家族教室

2007年度第4回 家族会報/家族教室開催報告

2006年5月6日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケアセンター
講 師:高 卓士(ハートクリニック 医師)
テーマ:「不安障害と人格障害について」

2007年第4回の家族教室は、5月6日に実施されました。荒天にも関わらず、たくさんのご家族の方においで頂きました。今回は、「不安障害と人格障害について」とのテーマで、ハートクリニックの医師より、その一般的症状、経過、治療などについて、お話をさせて頂きました。なお、当日は、診療時間の都合で、医師のセミナーの開始時間が大幅に遅れましたことを、お詫び申し上げます。  紙面では、特に不安障害について、取り上げたいと思います。

不安障害について

「不安障害」は、その人の状況から考えて、不釣合いなほど激しい不安が慢性的かつ変動的にみられる状態をいいます。

 “不安”は本来、脅威や精神的ストレスに対する正常な反応で、誰でもときには、経験するものです。そして、適度な不安は、私たちの行動の効率を上げる働きもします。正常な不安は、ある意味で、自分の身を守り、生き延びるための大切な機能ということができるでしょう。しかし、不安が不適切な状況下で生じたり、頻繁に生じたりする場合、あるいは、日常生活に支障をきたすほど不安が強く長く続く場合には、不安障害とみなされます。

不安障害は、精神障害の中でも、比較的よく見られるものですが、本人や医療専門家がこの障害に気づかないことが多く、まだまだ治療につながりにくいのが、現状と言えるでしょう。

不安障害の原因は、他の疾患と同様に、分からない点が多くありますが、心身両面の要因がかかわっているようです。

安障害の診断は、症状にもとづいて診断されますが、不安に耐えられる程度は個人差が大きく、どのような状態が異常な不安であるかを判断するのは、ときに困難です。

不安障害の分類

不安障害の下位分類には、右の8つがあります。ここでは、個々の疾患について、概観してみましょう。

特定の恐怖症

特定の外的状況に対する非現実的な激しい不安と恐怖感が持続する状態です。

恐怖症がある方は、不安や恐怖感を引き起こしそうな状況を避けるか、多大な苦痛を感じながらその状態に耐えています。しかし、不安が過剰であるという自覚は本人にもあり、自分になんらかの問題があることは認識しています。恐怖感を抱く対象によって、ほとんど不都合のないものもあれば、日常生活に重大な支障をきたすものもあります。

特定の恐怖症は、恐怖感の対象や状況を避けることによって対処できます。治療が必要な場合は、段階的に苦手な対象に向き合う暴露療法やリラクセーション、イメージトレーニングを組み合わせて行ないます。併せて、抗不安薬や抗うつ薬による薬物療法を行なう場合もあります。

社会不安障害

大勢の人の前で話すのが苦手で、そういった機会があると不安になる、とか、初対面の人と話すのが苦手、といったようなことは、日常生活の中でよくみられることです。しかし、このような状況に対する恐怖のあまり、そうした状況を極度に避けるようになり、日常生活に支障をきたすほどになる、といった状態は、病的な状態といえます。こうしたものを、社会不安障害といいます。「性格上の問題」というとらえ方がまだ根強く、ある研究では、全体の5%以下の方しか専門的な治療を受けていない、という結果も得られています。治療は、抗うつ薬、抗不安薬、β遮断薬などを用いた薬物療法で過剰な不安感や恐怖をコントロールしながら、認知行動療法などの精神療法によって、行動パターンを修正していく方法が効果的とされています。

パニック障害

パニック障害は、例えば、激しい動悸や呼吸困難に襲われ、「死んでしまうかもしれない」という恐怖で胸がしめつけられるように感じる、このような状態が突発的に起こる病気です。

症状が重くなると、会社や学校など、通常の社会生活を営むことが難しくなることもあります。「パニック発作」は、パニック障害の基盤となる症状で、突然に感じる強い不安が、発作的に繰り返して起こります。発作は突然始まり、突然終わります(非持続性)。典型的な発作は、10分以内にピークに達し、通常、数分から数十分で、ほとんどの場合、1時間以内に自然におさまります。パニック障害もまた、こころのもちようや性格に起因する病気と思われがちな病気ですが、そうではありません。間違いなく、“脳の病気”です。ですので、治療は薬物療法が中心となります。

現在、パニック障害の治療には、SSRIという種類の薬剤が使用されることが多いようです。

全般性不安障害

さまざまな活動や出来事について過剰な不安や心配が生じ、この状態が通常はほぼ毎日、6ヶ月以上続きます。全般性不安障害の方は、常に心配事や悩みを抱え、そういった感情をうまくコントロールすることができません。

不安の程度や頻度、持続期間は、その人の状況から考えて妥当とみられる範囲を超えています。心配ごとの内容は、家庭生活のことや仕事、学校のこと、近所づきあいのこと、天災、戦争など、ごく一般的です。全般性不安障害の治療も、抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法と、リラクセーションや認知療法などの精神療法を組み合わせて行います。

強迫性障害

自分でもばかばかしい、変だ、うんざりする、などと思いながらも、意思に反して繰り返し頭の中に何らかの考え、イメージ、あるいは、衝動が割り込んでくること(=強迫観念)を特徴とし、その強迫観念によって引き起こされる不快感を取り除こうとする行動(=強迫行為)を伴う障害です。

発症率については、確かなことが言えません。というのも、強迫性障害の患者さんは、自身の症状について、上述のように、「ばかばかしい」という自覚をもっており、それを人に公言するのは恥ずかしいとの思いから、治療に訪れることが少ないと考えられるからです。強迫性障害の治療には、薬物療法と、心理療法の中の行動療法を組み合わせることが有効とされています。

 

外傷後ストレス障害

耐え難い心の傷となる出来事(危うく死ぬ、重症の体験、またはそれらの目撃など)に直面することによって引き起こされる不安障害で、後になってから、その時の出来事を繰り返し再体験します。

戦闘を体験した軍人や、性的暴行の被害者、被災者などを経験、または目撃した人の多くに、心的外傷後ストレス障害が生じます。心の傷となった出来事の情景が、悪夢やフラッシュバックとい
うかたちで繰り返し脳裏によみがえります。また、そのときのことを思い出させる出来事や状況にさらされると、強烈な恐怖心がわきあがってきます。本人は、心の傷となった出来事を思い出させるものをひたすら回避しようとします。回避的行為は、トラウマ体験の中の特定部分の記憶喪失(健忘)という形でも現れます。感情の麻痺、無感情、覚醒亢進の症状が生じます。うつ病の症状もよくみられます。

 

急性ストレス障害

急性ストレス障害は、心的外傷後ストレス障害と似ていますが、トラウマ体験から4週間以内に始まり、2日~4週間で治まるという経過が異なります。急性ストレス障害は、恐ろしい出来事を体験した後に起こります。本人はその出来事を頭の中で繰り返し再体験し、それを思い出させるものを避けようとし、不安が増大します。また、以下の症状のうち、3つ以上が見られます。

  1. 感覚の麻痺、外界との分離感、感情的な反応性の欠如
  2. 周囲の物事への注意力の低下
  3. 物事が現実ではないという感覚
  4. 自分自身が現実ではないという感覚
  5. トラウマ体験の核心部分の記憶の喪失

 

人格障害について

 「人格障害(またはパーソナリティ障害)」は、認知(思考・物事のとらえ方)、感情、衝動のコントロール(行動)、対人関係機能の4つの側面において、その人の属する文化で要求されるものより、持続して、著しく偏っている状態のことをいいます。現在では、「人格の障害」というより「人格の偏り(個性)」と見るほうが、妥当と考えられています。

人格障害には、右のように大きく3つの分類があります。

人格障害を引き起こす要因は、他の障害と同じく、1つに特定することはできません。例えば、生まれ持った素因、社会的状況、環境、急激な変化など、これらの要因が複雑に絡み合っていることが考えられます。しかし、原因を探すことは、あまり有益とはいえません。原因の追究よりも、重要なのは、「これから」をどうするか、を考えていくことの方が、治療には、役立ちます。