上で、期限は5年となっています。A型、B型ともに期限の延長は可能(生活訓練施設よりも期限はゆるやか)で、やはり日中の活動の場は提供されていませんので、デイケアや作業所などを併せて利用します。

費用は生活保護や障害年金でまかなえる程度の料金となっているところがほとんどです。

グループホーム

グループホームは、正確には、市町村が行なっている居宅生活支援事業の中の「地域生活支援事業」として位置づけられています。

グループホームには期限のない「永住型」とゆくゆくはアパート生活を目的として家事に自信をつけていく「通過型」があります(特に制度で定められてはいません)。

主に、病院から退院したときや、生活訓練施設などから退所した場合、更には、一人暮らしが難しい方や家庭の事情などで一人暮らしを希望する方などが利用します。

グループホームというの名の通り、4~7名程度の人が、共同で家屋やアパートに住み、世話人と呼ばれる職員が必要な援助を行います。また、最近では、近距離の複数のアパートに分散して住みながら、世話人の援助を受けるという方式も見られます。

日中の活動の場は提供されていませんので、デイケアや作業所などを併せて利用します。

費用は生活保護や障害年金でまかなえる程度の料金となっているところがほとんどです。また、平成19年までに生活訓練施設と福祉ホーム、あわせて全国で6万人分の設置を目標としています。

就労に関する社会資源

続いて、就労に関する施設や制度として、「公共職業安定所(ハローワーク)」、「障害者職業センター」「小規模作業所」「授産施設」「社会適応訓練事業(通院患者リハビリテーション事業)」について説明していきます。

公共職業安定所

ハローワークというと皆さんもなじみがあり、どのようなところかイメージがわきやすいのではないかと思いますが、そんなハローワークも精神障害者が利用できる社会資源となっています。ハローワークでは、障害者の職業相談や職業紹介などを行なう専門の援助窓口があり、精神障害者職業相談や精神障害者ジョブカウンセラーなどの専門職員が配置されています。
また、ハローワークで利用できる就労の制度としては、以下の4つがあります。

  1. 職場適応訓練:事業所で一定期間訓練を受ける
  2. 特定求職者雇用開発助成金:障害者を雇用した事業所に対して賃金の一部を助成
  3. 精神障害者ジョブガイダンス事業:ハローワークの職員が医療機関などに赴き、就職活動に関する講義や模擬面接などを行なう
  4. 障害者「トライアル」雇用事業:短期の試行雇用を実施し、その仕事が継続可能かどうかを検討

※制度の活用が適当かどうかは、窓口で相談して下さい

また、専門窓口利用に関しては、主治医の意見書や障害者手帳を添えて登録します。また、利用に際しては、現在の病状や治療の状況がポイントになってきますので、病院の職員などに同行をしてもらうのがよいかと思います。

障害者職業センター

ハローワークや医療機関と連携をとりながら、職業に関してさまざまな相談や職業準備を進める事業や就職活動の支援を行います。最近では、精神障害者の利用が増えてきています。専門の職員として障害者職業カウンセラーが支援にあたります。

具体的なサービスとして、主に以下のようなものがあります。

  • •職業相談及び職業評価
  • •職業準備支援事業:センター内で作業支援や事業所見学、対人関係などを身に付ける
  • •ジョブコーチ:事業所にジョブコーチを派遣し、一緒に現場に入り、障害者が自立できるように支援

 

小規模作業所

作業所と聞くと「仕事をするところ」というイメージがありますが、基本はまず、「通う場所」であるということです。そのような基本があり、その上で「居場所が欲しい」「仲間が欲しい」「働きたい」「訓練を受けたい」などの目的に応じて、活動を展開しています。
病院などの「医療」でもなく、「行政」でもなく、民間の福祉サービスの拠点となっています。また、柔軟に取り組むことができます。

サービスが整っているところでは、新たな役割が生まれ(例えば、まったく作業がない作業所や若年層対象の作業所、活動時間が午後から夕方 など)、サービスが整っていないところでは、従来からの役割が期待されています。どちらにしても、「福祉」を担う作業所の重要性は今後も高まっていくと考えられます。しかし、補助金の安さから、運営は厳しいようです。

精神障害者授産施設

目的としては、なんらかの理由で就職が困難な場合に、

  1. 必要な訓練を行い就職を目指す
  2. 就職が困難なために、福祉就労を目指す

という2つがあります。更には、入所型は「住む場所がない」という場合に、入所して訓練などを行います(福祉ホームの機能も併せ持つ)。

具体的には、弁当やパン、レストランでの製造や販売、印刷やチラシの折込作業、清掃などの作業を通して、必要なマナーや技術、生活習慣を身に付けていきます。工賃は作業所よりも若干高く、月1万円程度~数万円支払われます。

社会適応訓練事業

別名、通院患者リハビリテーション事業と呼ばれています。社会復帰の途上にある通院中の障害者が一定期間事業所に通うところによって集中力や持続力、対人関係など職業適応能力を高め、社会復帰を図ります。

市町村が窓口になり、協力事業と呼ばれる、地域の社会復帰に理解がある地域の中小企業で訓練が行なわれます。


まとめにかえて

今回ご紹介した社会資源はまだまだ一部です。主治医やスタッフと相談しながら、身近な社会資源をどんどん活用しましょう!