家族教室
2007年度第5回 家族会報/家族教室開催報告
2006年6月3日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケアセンター
講 師:浅井 逸郎(ハートクリニック理事長/医師)
テーマ:「心療内科の治療について」
2007年第5回の家族教室は、「こころの治療ってナニ?」と題して、ハートクリニック理事長の浅井医師より、お話をさせて頂きました。
「からだ」の病気の治療
さて、「こころ」の病気の治療について述べる前に、まず、「からだ」の病気の治療について考えてみましょう。
大昔、まだ医療というものが発達していなかった時代、「からだ」の病気はどのように扱われていたのでしょうか。実は(ご存知の方も多いとは思いますが)、病気や死は、神や悪魔といった超自然によって生じると考えられ、その治療は、そういった超自然の存在と人間との間を仲立ちする人によってなされました。ひらたく言ってしまうと、病人が出ると、教会に連れて行かれ、牧師さんが、悪魔祓いの儀式を行なって、病気を取り除こうとする・・・といったようなことが行なわれていたわけです。
もし、おまじないや儀式の類で病気が治ってしまうならば、それほど楽なことはありませんよね。しかし、それほど、病気は簡単には治ってくれません。医療の発展に伴って、病気には、色々な種類があること、また、色々な原因があること、などが分かってきました。
現代では、どうでしょうか。私たちは、病気になると、まず、病院へ行き、医師の診察を受けます。医師は、必要であれば、様々な検査を施し、その結果から、病気の診断を下します。そして、多くの場合、その病気の治療に必要な薬を処方するでしょうし、また、場合によっては、手術を行なうことによって、病原となっているものを体内から取り除いたりします。
「こころ」の病気の兆候
それでは「こころ」の病気の本質は、いったい何だと言えるでしょうか?それは、“脳の機能の障害”と言うことが出来るかと思います。
脳の機能が障害されると――「こころ」が病気になると、私たちには、どんな変化が現われてくるのでしょうか。
「こころ」の病気、というと、とかく、「こころ」の症状に注目しがちですが、実は、最初の兆候は、身体的な症状として現われてくることが多いものです。ここでは、セミナーで紹介された、身体に現れる「こころ」の病気のサインについて、列挙してみます。
身体に現れる「こころ」の病気のサイン
- •息がしにくくなる
- •気持ちが悪くなる
- •動悸がする
- •冷や汗が出る
- •めまいがする
- •ひどく肩がこる
- •お腹の調子が悪くなる
- •眠れなくなる/眠りすぎる
- •食欲がなくなる/亢進する
- •だるくなる
- •すぐに疲れる
- •頭が痛くなる
- •耳鳴りがする
- •しびれる など
次に、「こころ」に現れる「こころ」の病気のサインについて、見てみましょう。「こころ」の病気に罹ると、気分や意欲に不調が現れます。
心に現れる「こころ」の病気のサイン
- •気分がひどく落ち込む
- •やる気がなくなる
- •人と話すのが面倒になる
- •何をするのも億劫になる
- •テレビや雑誌を見ても、上の空になる
- •気分が妙に高揚する
- •いつも不安な感じがする
また、「こころ」の病気に罹ると、下のようなご本人の行動から、対人関係や社会生活に影響が出ることがあります。
- •人を避けてしまう
- •電車や人ごみを避けてしまう
- •お酒をコントロールできなくなる
- •買い物をコントロールできなくなる
- •仕事や学校に行けなくなる
- •ひどく怒りっぽくなる
- •ひどく饒舌で休み無く動きまわる
- •昼夜が逆転する
「こころ」の病気の治療
さて、では、「こころ」の病気の治療はどのように行われるのでしょうか?
「からだ」の病気と同じように、「こころ」の病気も病院で医師が治療にあたります。そして、その治療の中心は、薬物療法になります。
「こころ」の病気も病気ということにおいては、「からだ」の病気と同じです。しかし、「からだ」の病気と違っているのは、“病気だ”と判断するのに、困難を伴うことが多い、という点です。例えば、高熱が出たり、血が出たりすれば、私たちはすぐに病院へ行くでしょう。こうした「からだ」の病気の兆候は、目に見える形で、比較的はっきりと現れます。
しかし、先述のように、「こころ」の病気の兆候は、というと、そうはいきません。「こころ」が病気になると、“気分がふさぐ”とか、“普段できていた仕事をこなせなくなる”とか、“感情の起伏が激しくなる”、“人間関係がなんだかうまくいかなくなる”といったような状態が生じてきます。周囲の人は、「なんとなく普段と違うなぁ」とか、「表情が険しいなぁ」といったように、違和感をもつことでしょう。しかし、こうした状態は、はっきりと病気の症状とは気づきにくいものです。“病気”と気付かれにくい「こころ」の病気は現在でも、適切な治療に結びつくまでに、時間がかかってしまう場合があるようです。身体の不調が起こるために、内科や外科を受診している方も多くいらっしゃるようです。また、「こころ」の不調に気付きながらも、“気合”や“根性”で乗り切ろうとして、病気をこじらせてしまう方もたくさんいらっしゃいます。そして、人間関係に影響が出て、社会の中で孤立してしまっている方も少なくありません。
そして、一番身近な存在である、ご家族との関係も悪化させてしまう場合があります。
ご家族が、「この子はいい年をして、家でごろごろしているばかり。怠けているだけだ」といったような思いをお持ちになっている場合もあるのです。「こころ」の病気の症状が、一見、病気とは判断がつきにくいものであるがゆえに起こってくる、誤解と言えそうです。
「こころ」の病気の治療の中心は、薬物療法ですが、それだけではなかなか、ご本人は快復には向かえません。周囲の人間が、病気について正しい知識と理解をもって、ご本人との接し方を工夫していくことが大切です。ただし、ご家族が全てを抱え込む必要はありません。ご自分の生活を大切にしながら、治療スタッフと一緒に、ご本人のより良い経過と予後を得るための方法を探って行けるとよいのではないでしょうか。