家族教室
2008年度第3回 家族会報/家族教室開催報告
2008年4月6日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケア
講 師:利谷 健治(ハートクリニック/医 師)
テーマ:「パーソナリティ障害について」
本年第3回となる、家族教室は、春らしい陽気にも恵まれ、大変多くのご家族の皆さまにご参加いただくことができました。 今回のテーマは「パーソナリティ障害」とのことで、ハートクリニックの利谷医師より、お話をさせていただきました(今回はスライド資料はございません)。
パーソナリティ障害とは?
パーソナリティ障害は、これまで、日本では「人格障害」という呼び名で呼ばれていた障害です。しかし、「人格」という言葉が価値判断を含む、マイナスなイメージを招きやすい、といったことなどの理由から、現在では、「パーソナリティ障害」という呼び名が一般的になってきています。
さて、“パーソナリティ”とは何でしょうか? “パーソナリティ”と聞くと、いわゆる“性格”を連想される方も多いのではないでしょうか。しかし、厳密には、“パーソナリティ”は“性格”と同義ではありません。“性格”は行動にあらわれる、その人特有の一貫した傾向性のことをいいます。一方、“パーソナリティ”は、そうした性格の根底にある心理的・行動的・生理的・物理的システムのことを指しています。 こうしたパーソナリティについて、気をつけなくてはいけないのは、パーソナリティはあくまで個性であって、どこまでが正常でどこからが異常か、という線引きはできない、ということです。パーソナリティの問題は、周囲の人やものとの関係の中で生じてくるものです。したがって、「本人が苦痛を感じている」「周囲との摩擦が大きい」といった“生活のしづらさ”がポイントとなります。
パーソナリティ障害の特徴
パーソナリティ障害の診断基準については、セミナーの中で紹介されましたが、ここでは、パーソナリティ障害の特徴を大きく3つにまとめてみます。
- 考え方にひどく偏りがある
多くの人がこう考えるだろう、というような「枠」から外れて、ものの考え方が偏っていたり、柔軟性がなく、別の考え方を受け入れることができません。 - パターンが頑なである
臨機応変に対応することがなく、いつでもどこでも極端に偏った対応を続けます。 - 特定の原因がない
ある種の薬や病気など、はっきりした原因がありません。おおむね思春期~青年期(18歳以上)頃からこうした傾向が見られ、続きます。
パーソナリティ障害の分類
さて、こうした特徴をもったパーソナリティ障害は、3群に分けることができますそして、それぞれの群の下に、更に細かい分類がされています。
(1)A群:
統合失調症によく似た傾向をもっています。統合失調症ほどはっきりとした症状はありませんが、自閉的で、妄想を抱きやすく、独特の、風変わりな行動や考え方をします。妄想性パーソナリティ障害、統合失調症質パーソナリティ障害、統合失調症型パーソナリティ障害がこれに含まれます。
(2)B群:
感情的な混乱の激しいパーソナリティ障害です。芝居がかった言動が多く、情緒的で、移り気に見える場合が少なくありません。また、ストレスに対して、非常に弱い傾向があります。反社会性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害がこれに含まれます。
(3)C群:
不安や怯え、引きこもりなどを特徴とするパーソナリティ障害です。周りの人の自分に対する評価や視線などが非常にストレスになる傾向があります。回避性パーソナリティ障害、依存性パーソナリティ障害、強迫性パーソナリティ障害がこれに含まれます。
パーソナリティ障害はなぜ起こる?
パーソナリティ障害が生じる原因は、いまのところ、はっきりとわかっていません。しかし、ただひとつの原因があるというよりは、ご本人の生まれ持った要因や、環境や社会状況、生活上の急激な変化など、様々な要因が複雑に影響しあって生じるものと考えられます。
パーソナリティ障害と診断されたとき、周囲もご本人も、「私たちの何がいけなかったのか」と思い悩むことがままあります。しかし、パーソナリティ障害の治療にとって、いわゆる“原因探し”は意味がありません。重要なのは原因追及よりも、「これからどうすれば、ご本人も、周囲も今より楽に、気持ちよく過ごせるか」を考えることです。
パーソナリティ障害の治療
冒頭に記したように、パーソナリティ障害は、「ご本人が苦痛を感じている」「周囲との摩擦が大きい」ときに、初めて治療の対象となります。しかし、パーソナリティ障害の診断は、精神科の医師にとっても非常に難しく、ましてや一般の方が判断できるものではありません。mずは、専門機関に相談してみましょう。相談する際には、「うちの子はパーソナリティ障害では?」と言わず、どんな様子か、どんな行動を起こしているか、何に困っているか、ということを具体的に伝えましょう。その方が、対応の仕方をよりスムーズに話し合うことができます。
それでは相談は、どのようなところにすればよいのでしょうか?相談先のベストは、精神科のクリニックや総合病院、大学病院、専門病院です。しかし、「いきなり医療機関を訪れるのはちょっと・・・」と感じられる方は、地域の保健所・精神保健センターでも相談に乗ってくれます。ご本人でもご家族でも、まずは、どこかに相談することから治療が始まります。
パーソナリティ障害の治療は、精神療法・薬物療法が中心です。 精神療法で目的とするのは、“心の振れ幅やかたより”を修正することです。そして、自分を見つめる練習をし、病理を自分で扱えるようにし、現在よりも健康なパーソナリティを作っていきます。 パーソナリティ障害における薬物療法の役割は、どちらかというと補助的なもの、と言えるかも知れません。パーソナリティ障害の治療においても、他の疾患と同じように、様々なお薬を使います。たとえば、抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬などです。これらは、患者さんのもつ症状によって、たとえば不安感を抑えるなどの目的で使い分けられます。こうしたお薬の力を使って感情の波を落ち着かせつつ、健康的なパーソナリティを作っていく作業を行うのです。
《薬の服用にあたって気をつけたいこと》
患者さんは・・・
- •水で飲みましょう
お薬の中には、飲み物の成分と反応して、働きが変わってしまうものがあります。 - •医師から指示された量を守りましょう
お薬は、その人のその時の状態に適した量を、医師が慎重に調整して処方しています。 - •他のお薬をむやみに併用しないようにしましょう
お薬は、併用することによって思わぬ副作用を生む場合があったり、効果を相殺してしまう場合があります - •他の医療機関(他科など)でむやみに処方を受けないようにしましょう
他の医療機関で処方を受ける場合は、現在処方されているお薬についてきちんと伝えましょう - •自己判断で服薬を中断しないようにしましょう
お薬について疑問などがある場合には、医師に相談しましょう
ご家族は・・・
- •干渉しすぎず、放置しないようにしましょう
“何となく気にかけている”程度が適度な距離です - •(緊急の場合を除いて)代わりに薬を受け取りに行ったりしないようにしましょう
“お薬を受け取る”という行為も、患者さんが主体的に治療に取り組むという意味を持っています
パーソナリティ障害の治療は、基本的には外来治療が中心となりますが、時に、入院治療が選択されることがあります。
入院治療が選択される場合には、大きく2つの場合が挙げられます。まずひとつには、患者さんがご自身を傷つけたり、他者を傷つけたりする恐れのある場合、または、実際に、ご自身を激しく傷つけている場合があります。パーソナリティ障害では、激しい感情をコントロールできずに、ご自身の身体を傷つけてしまうことがままあります。この場合、生命の安全を考えて、緊急の対処として、入院治療をすすめる場合があります。またもうひとつは、患者さんご本人もご家族も、疲れきってしまっている場合です。こうした場合にも、お互いに物理的に距離をとる目的で、入院治療がすすめられる場合があります。
いずれにせよ、入院治療が選択される場合には、“何のための入院なのか”をじっくりと考えることも、治療のひとつとなります。
《入院にあたって、家族の方は・・・》
- 患者さんが「退院させろ」としきりに訴える時は・・・
患者さんからのこうした訴えへの対応は、医師にバトンタッチするとよいでしょう。患者さんには、「判断は、お医者さんにしてもらうのが良いと思う」とはっきり伝えてみましょう。 - 「休みたいので、もう少し入院していてほしい」そんな思いが強いときは・・・
入院はあくまで一時的な対処です。今よりも少しでもお互いに気持ちよく過ごすには、どういった工夫ができるのか、を、入院中の時間を使って考えてみましょう。 - 「入院が無駄だった」とは言わないで!!
「入院しても何も変わらなかった」「無駄だった」とは言わないでください。どんな入院も、無駄になることはありません。「無駄だった」という評価は、患者さんに、「やっぱり私は駄目なんだ」という思いを強くさせ、治療に対する意欲を奪ってしまいます。
家族全員で心がけたいポイント
パーソナリティ障害の治療には、ご家族の協力が欠かせません。パーソナリティ障害の治療に取り組む際に、家族全員で(もちろん患者さんご本人も)心がけたいのは、次のようなポイントではないでしょうか。
- お父様お母様は、ご自身の問題から目をそらさない
お互いがお互いに患者さんへの対応を任せっきりにしたり、「どうせ頼りにならない」などあきらめの気持ちを持っていませんか? - 本人に対しては、一貫した態度で、対等に接する
腫れものに触るように、何でもご本人の要望通りにすることや、逆に威圧的に接するのではなく、対等な人間として接しましょう。 - 患者さんに御兄弟がいる場合は、比較しない
- 患者さんご本人は、基本的に「自分のことは自分でする」ということを心がける
パーソナリティは、年齢とともに変わっていくものです。パーソナリティ障害の方も、年齢を経ると、穏やかになる傾向があります。しかし、それまでにかかる時間と辛さを考えると、治療を受けた方が良いでしょう。治療を通して直な自分を上手に表現できるようになると、障害をひとつの個性とすることができます。