家族教室
2007年度第10回 家族会報/家族教室開催報告
2007年11月4日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケアセンター
講 師:池沢 佳之(ハートクリニックデイケアスタッフ/精神保健福祉士)
テーマ:「働くことについて」
今回の家族教室は、「働くことについて」とのテーマで、ハートクリニックデイケアスタッフ(精神保健福祉士)より、精神障害を抱えた方々が仕事に就くことを考えたときに知っておくと役に立つ基礎知識をお話しさせていただきました。ご家族の方々にとっても、関心の高いテーマだったのでしょうか、セミナー終了後の相談会でも、引き続き、就労に関連したお話し合いが続けられました。
精神障がい者にとって働くこととは?
精神障がいを抱えた方が「働くこと」を考えるときに、健康な状態で「働くこと」に比べて、さまざまな困難が生じるのは、そもそも何故なのでしょうか。患者さんを取り巻く状況を考えてみると、まず、精神障がいを明かした上で働ける場所や機会が、少ないという要因が考えられます。これには、精神障がいを抱えた方々の就労を支える、各種制度の遅れも関係していると考えられます。また、精神障がいの特徴と言える、「疾病と障害の共存性」も、患者さんの就労に困難をきたす要因となります。病気それ自体が寛解していたとしても、患者さんは、以前と同じようには生活を営めるとは限らない、ということです。精神疾患を患うことで、患者さんには、さまざまな「生活のしづらさ」が残ることがままあります。この「生活のしづらさ」が働くことを難しくする場合があります。
セミナーでは、資料を参考に、精神障がいをもちながら、どのくらいの人たちが就労を希望しているか、そして、他の障がい(知的障がい・身体障がい)との雇用率の比較が紹介されました。資料から読み取れたことは、残念ながら、就労を希望する患者さんの数は多いにもかかわらず、実際に雇用される率は、他の障害に比べて低い、ということです。
当院のデイケアに通所される患者さんは、その中心を占める年代が20代~30代ということもあり、多くの方にとって、就労は重大な関心事となっているようです。そうした方々から聞かれるのは、特に男性にとっては、いわゆる“働きざかり”といわれる年齢であるということ、経済的なこと、周囲の同年代の友人が働いているのに自分が働いていないということに抵抗があること、などの理由から「働きたい」「働かなくてはならない」という声です。働くということは、もちろん、収入を得るためのひとつの手段ではありますが、患者さんが就労を強く希望されるその背景には、“お金を得ること”以上に、働くことで、一人前として認めてもらいたい、評価してもらいたい、という思いが透けてみえるような気がします。精神障がいを抱える方にとって、働くことは、病気によって傷つけられた自尊心を回復する手段でもあるのではないでしょうか。
働くことへのサポート
精神障がいを抱えた方が就労するにあたっては、困難が生じることは、先に触れました。それでは、そうした方々へのサポートには、どのようなものがあるのでしょうか? 国の取り組みとしては、近年、民間企業・官公庁を問わず、障害者雇用率の算定が行われるようになったり、自立支援法の施行があったり、遅々としたもの、そして、まだまだ問題のあるものではありますが、少しずつ、取り組みが進んできています。
就労をサポートする施設として挙げられるのは、地域の作業所、授産施設、福祉工場、福祉ショップなどがあります。こうした施設は、一般就労は困難であるものの、相当程度の作業能力を有する精神障がい者の方を、通所により、自活できるように必要な訓練や指導を行い、職業を提供することにより社会復帰の促進を図るための施設です。その種別により、居場所的な意味合いの強いものから、単純作業を行うもの、より収益をあげることを意識した作業の従事が求められるものまで、違いがあります。もちろん、後の一般就労を見据えた上で、通過点として利用を考えることもできます。こうした施設を利用することの利点のひとつとして、病状や障がいについて、最大限の配慮のもとに、“働く”経験を重ねることができる点があります。
それでは、そもそも、「働きたい」と思ったときに、就労の入り口となる窓口には、どのようなものがあるのでしょうか。相談機関としては、各都道府県にある障害者職業センターや障害者就労センター、ハローワークの専門援助部門、精神保健福祉センター、保健所などが考えられます。その中でも、障害者職業センターや障害者就労センター、ハローワークについては、相談に加えて、希望すれば職業能力の評価や、職業の紹介をしてくれます。また、精神保健福祉センターや保健所では、就労に必要な訓練を実施してくれます。現時点で、自分がどのくらいの作業に耐えられるのか、ウィークポイントはどこなのか、どんな適性があるのか、などを把握する上で、非常に役に立つことでしょう。いずれにせよ、こうした地域の制度を活用して臨むことで、よりスムーズな就労に結び付く可能性が高まります。
周囲の人たちができるサポート
当院デイケアにおいても、就労の支援をさせていただく場面がありますが、そうした中で感じている“周囲ができるサポート”とは何なのか、ということについてセミナーではご紹介させていただきました。
- ご本人の働きたい思いをまず大切にすること
- 病状面と生活面の両面を考えること
- 支援について精通すること
- 関係機関との協力をすること
まず、何よりも、ご本人が「働きたい」 と考えていることそれ自体を大切にする、ということは、重要なことではないでしょうか。
私たちは、ともすると、「まだ働ける状態じゃない」と頭ごなしに説得しようとしてしまっていないでしょうか。確かに、ご本人の強い思いとは裏腹に、病状や生活が安定せず、とても就労するのは無理、と周囲が感じることはあるでしょう。しかし、そこでご本人の思いを否定するのではなく、なぜ働きたいと思っているのか、働くためにはどうすればいいのか、といったことを、丁寧に話し合っていくことが必要ではないでしょうか。そして、常に、精神障がいは、「疾病と障害の共存」が起こるものだ、との認識を忘れないことが必要です。病気それ自体がよくなっても、即、元の生活が戻ってくるわけではないことが多いのが精神障がいの特徴です。“病状”と“生活のしづらさ”の両面を考えていかなければなりません。
ご家族にお願いしたいこと
精神障がいを抱えた方が働くことを考えるとき、更にご家族のサポートは大きな力を発揮します。ご家族が、ご本人のよき相談相手となっていただけたら、こんなに心強いことはありません。日々、ご本人とコミュニケーションをとる中で、ご本人では気付けない、状態の変化を把握して、状況に応じて、行動を後押ししたり、ブレーキをかけたり、時には程度なプレッシャーをかけたり・・・。そして、ご本人のちょっとした“ぐち”を聞いていただけたら、と思います。その上で、“職業人”の先輩としてのアドバイスをしてあげてください。ご本人にとっては、最も身近なご家族からのそうした働きかけは、大きな支えとなるに違いありません。
※利用できる制度などについて、詳しくは、クリニック外来のソーシャルワーカーや、デイケアに通所されている方は、デイケアスタッフにご相談していただくことができます。