家族教室
2007年度第7回 家族会報/家族教室開催報告
2006年8月5日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケアセンター
講 師:池沢 佳之(ハートクリニックデイケアスタッフ/PSW)
テーマ:「精神科デイケアについて」
今回の家族教室は、暑さ厳しい中での開催となりました。 今回のテーマは「精神科デイケアについて」とのことで、ハートクリニックデイケアスタッフの池沢PSWより、お話をさせていただきました。
精神科デイケアとは?
これをお読みの皆さんは、“デイケア”と聞いて、どんなものを思い浮かべられるでしょうか?まったく見当もつかない、という方もいらっしゃれば、高齢者を対象にした“デイケア”を想像される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
精神科デイケアは、精神障害をお持ちの患者さんに対し提供される治療の1つで、1人1日6時間を標準として、さまざまな“プログラム”(主にグループ活動)を通し、その生活能力の回復や向上を目指すものです。そして、最終的には、デイケアを中継点として、(広い意味での)自立的な生活と社会参加へとつなげていくことを目的とします。ともすると孤立しがちな患者さんに、人と触れ合う場を提供し、他者と一緒に活動する中で、生活技能や体力、人と一緒にやっていく力、自信、などを回復してゆく場、自分なりの生活を築いてゆく場、と言い換えても良いかも知れませんね。
ちなみに、ハートクリニックデイケアでは、手工芸や書道、手話などの趣味的なプログラムから、カラオケのようなレクリエーション的なプログラム、料理のように生活に密着したプログラム、そしてSSTや就労ミーティング、心理教育といった、教育的なプログラム、デイケアの外にある資源を利用して楽しむ外出プログラムなど、多彩なプログラムを実施しています。セミナーでは、プログラムの様子などの写真が数点、紹介されました。
どのような方が利用するの?
さて、こうした精神科デイケアを利用する方には、どのような方がいらっしゃるのでしょうか?
全国にある精神科デイケアには、それぞれ、そのデイケアの特色があり、デイケアによっては、利用される方の疾患(診断名)を限定して運営しているところもあります。
当院デイケアはどうかといえば、当院デイケアは、特に疾患にこだわることなく、ご利用いただいています。確かに、お持ちになっている疾患によって、配慮しなければならない点は異なります。しかし、デイケアの役割が、疾患そのものを治療する、というよりは、生活能力の向上・回復にある、ということを考えると、疾患の別を超えて、さまざまな人とともに、時間と場所を共有し、支えあうことには、大きな意義があると考えられます。
さて、“どのような方がデイケアを利用するのか?”というと、様々な方が利用します。何かしたいけれど、きっかけがつかめない方、仕事や学校にはいきたいけれど、自信が持てない方、話し相手はほしいけれど、人と接するのが苦手な方、上手なストレス発散方法がわからないという方、漠然とした焦燥感で悩まれている方・・・などなど。その適用は広範囲です。
デイケア参加のメリット
では、デイケアに参加することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
セミナーでは、9つのメリットが紹介されましたので列挙して、解説を加えてみたいと思います。
- 外に出るきっかけとなること
病気のために家に閉じこもりがちとなっている方にとっては、日中、行くところがあるということは、生活のメリハリや、社会との接点を持つという点で意味があります。 - 色々な人と出会えること
デイケアを利用することによって、医療スタッフだけでなく、他メンバーなど、様々な人と自然な形での交流がもてます。また、他者と悩みを共有することができます。デイケアの優れた機能として、メンバー同士の支え合いを体験できる、という点があります。 - 様々なプログラムに参加出来ること
何らかの活動を行うことにより、達成感や喜びを感じたり、他者との共同作業を通じて、交流を促進することができます。 - 自由に過ごせる場があること
デイケアが「安全基地」の機能を果たし、たとえストレス状況に陥っても、デイケアを利用することで、一時的に退避することができます。 - スタッフに相談できること
悩みや心配ごとを、様々な専門的背景をもったスタッフにじっくりと相談できます。 - 医療機関スタッフの目が届いているということ
スタッフは、メンバーと生活時間の一部を共にすることになりますが、再発・発症が起こった際に、迅速に主治医と連携が取れます。 - 食事を提供すること
きまった時間に食事をとることができます。家族の団欒のような、暖かい雰囲気の中で食事する、という機会をもてます。 - 目標を持てるということ
社会の縮図ともいえるデイケアの中で、目標をもって活動することができます。そして、身近な目標の達成を数々経験することが、社会への一歩を踏み出しやすくします。 - 他の機関や同じ機関の中のサポートとの連携
デイケア以外のサポートを組み合わせ、情報交換など、連携をとることで、より包括的にメンバーをサポートすることができます。
こうした点を見てくると、デイケアの最大の意義とは、利用者が外の社会へ一歩を踏み出す前に、“サポートを受けられる”という保障のもとに、人間関係を練習できることである、といえそうです。
デイケアのスタッフとは
精神科デイケアにおいて、メンバーは、サービスを提供される存在であることに間違いはありません。ただし、デイケアでは、メンバー自身の持つ自然回復力を信じます。また、他メンバーと交流・情報交換を行うことにより、個々人の回復力が相互に作用していると考えます。ですので、スタッフは、そうしたメンバー自身の回復力を発揮しやすいように援助する、いわば脇役のようなものです。 精神科デイケアにかかわるスタッフの特徴としては、その多様性が挙げられます。そもそも“リハビリテーション”と名のつく領域においては、他職種が集まってチームを形成していることが珍しくありません。しかし、デイケアでは、施設基準として、かかわる職種の割合が規定されている、ということも幸いして、そのバランスの良さが、際立った特徴となっています。ぞれが、それぞれの持つ専門的背景を活かした役割をとり、同時に、チームとして、デイケアの運営にあたっているのです。デイケアを利用するメンバーが、多種多様な悩みをもって、日々を過ごしていることを考えれば、1つの領域に長けたスタッフの対応だけでは、絶対的にサポートが不十分になることは、想像できる気がしますね。
スタッフとして大切にしていること
また、当院のデイケアにかかわるスタッフは、メンバーとともに過ごす時間の中で、デイケアのスタッフならではの、心がけを忘れないようにしています。
セミナーでは、まず、メンバーを「援助しなくては」と思うあまり、過保護・過干渉になり、かえってメンバーの自発性を妨げることにならないようにすることが挙げられました。そして、メンバーの、診断名にこだわらず、「生活のしづらさ」に焦点をあてた援助をすること。さらに、デイケアが、「楽しむ場」であるとともに、「苦しい」「つらい」感情を出して良い場となるようにすること、ということが述べられました。確かに、「苦しい」「つらい」感情は、外の社会ではなかなか表出しづらいものです。しかし、どこでも吐き出せないそうした感情を出せる、守られた場であることも、デイケアには必要なことでしょう。他には、 グループでの活動が多くなるデイケアにおいて、スタッフは、グループの動きだけに目を奪われてはいけない、ということが挙げられていました。全体をつくっているのは、個人のメンバーだ、ということを忘れないようにしているのです。
こうしたかかわりは、どこかご家族のかかわりにも似ているところもあるかもしれませんね。
デイケア参加後の経過
さて、デイケアに参加したメンバーには、どのような変化がみられるのでしょうか。
それぞれ、個人差はあるものの、概ね、次のような経過を辿ることが多いようです。まず、知らない場・集団へ参加することに対する不安と緊張を強く経験する初期。次に、徐々にデイケアという場に慣れ、集団に入り始め、プログラムへの参加も安定し、定期的な通所が可能となる中期。そして、体力的にも余裕が生まれ、関心がデイケアの外へ向き、デイケアの通所に物足りなさを感じる後期へと向かいます(こうした経過は、人によって、数ヶ月の方もいれば、数年をかけて緩やかに進行する方もいらっしゃいます)。
セミナーでは、こうした経過を辿った後のメンバーの進路について、就職(学)・復職(学)する方もいれば、作業所や授産施設を利用する方、家庭での活動を再開される方など、社会復帰の形は様々であることが紹介されました。当院デイケアのメンバーには、デイケア通所を完全に終了するのではなく、アルバイトや学校生活と並行して利用する傾向があるようです。
また、どんな薬にも副作用があるように、デイケアの利用によって、刺激が強すぎてしまい、病状が悪化し、入院へ至るケースがあったり、デイケアという“心地よい場所”に浸りきってしまい、将来の進路を見出せず、長期に渡るデイケア利用を余儀なくされる場合もあることも忘れてはならない事実です。しかしそれでも、こうした集団を利用した(しかも、メンバー同士の相互作用を重視した)治療であるデイケアは、精神障害を持つ方たちの、有効な治療として、注目すべきものと思います。
当院のデイケアには、7月末現在、113名のメンバーが登録(男性50名、女性63名、平均年齢約30歳)されています。そして、1日平均23名の方にご利用頂いています。