家族教室

2010年度第3回 家族会報/家族教室開催報告

2010年4月4日(日)16:30~18:00 ハートクリニックデイケア

講 師:利谷 健治 /ハートクリニック 医 師

テーマ:うつ病について

2010年第3回の家族教室は、4月4日に開催されました。今回は、「うつ病について」とのテーマで、ハートクリニックの医師より、その一般的症状、経過、ご家族の対応などについて、お話しさせて頂きました。

 

うつ病とは・・・

うつ病は、ゆううつ感や無気力な状態が長い期間にわたって回復せず、日常生活に支障をきたすようになってしまう病気です。

気分が落ち込むなどの「こころの不調」だけでなく、だるさ、不眠、食欲低下、頭痛などに代表される、「からだの不調」もみられます。

こうしたうつ病は、誰でもかかる可能性があり、決して珍しい病気ではありません。厚生労働省が行った最近の研究では、日本人におけるうつ病の有病率は6.5%と報告されており、日本人の15人に1人は、一生に一度はうつ病にかかる可能性があると考えられます。また、性差でみると、女性のうつ病の有病率は8.3%で、男性の4.2%と比較すると、2倍もうつ病になりやすいと言われています。

「ゆううつな気分」というと、「気の持ちよう」とか、「気にしすぎ」と思われることがあるかもしれません。しかし、うつ病でみられるゆううつな気分は、私たちが日ごろ経験するような日常的なゆううつな気分とは、いくつかの点で異なっています。失恋をしたり、仕事で大きな失敗をしたりすれば、気分が落ち込むのは当然のことです。しかし、多くの場合、数日で回復し、また元気に「頑張ろう」という意欲がわいてきます。ところが、いつまでたっても気持ちが沈んだまま回復せず、1カ月以上もこのような状態が続く場合は、うつ病の可能性が疑われます。つまり、うつ病で体験されるゆううつな気分は、私たちが日常的に経験するゆううつな気分とは、その程度や持続期間において、違いがあるのです。

うつ病は、脳内の神経伝達物質の働きが低下して活力不足となり、ゆううつな気分に見舞われます。ですから、単なる気の持ちようではなく、治療が必要となるのです。

うつ病の症状

うつ病というと、抑うつ気分のような、精神面にあらわれている症状がクローズアップされがちですが、身体面にも症状はあらわれます。ここでは、精神面にあらわれる症状と身体面にあらわれる症状を整理しておきたいと思います。

〈精神面にあらわれる症状〉

  • 感情面  抑うつ気分、不安感、イライラ感、劣等感、後悔、心配症、人に会いたくない、自責感、自殺念慮
  • 思考面  思考力減退、悲観的思考、記憶力低下、妄想(心気妄想、罪業妄想、貧困妄想)
  • 意欲面  億劫、無気力、根気がない、興味・関心の喪失、集中力低下

〈身体面にあらわれる症状〉

全身倦怠感、易疲労、頭重、頭痛、肩こり、筋肉痛、眼精疲労、不眠、過眠、食欲不振、胃部不快感、過食、性欲減退、胸部圧迫感、腰痛、頻尿、口渇、便秘、しびれ感、冷感、関節痛など

こうしたうつ病の症状は“うつ病の四大症状”として

(1)抑うつ気分、(2)精神運動制止、(3)不安焦燥感、(4)自律神経症状

とまとめて表現されることがあります。

うつ病は、心のエネルギーが低下した(あるいはなくなった)状態と言い換えられるかもしれません。症状が進むと、周囲がどんなに面白く感じることでも、まったく楽しくありません。かといって、悲しくて泣けてくるわけでもない状態になってしまうことがあります。うつ病のひどい状態では、感情の動き自体が低下してしまうのです。

うつ病の治療

うつ病の治療の基本は、「休養」「薬物療法」「精神療法」です。

うつ病は、早い段階に適切な治療を受ければ、治る病気です。しかし、放っておくと慢性化しやすく、再発しやすいという特徴があります。うつ病治療の中心は、抗うつ薬などのお薬となり、うつ病の多くは、お薬を服用することでよくなります。うつ病に対する精神療法の中心は認知(行動)療法で、患者さんの情緒の障害と密接に関連している認知の歪みを修正して、患者さんが問題を解決できるよう支援する治療法です。

ただし、いくらお薬を飲んでも、病気のきっかけとなったストレスを受け続けている状態では、なかなかよくなることができません。お薬を飲みながら、十分な休養をとることも必要です。長期にわたってお休みが必要になる場合もあります。また、心の負担になっているような環境の調整も必要です。

治療を始める前の心構え

1.少しでも早く医療機関に相談する

早期に適切な治療を受ければ、それだけ回復が早くなる可能性が高まります。

2.回復をあせらない

お薬の効果が出るまでには数週間という時間が必要です。また、症状が回復するためにも、ある程度の時間がかかります。うつ病はよくなったり悪くなったりを繰り返すため、目先の治療効果や症状の変化にとらわれず、じっくり構えて治療にのぞみましょう。

3.自分の判断で治療をやめない

治療には、十分な量のお薬を服用することが大切です。症状がよくなったからといって、すぐに、お薬の服用をやめてしまうと、再発する場合があります。自分の判断でお薬の量を減らしたり、やめたりしないようにしましょう。

抗うつ薬とは?

抗うつ薬は、うつ病やうつ状態に効果のあるお薬です、うつ病の患者さんは、脳内のセロトニンとノルアドレナリンという物質の働きが低下していると考えられています。抗うつ薬は、このセロトニンとノルアドレナリンのどちらか、あるいは両方の働きを回復させる働きがあります。

《抗うつ薬を飲むときに気をつけること》

  1. 効果が現れるまでに時間がかかります
    効果が現れるまでには、数週間の時間を要します。飲み始めてすぐに効果が現れないからといって、焦る必要はありません。
  2. 少量から始め、少しずつ増量します
    基本的には少量から始めて徐々に増やしていきます。これは、患者さん必要な量を調整するために必要なことで、副作用を少しでも避けることにつながります。途中でお薬の量が増えていくのは、症状が悪化したためではないかと不安になる必要はありません。
  3. 症状がよくなっても、服用を続けましょう
    うつ病は再発・慢性化しやすいため、症状がよくなっても、しばらくはお薬を飲み続けることが大切です。抗うつ薬には依存性や習慣性はありません。
  4. 副作用が出たら相談を
    抗うつ薬は飲み始めに副作用が強く出る場合があります。しかし、しばらく我慢して飲んでいると、ほとんどが自然になくなります。副作用が気になるときは、自分の判断で急にやめず、医師と相談してください。

《お薬を飲み忘れないための工夫》

  1. お薬を携帯するようにしましょう
    急な外出でお薬が飲めなくなった場合に備えて、お薬は携帯するようにしてみましょう。
  2. 通院日を常に確認しておきましょう
    お薬が足りなくならないように、通院日はカレンダーに書き込むなど、常に確認しておきましょう。
  3. お薬は、曜日別に小分けしましょう
    お薬は、予めピルケースなどに小分けにしておきましょう。こうすることで、飲み忘れがないか、すぐに確認することができます。

周囲の方へ(上手なサポートの仕方)

  1. 不安を広げないように声をかける
    受診を勧めるときは、ご本人が受け入れやすい言葉を選んで声をかけます。提案するような言い回しが良いようです。
  2. 「なぜ?」と病気の原因探しをしない
    うつ病だとわかると「なぜ病気になってしまったのか?」と、とかく原因探しをしがちです。しかし、実際には、うつ病の発症には様々な要因が関係していて、特定できないことがほとんどです。病気の原因探しをするよりも、ご家族は「どんな工夫がご本人の回復に役立つか」といった視点で考えると良いでしょう。
  3. ご家族の受診で、診察できることも
    毎回でないにしろ、ご家族が受診に同席する機会を持つようにしてみましょう。一緒に医師の話を聞くことで、患者さんの状態や、サポートの仕方がよくわかります。ご本人が受診に消極的な場合には、ご家族が代わりに受診することも方法のひとつです。医師から聞いたこと、医療機関の様子などをご本人に伝えてあげると、ご本人の不安が和らぐこともあります。
  4. 励まさない
    特に、病気のかかり始めは、患者さんを「頑張って!」とはげますのは逆効果です。がんばりたくてもがんばれない状態を理解してあげてください。ただし、回復期には、“こころのこもった励まし”が必要な時期もあります。
  5. 考えや決断を求めない
    決断を求めないようにします。症状の重いときには、日常的なちょっとした決断も、ご本人にとっては多大な負担となることがあります。決断を肩代わりしてあげましょう。
  6. 無理に外出や運動を勧めない
    外出や運動は、健康な人にとっては気分転換になりますが、うつ病の方にとっては負担になる場合が多いようです。無理に勧めないようにしましょう。
  7. 重要な決断は先延ばしに
    金額の高い買い物、引越し、転職など、大事なことは決定するのを先延ばしにしましょう。できることなら、状態がよくなってからするのが良いでしょう。
  8. 日常生活の負担を減らす
    家事が負担になっていることがあります。「食事はつくらなくていいよ」「ワイシャツはクリーニングに出して」など、家事の負担を減らしてあげてください。