家族教室
2011年度第5回 家族会報/家族教室開催報告
2011年6月5日(日)16:30~18:00 ハートクリニックデイケア
講 師:竹村 泰隆 /ハートクリニック 医 師
テーマ:双極性障害(躁うつ病)および双極性障害Ⅱ型について
2011年第5回の家族教室では、一般的には「躁うつ病」として知られる「双極性障害」について取り上げ、ハートクリニックの医師より、その一般的症状、経過、ご家族の対応などについて、お話しさせて頂きました。
躁うつ病とは・・・
躁うつ病とは、気分障害のひとつで、「双極性障害」のことです。双極性障害の“双極”というのは、“2つの極端な状態にぶれる”という意味で用いられており、気分爽快で元気がありあまる状態である“躁状態”と、憂うつで意欲がなく、おっくうな状態である“うつ状態”を繰り返す、こころの病です。双極性障害はうつ病と比べて、患者数が少ないと考えられてきました。
しかし、近年では、双極性障害の患者さんが、うつ病として治療されているケースもわかってきており、意外に患者数が多いのでは、という見方もあります。
躁状態は・・・
躁状態は、単純に元気だとか、ちょっと陽気だとかいう程度のものではありません。その様子は常軌を逸していて、周囲は不安を感じます。
しかし一方、本人はその自覚がなく、治療を受けたいとは思いません。躁状態では、自発的に病院へ行く、ということはほとんどないといってもいいかもしれません。
躁状態に見られる特徴
●感情面
- 自分はなんでもできるという万能感
- 上機嫌で陽気、気分爽快
- 過度に楽観的、エネルギーに満ち溢れる
●思考面
- アイデアが次から次へと湧いて出る
- 出来そうもないこともすぐに決断
- 話し続けなくては、というプレッシャー
- 過去の思い出がよみがえる
- 誇大妄想
- 注意力が散漫
●行動面
- 他人に指図、干渉、高圧的
- 動き回る
- お金を湯水のように使う、散財
- 周囲と衝突
- 危険な衝動的行為に及ぶ
- しゃべりだすととまらない
●身体面
- 睡眠をとらない
- 食欲亢進
- 性欲亢進、性的逸脱
うつ状態は・・・
病的なうつ状態は、一言でいえば「エネルギーが低下、あるいは枯渇した状態」です。あらゆることに意欲がわかず、普段何気なくやっていたことすら、おっくうになります。無理にやっても、かえって悪化するばかりな状態です。
うつ状態に見られる特徴
●感情面
- 悲哀感、絶望感、悲観的
- イライラ感
- 感情がマヒ
- 無価値観
- 自責感
●思考面
- 物事を後ろ向きにとらえる
- 希望が持てない、自信喪失
- 思考力・集中力の低下
- 決断できない
- 自己否定
●行動面
- 毎日の慣れた仕事や家事、基本的生活習慣 への意欲がなく、生活に障害
- そわそわして意味もなく動き回る
- 誰にも会わない
- 自殺企図
●身体面
- 睡眠の不調
- 欲望低下、食欲低下
- 疲れやすい、頭痛、寒気など全般的な身体 的不調が現れる
双極性障害が及ぼす影響
双極性障害は、躁状態とうつ状態をくりかえすこころの病ですが、本人の社会的損失が大きいという重要な特徴がある病でもあります。
より深刻と考えられるのは、躁状態のときです。うつ状態では、非活動的となるため、影響は少ないのですが、躁状態では、本人は気分爽快で、常軌を逸するほど動き回るため、自らの健康や金銭だけでなく、社会的信用を損なう恐れが非常に強いのです。ですから、そうした損失を最小限に食い止めるためにも、早期の治療が必要ですし、周囲が病気に気づき、受診を促すことが重要です。
また、双極性障害では、再発しやすいという特徴があり、再発を繰り返すほど、症状は激しく、損害は大きくなっていきます。双極性障害の治療では、病気のコントロールということが最重要課題となります。
双極性障害の3タイプ
双極性障害は、症状の現れ方によって、「Ⅰ型」「Ⅱ型」と躁状態もうつ状態も顕著でない「気分循環症」という3つのタイプに分けられています。
双極Ⅰ型
従来いわれてきた、いわゆる「躁うつ病」がこれにあてはまります。Ⅰ型では、躁状態がはっきりしていて重いのが特徴といえるでしょう。Ⅰ型では、躁状態のときの影響がより大きくなります。他人への攻撃性が増し、そのためのトラブルで職を失ったり、家庭生活が破たんしてしまったり、深刻な損失を被るケースがあります。
双極Ⅱ型
うつ状態の部分はⅠ型とかわりませんが、躁状態が軽いのが双極Ⅱ型です。双極Ⅱ型障害は、本人も、そして周りも軽躁状態を病気として見逃しがちです。そのため、本人はうつ状態を実際よりも深刻に受け止めすぎたり、うつ病と間違われて治療が行われたり、と軽視できない病気です。軽躁と絶好調との区別はつきにくく、Ⅱ型の患者さんは、統計上の数字よりも多く存在するのでは、と言われています。
気分循環症
軽い躁状態と軽いうつ状態を繰り返すことが2年以上続き、そうした症状のない時期が2カ月も続かないとき、気分循環症と診断されます。こうした患者さんの特徴は、いつも不安定である、ということです。なんとか社会生活を送ることはできますが、結婚生活や恋愛関係が何度も破たんしたり、アルコール依存や薬物乱用に至るケースもあります。「気分屋」と見誤られがちですが、放置されると、双極Ⅰ型やⅡ型障害へと悪化することもあるので、注意が必要です。
日常的な気分と病的な気分
病気というほどではないにしろ、もともと精神状態がハイになったりすることは、ままあることです。気分の揺れ、というものは誰にでもあるものですが、その程度・持続期間・日常生活への影響などの点で、日常的気分と病的気分は大きく違ってきます。
双極性障害の原因・誘因
双極性障害の原因は、まだはっきりとは解明されていません。しかし、様々な研究により、遺伝子や育った環境、生物学的な問題が複雑に関係しているのではないか、と考えられています。
発症の誘因としては、慢性的なストレスや、生活リズムの乱れ、睡眠不足など、身近なことがきっかけとなって発症することが多いようです。
双極性障害の診断・治療の難しさ
双極性障害は、単極性のうつ病(いわゆる「うつ病」)よりも治療が難しく、長期化する傾向があります。
精神科では、疾患のどの過程で受診するかによって、下される診断が変ったり、その後の治療の戦略が変ってくる場合があります。双極性障害では、躁状態から始まるかうつ状態から始まるか、人によって異なります(多くの研究では、約2/3がうつ状態から始まるとされています)。うつ状態から始まった場合、患者さんに明らかな躁、あるいは軽躁状態が現れるまで数カ月から数年かかるために、医師が正確な診断を下すのはなかなか困難です。また、躁状態から始まった場合でも、本人は躁状態を病的な状態と認識することは難しく、大抵の場合、うつ状態となったときに受診を開始します。そして、本人の口からはうつ状態のエピソードのみが語られることがほとんどです。こうしたことから、双極性障害の場合、最初にうつ病と診断され、うつ病としての治療を開始されることがあります。
双極性障害の治療の困難性は、こうした診断のつきづらさと、さらには、薬物療法を開始しても、躁状態になると服薬の継続が難しくなり、治療が中断し、再発のリスクが高まる、という2つの理由からきています。
双極性障害の治療
双極性障害の治療の基本は、薬物療法です。しかし、それだけで十分といったことはなく、症状を誘発する生活習慣の改善や日常生活の注意も重要なポイントとなります。
薬物療法
躁状態とうつ状態は正反対の症状だから、薬も正反対のものを用いる・・・というのは大きな誤解です。双極性障害では、大きく気分が上下に乱れた状態ですので、これを安定させるための薬を使用します。これを「気分安定薬」と言います(デパスやソラナックスなどの「安定剤」とは異なる種類の薬です)。気分安定薬は、双極性障害に対する特効薬ではありませんが、現在のところ、治療と再発予防に効果があると認められている第一選択薬です。双極性障害の治療で用いられる気分安定薬は、リチウム(商品名:リーマスなど)、バルプロ酸(商品名:デパケン、バレリンなど)、カルバマゼピン(商品名:テグレトール、テレスミンなど)です。双極性障害のうつ状態には、単極性うつ病で用いる抗うつ薬は基本的には用いません。これは、抗うつ薬によって躁転する可能性があるからです。場合により使用する場合にも、気分安定薬との併用がなされます。
日常生活での注意点
双極性障害の治療では、本人が主体性をもって治療・再発予防に取り組むことが必須です。まずは、双極性障害という病を受け入れ、服薬の必要性を理解することが大切です。その上で、病気を上手にコントロールして、普通に生活を送ることが、何よりの武器となります。特に、本人にしかできないこととしては、“生活のリズムを整える”ことがあります。双極性障害はリズムが乱れる病気です。絶対に避けなければならないのは「徹夜」です。また、睡眠のリズムだけでなく、食事や運動など、基本的な生活習慣全体を見直しつつ、自分なりの生活を作っていきましょう。ベースが一定してくると、再発の予兆に本人も周囲もいち早く気づくことができるようになります。