家族教室

2007年度第2回 家族会報/家族教室開催報告

2006年3月4日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケアセンター
講 師:長坂 良(ハートクリニック医師)
テーマ:「うつ病について」

2007年第2回の家族教室は、ハートクリニックの医師より、心療内科でよくみられる疾患、中でも「うつ病」についてのお話をさせていただきました。今回は、セミナーと懇談会を分けることはせず、医師への質疑応答の時間を多くとらせて頂き、セミナーの内容のみならず、普段から抱いていらっしゃる疑問を少しでも解消していただける場としました(今回のセミナーにつきましては、ホワイトボードを使っての説明をさせて頂きました。したがって、配付資料はありません)。

心療内科でよくみられる疾患

心療内科では、さまざまな疾患が対象とされていますが、その主なものに、統合失調症、うつ病、不安障害、パニック障害、摂食障害などがあります。これらは、一般に「こころの病」と呼ばれ、身体的な疾患とは、区別して考えられることが多いものです。しかし、「こころの病」も、人間の「脳」という臓器のひとつでトラブルが起こることによって発症する疾患にすぎません。

ただし、身体的な疾患と違ってやっかいなところは、脳のトラブルから起こる疾患では、その症状は「悲しい」とか「落ち込む」とか「憂鬱である」とか、目で見てもよくわからない、という点です。そして、脳という臓器のことは、過去に比べれば飛躍的に研究が進んだとはいうものの、まだまだその正体や働きがわかっているわけではない点も挙げられます。ですから、他の身体的な疾患と違い、こころの病気のほとんどのものは、本当の、根本的な原因というのは、わかっていないのです。

しかしながら、例えばがん細胞を手術で取り除くような治療は、「こころの病」ではできないものの、「こころの病」の症状を抑える薬や、治療法は、開発されてきています。大切なのは、こうした「こころの病」の症状や治療法について、正しく知り、積極的に療養生活に取り組むことではないでしょうか。

うつ病とは?

仕事や家庭、学校など、人間関係において、社会がますます複雑化している現代では、誰もが多くのストレスを抱えて生活しています。落ち込んだり、傷付いたり、不安になったり、悲しんだり、むなしい気分になるのは、誰にでもあることです。たいていの場合、時間の経過とともに、「また元気に頑張ろう」と思えるようになり、毎日の生活が続いていきます。ところが、時に、いつまでも気分がふさいだまま回復できず、さまざまな身体の不調までもたらし、日常生活に支障をきたしてしまうことがあります。このような、こころが疲れきってしまった状態がうつ病といえます。

「こころ」の症状

うつ病は、「気分障害」といわれる疾患のひとつです。その名の通り、症状として、気分や意欲の低下があらわれます。そして、意外に患者さんご本人やご家族に知られていない症状に、思考力の低下が挙げられます。思考力が低下すると、患者さんやご家族は、「物忘れがひどい」と感じたり、「ぼけちゃったのでは?」と心配したり、「頭が悪くなってしまった」と感じたりすることもあるようですが、これは、うつ病の症状ですので、病気の回復とともに、元にもどります。

  1. 気分が沈む・・・。
    「憂鬱だ」「さびしい」「悲しい」「何の希望も持てない」と悩むようになります。笑顔が消え、深く落ち込み、時には強い不安感を持ちます.朝方がもっともひどく、夕方になるといくぶん、よくなるのも特徴といわれています
  2. どうでもいいや・・・。
    物事に対して興味や関心が薄れ、やる気がなくなってしまいます。仕事への意欲が低下したり、興味を持っていたことに、これまでと同じように取り組めなくなります
  3. 何がなんだか・・・。
    思考力、判断力、決断力が低下します。仕事や生活上のことでなかなか決断ができなかったり、テレビを見ていても話の筋を追うことができず内容が理解できなくなります
  4. みんな自分のせいだ・・・。
    過去の出来事にいつまでもくよくよしたり、はっきりした理由もなく、「自分はダメな人間だ」「能力がない」「申し訳ない」と過剰な罪悪感を抱きます
  5. 生きていてもしかたない・・・。
    気持ちが沈みこんでつらくてたまらないため、「死」にまで思いが及んでしまうのでしまうのです

「からだ」の症状

うつ病は「こころの病」とはいっても、その症状は、「こころ」だけにあらわれるものではありません。身体の様々な機能にも不調をもたらします。

  1. 眠れない、朝早く目が覚めてしまう・・・。
    うつ病でよくみられるのが、「睡眠障害」です。寝つきが悪い場合もあれば、深夜あるいは早朝に目が覚めてしまい、そのまま眠りにつけない場合もあります。
  2. 食べたく・・・。
    食欲がなくなり、何を食べても美味しいと思えず、「砂をかんでいる」ように感じることさえあります。このため、急激に体重が減少します。また、逆に食欲が増進し、体重が増えることもあります
  3. だるい、何もやりたくない・・・。
    ほとんどからだを動かしていないのにひどく疲れたりからだが重く感じられます。服を着るといった日常の何気ない作業も、なかなかこなせなくなります
  4. 理由がわからずからだの調子が・・・。
    頭痛、腰痛、腹痛といった症状が現れます。うつ病が原因の痛みに対しては、市販の鎮痛剤の効果はほとんどありません。そのほか下痢や便秘、胃のむかつき、めまい、しびれなど、さまざまからだの症状が起こることがあります

うつ病の症状は、気分が沈んでしまうこころの症状とからだの調子が悪くなるからだの症状の両方に現れるのが特徴です。以上に紹介した症状のひとつひとつは、ほとんどが誰でも経験するような身近なことです。しかし、これらの症状のいくつかが重なって、2週間以上続くようなら、うつ病を疑ってみる必要があります。

うつ病を引き起こすきっかけ

うつ病は、「気の持ちよう」や「こころの弱さ」から起こるのではありません。脳内の神経伝達物質の減少によって引き起こされるといわれています。その人にとって、精神的・身体的にストレス状況にさらされ続けた結果、神経が疲れきってしまい、心や身体の活動のもとになっている神経伝達物質の働きが悪くなって生じるものです。

うつ病を引き起こす誘因は、ひとつではありません。

その人が持っているものの考え方や生活環境など、いくつかの要素が積み重なってうつ病が発症すると考えられています。

また、うつ病は「遺伝病」ではありません。「遺伝病」とは、特定の1つの遺伝子の異常によって発病するものです。血友病やハンチントン舞踏病などがその代表例です。これらの遺伝病の発病率は、1万~10万人に1人といった程度。それに対してうつ病の発病率は100人中3~10人と著しく高く、特定の遺伝子異常も証明されていません。

からだの病気があることや、薬の副作用により、二次的にうつ病を引き起こすこともあります。

うつ病の治療

1.休 養

そもそも、「疲労」とは、「身体や頭を使いすぎて、心身の機能が低下する状態」です。

私たちは、「疲労」をマイナスイメージで捉えがちですが、疲れることによって、生きていくためのエネルギーを使い切ってしまうのを抑えているのです。疲労は、生命を維持し、活動を続けるための防御システムといえます。
うつ病は、疲労がたまりにたまって、どんなに身体を休めても解消しない状態から始まることが多いものです。うつ病にかかってしまったご本人がまず出来ることは、疲れきった心と身体を十分に休めることです。うつ病の治療の中で「休養」は、非常に大切な要素です。
うつ病にかかる人の多くは、いい加減なことが苦手な性格です。でも、その性格はひとまず脇において、“なまけ病”に徹してみましょう。
本来の状態に回復するには、最低でも1ヶ月は必要です。休職をするときには、十分な期間をとりましょう。

2.薬物療法

医師は、「眠れない」「気持がふさいでどうしようもない」患者さんのそうしたつらい症状を治すことをまず先決に考えます。眠れない場合は眠れるように、憂鬱な気分は少しでも晴れるように、といった理由で、薬を処方します。

抗うつ薬は、飲めばすぐに効く、というものではありません。効果が現れだすのは、早くて1週間目ごろからで、十分な効果が見られるのは4週間ほどたってからです(全体的にだんだんと回復に向かわせていくような効果を期待しています。ですので、どれかひとつの症状に効果がないからといって、薬を変える、ということはあまりしません)。

それに対して、副作用の方が早く出現することがあります。そのことを知らずに、「薬を飲んでも効かないどころか、かえって具合が悪くなった」といって勝手に服用をやめたり、量や飲む回数を変える人がいますが、抗うつ薬は血中濃度を保ってようやく効き目が現れる薬です。独断で量を減らしたりすると効果が得られませんから、ぜひとも医師の指示を守って飲み続けて下さい。
さて、抗うつ薬が効いてくると、身体が軽くなったような感じがします。憂鬱な気分も少しずつ消えていき、次第に意欲がわいてきます。身体が軽くなり、何かをすることが億劫でなくなってくると、「もう、薬を飲む必要はないのでは」と考えがちですが、ここは身体の風邪と違うところ、症状がおさまったからといって、もう薬はいらない、というわけにはいきません。
うつ病の症状が消えても、脳内の神経伝達物質のバランスはまだ正常ではありません。ここで薬をやめてしまうと症状がぶり返し、慢性化するおそれがあります。また、まったく副作用のない薬というのはありません。しかし、身体に多少害があっても、病気を治す作用が強いから、薬は使われるのです。むやみに副作用を恐れずに、どう対処すればよいかを知って、薬と上手につきあいましょう。

ご家族には、1つ1つの症状に過敏にならず、「いろいろな症状が出る病気」という心構えで、長い目で患者さんを見守っていただきたいと思います。“つかず離れず”、これが基本のようです。