家族教室
2009年度第9回 家族会報/家族教室開催報告
2009年10月4日(日)16:00~18:00 ハートクリニックデイケア
講 師:小林 由佳 /ハートクリニック 精神保健福祉士
テーマ:社会資源について
これまで、病気の症状やその治療などについて、どちらかといえばメンタルな面からのテーマを多く取り上げてきましたが、第9回は、「社会資源について」とのテーマで、当院相談室のスタッフ(精神保健福祉士)よりお話をさせて頂きました。
障害年金とは?
セミナーでは、障害年金、生活保護、精神障害者手帳について、また、自立支援通院医療制度などについて紹介されました。更に、制度だけでなく、社会復帰施設と呼ばれる施設などについても紹介されました。ここでは、セミナーに御参加頂いたご家族の方々からもご質問の多かった、制度について、ご紹介したいと思います。
まず、障害年金についてです。障害年金は、病気や怪我によって日常生活や就労の面で困難となることが多くなった状態(=障害)に対して支払われるものです。身体的な障害に対して、精神障害の場合、服薬等で病状は一応安定しているように見えても、実際に生活していく上で、様々な困難が伴うことが多いのは、皆さんも体験上、ご存知かと思います。例えば、食事・服薬・金銭管理・身だしなみなどの日常生活上のことや、その場にあった行動や対応が難しかったり、作業能力や集中力の低下などがあり、こうした状態が障害年金の対象となります(精神障害の場合、統合失調症・気分障害・てんかんなどが対象となります)。
障害年金の種類・受給要件
「障害年金」と一口に言っても、複数の種別があることをご存知でしょうか。国民年金に加入されている方、厚生(共済)年金に加入されている方、それぞれいらっしゃると思いますが、国民年金に加入されている方は「障害基礎年金」、厚生(共済)年金に加入されている方は「障害厚生(共済)年金」を申請することになります。
さて、こうした障害年金を受給するには、一定の要件を満たさなければなりません。年金受給の申請を行う場合には、次の4つのポイントを押さえておくことが大切です。
それは、初診日を確認しておくこと、年金の納付状況を調べておくこと、障害認定日の状態を押さえておくこと、治療歴を押さえておくこと、の4つです。
障害年金を受給する際には、初診日に、国民年金や厚生(共済)年金に加入中であることが求められたり、その初診日までに加入しなければならない期間の3分の2以上の保険料納付が求められたり、障害認定日(障害年金を受けられる障害の状態にあるかどうかを見る日。初診から1年6ヶ月経過した日)の状態が障害年金の等級に該当する状態かどうか、が評価されたりします。手続きをスムーズにするために、予め、これらの情報を整理・確認しておくことが必要でしょう。
障害年金請求の必要書類・申請窓口
実際に、障害年金の請求の際に必要となる書類には、いくつかあります。障害年金の裁定請求書、年金診断書、病歴・就労状況申立書、がその主なものです。中でも、医師が作成する年金診断書は一番重要といえるでしょう。主治医に生活面や就労面での困っている点、その時の病状をよく相談しましょう。または、先に病歴・就労状況申立書などを作成し、主治医に見てもらうのも現実的です。 申請窓口は、請求する年金の種類によって、異なります。障害基礎年金は市区町村役場、障害厚生年金は事業所を管轄する社会保険事務所、障害共済年金は各共済組合となります。
生活保護とは?
日本国憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とし、更に第2項で「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び、公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めています。生活保護制度は、それを具体化したもの、といえるでしょう。「最低限度の生活」とは、「最低の生活」ということではなく、憲法が権利として認めているように、「これ以上の生活が保障されなくてはならない」ということです。権利としての「最低限度の生活」の基準は、現在では、一般世帯の消費支出額の70%となっています。収入が最低生活費の基準額を下回れば生活保護を受けることができます。ですので、こころの病気に罹患している方は、「病気で入院したり、退職して預金などがなくなり、入院費の支払いや生活費の工面ができない」「障害年金と作業所や授産施設の工賃収入があるが、生活が苦しい」などの理由で、生活保護制度を活用することができます。
しかし、とはいっても、生活保護制度は、年金は給料、親(子)からの援助収入(可能な場合)や、預貯金を使っても生活が困難なときに、その不足分について支給されるものです。ですので、預貯金や手持ちの現金のほかにも、換金のできる債権、本来もらえる年金や給料などについては「活用」(=つかう)することが大前提となります。まず、資産を活用すること。土地家屋・貯金・生命保険・有価証券・貴金属・車などがあれば、売却や解約をして生活費にあてます。また、能力を活用すること。働く能力がある人は働かなくてはいけません。しかし、これは、もちろん、病状が悪い、あるいは重い障害があるのに無理して働くということではありません。働く能力を最大限に発揮する、ということです。そして、扶養義務の履行があります。例えば、親子や兄弟姉妹などの扶養義務者から、生活に支障がない範囲で経済的な援助をして貰います。その他、年金や手当など、生活保護以外の法律制度で受けられるものは手続きをします。これらの要件をみたしてもなお、生活に困るとき、その程度に応じて生活保護が受けられることになります。
生活保護の手続き
生活保護は、居住地の福祉事務所に申請します(これを“申請主義”といいます。生活保護は“お恵み”ではなく、国民の権利として行政に対して申請=要求できる、ということです)。申請できるのは、本人・扶養義務者・同居の親族に限られていて、それ以外の人は申請できません。しかし、入院中で外出できないような場合には、病院から福祉事務所へ連絡してもらうことができます。
申請に際しては、保護申請書、収入申告書、資産申告書への記入が必要となります。それ以外に、収入、資産を確認する書類(預金通帳、年金証書、給与明細書等)を求められます。
申請後は、福祉事務所のケースワーカーが自宅を(入院中であれば病院を)訪問し、再度、生活状況、収入、資産状況、身体状況、家族状況などの聞き取り調査を行います。原則として申請の翌日から14日以内に、生活保護の決定がされ、申請者に通知されます(どんなに遅くとも、30日以内に通知されます)。
生活保護は、世帯単位で保護を受ける、受けないが決まります(世帯単位の原則)。この点が個人ごとに決定される年金や手当などとの違いですね。これは、生活の困窮という状態が、個人というよりは、生計を同一にしている世帯全体をみて、初めて把握される、という考えに基づくものなのです。
精神障害者保健福祉手帳とは?
「身体障害者手帳」、「療育手帳」に次ぐ、3つ目の手帳として、1995年より創設されたものです。
こころの病気の特徴として、仕事が長時間できない、新しい環境に慣れるまで時間がかかる、人間関係で疲れやすい、など、生活する上で必要な力が心身両面で弱まることが挙げられます。これらを、病気による障害として理解し、 「障害者基本法」では、こころの病気もまた、福祉施策が必要な障害であると明記しています。こうしたことを背景に、障害の種別と障害の状態を確認し、必要な福祉サービスの利用をしやすくすること、また、障害者の全体数を把握し、福祉施策やサービスの充実を図ることを目的として、手帳制度が始まりました。
手帳の対象者は、精神科の病気があり、長期にわたり日常生活または社会生活への制約(生活障害)がある人です。ただし、病気の種別にはある程度の限定があり、認知症(老人性痴呆)は含まれますが、軽度の神経症や心身症、人格障害や知的障害は対象とされません。年齢や入院・在宅の区別はありませんが、初診日から6ヶ月以上経過している場合にのみ、申請が可能です。
障害者手帳で受けられるサービスは様々で、国・都道府県・市区町村だけでなく、民間の会社が行っているサービスもあります。全国誰でもが受けられるサービスとしては、通院医療費公費負担を申請する際、診断書が不要となる、税制上の優遇措置が受けられる、生活保護の障害者加算の手続きが簡素化される、携帯電話の基本料金が半額となる、などがあります。
有効期限は2年間で、申請には申請書と診断書が必要となります。申請窓口は、現在住んでいる市区町村の福祉保健センターや福祉担当課です。
自立支援医療制度とは?
旧精神保健福祉法第32条の通院医療費公費負担制度が、平成18年4月1日から自立支援医療(精神通院)制度に変更されました。 精神保健福祉法第5条に定める疾患(統合失調症、精神作用物質による急性中毒又は、その依存症、知的障害、精神病質、その他の精神疾患)の治療は、定期的で継続的な通院医療を受けることが必要とされることが多く、比較的長期にわたります。そのため、自立支援医療(精神通院)制度は、通院医療費の費用負担を軽減し受診を促進するための制度です。
精神保健福祉法第5条に定める疾患を有し、継続的に通院医療を必要とされる方が対象となります。具体的には、主治医にご相談ください。精神疾患の治療にかかる通院医療費の原則1割が自己負担額になりますが、受診者が属する世帯の市町村民税額等に応じて負担軽減措置(月額負担上限額の設定)を行います。自立支援医療(精神通院)制度の有効期間は1年となります。新規申請の場合は、お住まいの市区町村の担当窓口において、自立支援医療費(精神通院)支給認定申請書を受理した日が有効期間の始期となります。継続して治療が必要な場合は、有効期間の終了する期日の3ヶ月前から1ヶ月前の日までに、継続申請をしていただくことが必要となります。
まとめにかえて
今回は、こころの病の治療を支えていくために役立つ制度について、説明させていただきました。こうした制度については、残念ながら「知らないと損」という側面が強いものです。家族教室のセミナーが、色々な制度や社会資源について「知る」きっかけとなれれば、と思います。
次回は、「就労支援」といった視点から、お話をさせていただければと思います。ぜひ、ご参加ください。