ハートクリニック 浅井理事長がインタビュー取材を受けました。
ドクターズ・ファイルよりインタビューを受けた内容を掲載しております。(取材日2022年10月11日)
地域の特性に応じた治療を展開
大船から始まり、現在は4院のグループだそうですね。診療体制について教えてください。
もともとこの大船院は、心の病気にかかった方がどなたでも気軽に立ち寄れる場所を提供する目的で開院しました。多くの方に利用していただきたいと思い、現在は町田・横浜・小田原でも診療を行っています。大船院をはじめ、各院がある地域にはそれぞれ特性があるため、同じ法人に属するクリニックといっても、どの店舗でも同じ料理が提供されるチェーン店のレストランと違い、少しずつ差があります。各院の所属医師の判断で地域特性に応じた医療を提供していただいております。各院長、副院長をはじめ、医師全員が精神科を専門として、それぞれ得意分野をもつベテラン医師集団です。ご信頼いただけるような心の治療と情報を提供する拠点として、長く機能しているのが特徴です。精神保健福祉士が在籍し、看護部を備えるほか、臨床心理士とも連携し、多面的な治療が可能な体制を整えています。
クリニックにはどのような特徴がありますか?
大船院は大手企業の会社員が多く住む地域にあり、うつ病などで休職された方の職場復帰をサポートするリワークプログラムを実施しています。近隣地域の患者さまには罹病歴の長い方も多く、精神科デイケアのご利用も活発です。また、大船院と同様に横浜・小田原・町田の各院も、それぞれの地域特性に合わせたプログラムを提供しています。
グループ内での情報共有はどのようにしていますか?
情報共有と問題の解決のために、主に3つの会議を行っております。運営に関する問題には、月1回開催される全職種のリーダーによる職場連絡会、精神科医療上の問題は、医師、パラメディカルが参加する4ヵ月ごとのオンライン医局会、そして、年4回開催される感染症予防や医療事故防止のための医療安全講習会です。また、医療技術の水準の向上に努める一環として、横浜市立みなと赤十字病院、あさひの丘病院とのYMCC(Yokohama Mental health Case Conference)や、神奈川県立精神医療センター、久里浜医療センターとの神奈川精神医療フォーラムをそれぞれ年1回実施しています。近隣の精神科医療機関との情報共有と連携を強め、精神医療各分野の主導的な専門家を招いて講演をしていただくなどしています。
カフェのようにくつろげるクリニックを
大船院はどのようなクリニックをめざして開業されたのですか?
精神科医師であった中井久夫先生の「精神科の入院病棟はホテルのようなところでないといけない」というお話に感銘を受け、気軽に足を運び、ほっとくつろげるカフェのような場所をつくりたいと思いました。そこで、カフェのチェーン店の造りなどを観察し、配色なども参考にして、内装に反映させました。また、心のバリアフリーを実践するために白衣は着用せず、看護師もエプロン姿です。新型コロナウイルス感染症対策で今は残念ながら難しいですが、以前のようにお茶やコーヒー、ココアなどを飲みながら、いい音楽を聴いて、待ち時間もゆったりくつろいでいただける日が早く戻ってくればと願っています。
どんなお悩みでの受診が多いですか?
初診では、うつ病、不安障害、適応障害、自閉症、ADHD、双極性障害2型、パニック障害、強迫性障害の方が多いと思います。その後、統合失調症、双極性障害1型の方の割合がだんだん高くなってきますね。発症する確率(罹患率)はうつ病などのほうが、統合失調症などよりずっと多いため、有病率や罹患率の低い統合失調症の方は初診時には少ないのです。しかし、統合失調症などの障害はいつまで治療を続けるべきかに関する基準がはっきりしていないこと、また慢性化する割合がより高いことにより、長く通院されている方は統合失調症などのほうが多くなります。
診察時に身体検査をすることもあると伺いました。
胃の痛みの原因がストレスによる胃酸過多の場合など、痛みやしびれには心因性のものが少なくありません。ですから、必要に応じて体の検査を行う必要があります。WHOの調査によれば、精神的な治療を必要とする患者さまの多くが最初に外科や内科を訪れるそうです。中には「異常なし」とされ、再発の悪循環に陥るケースもあるようです。実際には、手がかりを多く集めないと何が問題の本体なのかわからないのが心の病気の大きな特徴です。落ち込みや不安などの精神症状だけでなく、行動の異常、痛みなど体の症状、もともとの性格、ご家族の病歴などをトータルに検討し、診断基準などと照らし合わせていくのが診断の一般的な流れです。
心の病気の治療はより良い自分になるチャンス
診療の際に大切にしていることは何ですか?
医師のニードは通常、障害の治癒、軽減、再燃予防による患者さまの苦痛の軽減や社会的機能の回復です。私たちは、それ以上に重要なことを患者さまのニード、つまり「本当に求めていること」の実現だと考え、精神医療の知識と技術を用いて最大限に援助させていただいています。患者さまのニードは必ずしもご家族のそれや、職場、あるいは医師が求めるものと合致するとは限りません。むしろ違っていることが少なくありません。私たちは、患者さまのニードをきちんと把握し、その実現の援助を優先するよう努めております。また、治療には複数の選択肢があることが多いので、なるべくわかりやすく説明させていただき、十分ご理解いただいた上で、患者さまと一緒に治療の方法を選択させていただくよう努めております。
患者の家族のケアにも力を入れていますね。
心の病気は体の病気以上に家族の対応が大きく影響するので、ご家族の理解や協力は治療に必須です。逆に、ご家族の対応が治療の阻害要因になることもあるので注意が必要でしょう。当院では、患者さまのご家族を対象に家族会を実施してきました。病気の説明や患者さまと接する際の注意点をお伝えする講義と、同じ悩みを抱える方々のグループディスカッションの2部構成になっています。残念ながら新型コロナウイルス感染症の流行で休止していましたが、今年度はオンラインで再開予定です。また、ご家族向けに、疾患別に患者との接し方をマニュアル化した書籍シリーズを監修しています。『「うつ病の夫」に妻がすべきこと、してはいけないこと』が既に刊行されていて、次いで適応障害についての書籍も刊行いたしました。ご参照くだされば幸いです。
最後に
心の病気も科学的に説明ができるようになってきています。何も変わったことが起きているわけではありません。心臓が悪ければ循環器内科、骨折すれば整形外科に行くのと同様に、心に問題があると思ったら精神科を受診してください。心の症状の半分くらいは身体症状として現れやすいです。体の不調で内科や外科を受診しても原因がはっきりしない場合、自律神経系の問題が原因のことが多く、精神科で治療できるケースも多いです。また、体の病気と同じで、おおよそ7~8割の方がかなり良くなる可能性があると考えています。治癒が難しくてもある程度良くなったり、適応能力が高まったりする可能性もあるでしょう。精神科というと抵抗を感じるかもしれませんが、ジムでトレーニングをして鍛えるのと同様に、適切な対処法を身につけ、より良い自分になれる機会だと考えれば、精神科の受診も悪くないと思えるのではないでしょうか。お気軽にご来院ください。