家族教室

2008年度第4回 家族会報/家族教室開催報告

2008年5月4日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケア

講 師:高 卓士(ハートクリニック/医 師)

テーマ:「発達障害について」

2008年第4回の家族教室は、ゴールデンウィーク中にもかかわらず、たいへん大勢のご家族の方においでいただくことができました。

今回は「発達障害」をテーマに、当院医師の高よりお話をさせていただきました

発達障害とは?

発達障害と聞いて、皆さんはどのようなことをイメージされるでしょうか?

平成17年の4月より施行された「発達障害者支援法」による定義は、次のようになっています。「『発達障害』とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」。また、医学的には、発達障害を、乳児期・幼児期から青年期にかけて生物学的原因(遺伝・体質・脳機能の異常)によって発生する『心身の発達に関する問題と障害』であると定義づけています。

ここで、発達障害のとらえ方の重要なものとして、「可能性・個性」ということを挙げておきたいと思います。

すべての人間は、いろいろな可能性と個性をともに持って生まれてきます。発達障害というのは、そうした生まれながらの可能性や個性のあり方のひとつ、と考えることができます。障害という言葉は、成長の中で“困ること”が生じる場合に付け加える言葉です。したがって、その人の置かれた環境で、“困ること”が全く生じないとしたら、リスクとしては何らかの障害になりうる脳機能の問題があったとしても、障害ととらえる必要はないのです。つまり、周囲の人たちが発達障害の人たちのことを正しく理解し、その人が“困ること”をしっかりと把握することで、発達障害の人たちがよりよく生きていけることになります。発達障害は「障害」ではなくなるのです。

また、ひとくちに発達障害と言っても、状態像は様々です。また、同じ診断名でも、子どもの個性や発達の状況や年齢、置かれた環境などによって目に見える症状は異なります。更に、発達障害があっても、その人ごとの人柄があります。障害があるということで、ひとくくりにするのは間違いでしょう。一人一人のことをしっかり理解しようとうすることが大切です。

発達障害の分類と特徴

発達障害の代表的なものとして、知的障害、広汎性発達障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害、チック障害などがあります。

知的障害

話す力やことばの理解、形を認識する力や状況を理解する力などの知的な能力が年齢に比して全般的に低いレベルにあり、社会生活をしていくうえで理解と支援が必要な状態を知的障害といいます。知的能力を心理検査で評価し、IQ35未満は重度、IQ35~50は中等度、IQ50~70は軽度とされます。IQ70~85は境界域とされ、明らかな知的障害とはいえず、環境を選べば、自立しての社会適応が可能と考えられますが、状況によっては理解と支援が必要なレベルです。

特に現在の教育環境(小学校・中学校)では特別な配慮が必要なことが多いようです。実際は、IQ90くらいまでの子も、しばしば学習についていくのが難しい状況です。知的障害あるいは境界域である子どもは、学習困難であるばかりでなく、まわりの状況が理解できずに勝手だと思われるような行動をとったり、ことばで自分の気持ちをよく表せないために、手を出したり、乱暴な行動をとってしまうなどの行動の問題があったり、友達とうまく遊べなかったり、集団生活にのれないために情緒不安定になっていたりと行動や情緒の問題が前面にでていることもあります。

広汎性発達障害

(1)対人関係が薄く、社会性の発達がわるい、(2)コミュニケーションの障害がある、(3)想像力の障害が根底にあって、興味・活動が限られ、強いこだわりがある。反復的な行動(常同行動)がみられることがある、という特徴を三歳以前からもっている人のことを、広汎性発達障害といいます。

その中で、それぞれの特徴が顕著である場合は自閉症もしくは自閉性障害、特徴はあるけれど症状がそれほど強くない、一部の症状は目立たない、あるいは発症年齢が遅いといった場合は非定型自閉症もしくは特定不能の広汎性発達障害と診断します。また、知的発達の遅れやことばの発達の遅れがない、そして、対人関係以外では、ある程度適応能力をもっているものをアスペルガー症候群と診断します。この場合は周囲の理解と適した環境があれば、少し変わった人と思われるくらいで成長していくことも可能です。好きなことには、人一倍熱中し、ときには、特定の分野で能力を発揮して認められる人もいます。また、広汎性発達障害の人は、(1)~(3)の特徴とも関連しますが、これらの特徴の他、程度の差はありますが、他の人と、喜んだり、悲しんだり、感動したりといった感情を共有しにくく(共感性の乏しさ)、他の人がどのように感じているかを察知することがむずかしい、見通しがつかないと著しく不安になる、また、特定の音や状況に敏感すぎる、時間の感覚が普通と違うなど、感覚・感性の特異さも併せもっています。このため指示に応じる構えや学ぶ構えが育ちにくく、学習にものれないことが多いといえます。

人に合わせることややりとりが苦手で、集団行動がとりづらく、友達もできにくい傾向があります。また、場面の変化や見通しがつかない場面で情緒不安定さが顕著になって、周囲を困惑させたりもします。非定型自閉症やアスペルガー症候群の場合は、もって生まれた発達の問題でありながら、ある程度人とのコミュニケーションが可能であり、手をヒラヒラしたり、ピョンピョン跳ぶなどの顕著な常同行動もないので、どうしてそんなに勝手な行動をとるのか、こだわるのか、人の話を聞かないのかなどが理解されにくく、しばしば、わがままや育て方のせいにされたりして、不適切な対応につながっています。

 

注意欠陥多動性障害(ADHD)

多動<年齢あるいはその子どもの精神発達レベルで考えられる以上に動き回る、体のどこかを動かさずにはいられない様子>、衝動性<後先のことを考えずに思ったこと、ひらめいたことをすぐ行動に移してしまいやすいこと>、不注意<興味があること以外で注意集中困難、注意の対象がすぐ変わる(注意転導)、また気が散りやすいこと(ただし、興味があることには過剰に集中し、すぐに気分を転換できない場合もある)>、これら3つの特徴が多かれ少なかれあって、このために社会的に、あるいは学業、仕事に著しい機能障害がある場合、注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断されます。注意欠陥障害(ADD)、多動症候群ということもあります。このような様子の程度は数値などで示されるわけではなく、評価は主観的なものです。また、このような特徴は、いわゆる健常といわれる子ども、特に元気な男の子には、多少なりともみられるものなので、判断は非常にむずかしいものです。

学習障害

全般的な知的発達の遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、または推論する能力の習得と使用に著しい困難を示すものと定義されます(文部省1999年)。このために学習障害(LD)の子どもは学習に支障をきたしますが、その影響は日常生活にまで及びます。このような子どもは、一部の能力のみが劣っているので、周囲にそのことがわかりにくく、一部の能力が発揮できないのは、なまけているから、わざとやろうとしないから、などと思われてしまい、正しく理解されていないことがあります。また、不得意な部分が目立つために、知的発達全体が遅れていると誤解されることもあります。苦手意識のため、苦手な学習や作業を拒否するような二次的な問題も出てきやすい障害です。ADHDの20~50%はLDを合併しているといわれます。

チック障害

チックは、突発的で急速な、反復性をもった、リズムなく繰り返されるパターン化した運動あるいは発声のことです。したがって、チック症には、運動性チック症、音声チック症があります。

子どもの10~20%に何らかのチック症状が見られるといわれていますが、その多くは一過性と考えられています。4歳から11歳頃に発症することが多く、ピークは6~7歳です。また、男子に多くみられることも特徴です。原因は、慢性的なものであれば、遺伝的なものを含め、脳にあると考えられていますが、環境や心の問題も症状に影響します。一過性のものの中には、心因性のものもあると考えられていますが、その場合、自然に軽快することが多いといわれています。

  • • 一過性チック症
    1種類または多彩な運動性および/または音声チックが頻回に起こりますが、1年以内にチック症が消失するものです
  • •慢性チック症
    1種類または多彩な運動性あるいは音声チックのどちらかが、頻回に起こり1年以上持続するものです
  • •トゥレット障害(ジル・ドゥ・ラ・トゥレット症候群)
    多彩な運動性チックおよび1つまたはそれ以上の音声チックが、同時ではなくても頻回に起こり1年以上持続するものです。10歳すぎ になると、汚言症(卑猥な単語などを言ってしまう)、反響言語(他人の言った言葉などを繰り返す)、反復言語(音声や単語を繰り返す)などの複雑な音声チックが出現することがあります。

これら3つの障害は、連続するものなのかどうかは明らかではありませんが、大きく見れば、1つの集合と考えられています。そして問題なのは、どのようなタイプの一過性チック症が、慢性チック症あるいはトゥレット障害に進展するのかがわかっていないことです。

終りに

特に、自閉症を中核とする自閉症スペクトラムとも呼ばれる広汎性発達障害等の場合、その半数ほどは知的障害をもちません。そうした高機能では今まで一般的にとらえられていた障害というイメージとは一見異なるように見えます。しかし、幼少時からの一貫した指導がないと二次的な問題が大きくなり、知的な能力は高くとも社会適応は難しくなることがあります。発達障害の人たちの場合、問題となるリスクを減らしていく意味でも、彼らのよりよい人生を確かなものにする意味でも、早期からの専門的な療育や発達支援が必要です。