こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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脳損傷、脳機能不全および身体疾患による他の精神障害

F06 脳損傷、脳機能不全および身体疾患による他の精神障害 Other mental disorders due to brain damage and dysfunction and to physical disease

疾患の具体例

40歳、男性。仕事中に意識を失って発作を起こし、てんかんと診断されました。その2ヵ月後から幻覚が見えるようになったり、誰かに攻撃される妄想を感じたりするようになりました。本人は、てんかんと診断された時に驚きましたから、その精神的ショックから生じた症状では? と考えました。しかし、医師に相談すると、「てんかんによって直接引き起こされた精神障害」と説明されました。

特 徴

脳疾患や、脳に影響を与える全身疾患、毒物による中毒作用(アルコールや一部の薬剤を除く)、ホルモンの作用などが原因となる精神障害です。持続あるいは反復する幻覚や妄想。または不安障害、緊張病、無気力症などの症状が表れます。これらは、元となっている病気に対する心理的な反応によって生じるのではなく、それらの病気によって直接的に引き起こされると考えられています。
また、元の病気を発症してから、数週間~3ヵ月以内に精神障害が生じることが多く見られます。

原 因

原因となる病気は多岐にわたります。脳疾患では、てんかんや辺縁系領域の脳炎、ハンチントン病、脳腫瘍などがあげられます。強く頭を打つなどして起きる頭部外傷が原因で精神障害が引き起こされることもあります。
一方、全身疾患ではがん(特に膵臓がん)、膠原病、クッシング病や甲状腺機能低下症、甲状腺亢進症などの内分泌疾患、低血糖や低酸素症などの代謝性疾患などがあります。 向精神薬ではない薬の中毒作用が原因となることもあります。それには、ステロイドや降圧剤など、身近な薬も含まれます。

症状・経過

原因となっている病気が治ったり、改善したりすると、精神障害も回復します。

治 療

原因となっている病気が治療可能であれは、その治療をします。

診断基準:ICD-10

  1. 脳の疾患、損傷か機能不全、あるいは身体の系統的疾患の存在が確かで、列挙された症候群の中の1つと関連していることが明らかである。
  2. 基礎疾患の経過と精神症候群の発症の間に(数週間あるいは2~3ヵ月の)時間的関連がある。
  3. 基礎にあると推定される原因の除去あるいは改善に伴い、精神障害も回復する。
  4. 精神症候群の原因として他のものを示唆する証拠(重い負因のある家族歴、あるいは誘因となるストレスなど)がない。

条件(a)(b)を満たせば暫定的な診断ができる。4つの条件がそろえば、診断分類はかなり確実となる。 諸状態の中で、以下のようなものがこの項目に分類される症候群をかなり誘発しやすいことで知られている。てんかん、辺縁系領域の脳炎、ハンチントン病、頭部外傷、脳腫瘍、中枢神経に遠隔的影響を与える頭蓋外の悪性新生物(とくに膵臓癌)、脳血管障害、脳血管の損傷あるいは奇形、SLEあるいは他の膠原病、内分泌疾患(特に甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、クッシング病)、代謝性疾患(低血糖症、ポルフィリア、低酸素症など)、熱帯性伝染性寄生虫疾患(トリパノソーマ症など)、非向精神薬(プロプラノロール、L-ドーパ、メチルドーパ、ステロイド、降圧剤、抗マラリア薬)による中毒作用。

診断基準:DSM-5

記載なし

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)