家族教室

2008年度第7回 家族会報/家族教室開催報告

2008年8月3日(日)16:00~17:30 ハートクリニックデイケア

講 師:看護師/ハートクリニックデイケア

テーマ:「薬について」

第7回の家族教室もまた、大変暑い日の開催となりました。テーマは「薬について」とのことで、ハートクリニックデイケアに勤務する看護師より、お話をさせていただきました。

セミナーでは、処方薬と市販薬の違いや、薬の形や使い方からの分類、飲み方、精神科領域で使用される薬について、などが説明されました。ここでは、精神科領域で使用される主要な薬について、概要を紹介したいと思います。

薬物療法と精神療法

現在、こころの病気の治療には、いろいろな治療法が用いられています。心の病気をターゲットにした薬が見つかってきたのは1950年頃からですから、薬物療法が始まってから、まだ50年ほどしか経っていないことになります。

精神療法は、薬を使わないでこころの悩みや病気を治療する技法です。主な精神療法には、精神分析療法、集団精神療法、家族療法、認知行動療法、森田療法、自律訓練法などがあります。これらの治療法は優れた治療法ではありますが、気をつけなくてはいけないのは、自分の病気が精神療法だけで治るかどうか、ということです。これは、治療を行う医師の判断に委ねることが必要です。

現在では、薬物療法と精神療法の併用が、主流の治療法となっています。

抗うつ薬

●抗うつ薬に期待される効果

抗うつ薬には、主に、次のような3つの効果が期待されます。

  • •思考や行動の抑制を解除し、意欲を高める
  • •憂鬱な気分を解消し、反対に気分を高める
  • •不安や緊張、焦燥感を取り除く

●第一世代の抗うつ薬

1940年代から1970年代前半までに開発された抗うつ薬です。確実な効果が期待できることから、現在も広く用いられています。  第一世代の薬は、神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンの両方の再取り込みを妨げ、神経細胞間にそれらの量を増やすことで、うつ病の症状を改善します。

薬の種類によってセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻止するバランスが微妙に違うため、効き目にもそれぞれ特徴があります。

ターゲットとする症状に関連する神経伝達 物質にだけ作用すれば問題ないのですが、そのほかのものにまで作用するため、副作用(口の渇き、便秘、眠気、排尿の困難、目のかすみなど)が強く現れる場合があります。そして、効果が出るまでに2週間ほどかかります。このようなことが欠点といえますが、治療効果が極めて高いことから、症状を取り除くのが先決、といった患者さんにはよく用いられます。

(たとえばこのような商品名のお薬があります:トリプタノール、ラントロン、ノーマルントフラニール、イミドール、クリテミン、アナフラニール)

●第二世代の抗うつ薬

第一世代の欠点を改良するために開発されたもの。しかし、第一世代よりは副作用が弱くなったものの、改良されていない部分もあります。第二世代の抗うつ薬も神経伝達物質の再取り込みを食い止める働きをしますが、作用する神経伝達物質が、第一世代のそれよりも、絞り込まれたかたちになっています。副作用については、第一世代より減ったとはいえ、まだ不十分です。しかし、即効性の面で、第一世代をやや上回ります。

(たとえばこのような商品名のお薬があります:アモキサンルジオミール、クロンモリン、マプレス、テトラミト、テシプール)

●SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

1980年代から1990年代にかけて、次々に開発されました。神経細胞がセロトニンを再び取り込むのを選択的に阻害しますが、その他には全く作用しません。よって、これまで現れていた副作用についての心配は、殆どないものです。副作用が弱い分、効果や第一、第二世代に比し、やや劣ります。よって、重症の患者さんには用いられません。 (たとえばこのような商品名のお薬があります:ルボックス、デプロメール、パキシル)

●SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

セロトニンだけでなく、ノルアドレナリンの再取り込みも阻害するのが特徴。日本では2000年に認可されました。SSRIより強い効果が期待されます。副作用としては、頭痛が起こりやすいようです。 (たとえばこのような商品名のお薬があります:トレドミン)

●抗うつ薬の効き目と副作用

抗うつ薬は、飲めばすぐに効く、というものではありません。効果が現れだすのは、早くて1週間目ごろからで、十分な効果が見られるのは4週間ほどたってからです。

それに対して、副作用の方が早く出現することがあります。そのことを知らずに、「薬を飲んでも効かないどころか、かえって具合が悪くなった」といって勝手に服用をやめたり、量や飲む回数を変える人がいますが、抗うつ薬は血中濃度を保ってようやく効き目が現れる薬です。独断で量を減らしたりすると効果が得られませんから、ぜひとも医師の指示を守って飲み続けて下さい。

さて、抗うつ薬が効いてくると、身体が軽くなったような感じがします。憂鬱な気分も少しずつ消えていき、次第に意欲がわいてきます。身体が軽くなり、何かをすることが億劫でなくなってくると、「もう、薬を飲む必要はないのでは」と考えがちですが、ここは身体の風邪と違うところ、症状がおさまったからといって、もう薬はいらない、というわけにはいきません。

症状が消えても、脳内の神経伝達物質のバランスはまだ正常ではありません。ここで薬をやめてしまうと症状がぶり返し、慢性化するおそれがあります。

抗不安薬

抗不安薬は、不安や不快な緊張、イライラなどの不安定な精神症状を改善する薬です。神経症にだけでなく、心身症、自律神経失調症などの心の病気に使われています。このほか、うつ病や統合失調症の不安などにもよく効きます。内科や外科の病気で起こる不安や痛みも和らげることができます。

抗不安薬のなかには、けいれんをとめる働きを持つものもあるため、てんかんの治療薬として用いられることもあります。また、睡眠薬として用いられるものもあります。 現在、使用されている抗不安薬のほとんどは、「ベンゾジアゼピン系」です。ベンゾジアゼピン系薬剤が主流として使用されている最大の理由は、耐性(身体が薬剤に慣れて効果が出難くなる)や依存性が生じ難い事と、副作用が比較的少ないので安全性が高いからです。

(たとえばこのような商品名のお薬があります:デパス、ソラナックス、レキソタン、メイラックス、セディール、ユーパン、ジアゼパム、リーゼ、レスタス)

抗精神病薬

メジャー・トランキライザーとも呼ばれる抗精神病薬は、統合失調症薬物療法の基本治療薬で、神経伝達物質に作用することにより脳内のバランスを修正します。現在では「定型抗精神病薬」、定型抗精神病薬のうち効果が持続する「持効性抗精神病薬」、「非定型抗精神病薬」の大きく3タイプがあります。

●定型抗精神病薬

定型抗精神病薬は、神経伝達物質のうち主にドパミンに関わっており、神経細胞の末端から放出されたドパミンを受容体が受け取るのを邪魔します。統合失調症急性期の脳内では、ドパミン受容体が過剰に増えていて働き過ぎの状態にあることが分かっています。その働き過ぎの状態を、薬を使って通常の状態に戻すと幻覚や妄想、興奮や混乱が治まるというわけです。

(たとえばこのような商品名のお薬があります:コントミン レボトミン リントン(ハロミドール) インプロメン ニューレプチル メジャピン スタドルフ クレミン トロペロン)

●非定型抗精神病薬

近年では陽性症状に効果があるだけでなく、さらに再発予防効果が高い、副作用が弱い、また従来の効きにくいとされた陰性症状にも効果があるとされる薬剤も登場してきました。それを「非定型抗精神病薬」と呼び、従来の抗精神病薬(定型抗精神病薬)とは区別 しています。

非定型抗精神病薬としての特徴は、主に神経伝達物質のドパミンだけではなく、セロトニンにも作用するということです。セロトニンへの作用が、副作用を軽減したり、陰性症状にも効果をもたらすといわれています。 非定型抗精神病薬は結果的にQuality of Life(QOL)にかかわる様々な要因によいとされています。QOLとは、近年治療効果を測る目安の1つにされている概念で、「生活の質」と訳されます。治療によって日常生活上の様々な側面がどう改善されたかを測定するもので、QOLを高める薬剤は日常生活を改善する効果があることを意味します。

特に定型抗精神病薬が抗コリン症状(口が渇く、のどが渇く、便秘、目のかすみなど)や、抗ヒスタミン症状(眠気、だるい、体重増加など)といった副作用のために、QOLが低下しがちなのに対して、SDA(非定型抗精神病薬の1つの種類)では、これらの副作用が軽減されているために、QOLによい影響を与えるとされています。

(たとえばこのような商品名のお薬があります:リスパダール セロクエル ルーラン ジプレキサ エビリファイ)

ご家族のかかわり

いわゆる“こころの病気”の治療にとって、ご家族の協力が大きな支えとなることは、これまでも繰り返し申し上げてきました。薬の服用についても、同じことが言えると考えられます。ご本人の状態が不安定であり、薬の服用に困難が見られる場合には、積極的に服用の確認をするなど、常に“つかずはなれず”の距離での見守りをお願いしたいと思います。

“一緒に治す”というお気持ちで、一歩一歩の歩みに寄り添って下さい。