こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

     

器質性妄想性障害

F06-2 器質性妄想性(統合失調症様)障害Organic delusional [schizophrenia-like] disorder

疾患の具体例

45歳男性。いつからか、一人でいても誰かの声が聞こえるようになりました。その声は、自分のことを悪く言ったり、何かを命令してきたります。それが何度も繰り返すようになりました。外出をした時は、誰かに後をつけられているよう気がすることもあれば、常に見張られているように感じることもあり、心が落ち着きません。
病院を受診し、CTを撮ると「脳室拡大」が認められました。脳にある隙間が、広くなっていると言うのです。医師からは「脳の変化が原因で、統合失調症のような症状が表れている『器質性妄想性』」と診断されました。

特 徴

持続性あるいは反復性の妄想に支配されることが、主な症状です。妄想は幻覚をともなっている人もいます。奇妙な妄想、幻覚あるいは思考障害など、統合失調症に似た症状を認めることもあります。妄想の内容は人によって異なり、自分がいじめられている、だまされているなどさまざまです。場合によっては、緊張病性の現象が現れることもあります。緊張病の症状は、じっとして無反応だったり、逆に激しい興奮状態を示したりと多様です。
なお統合失調症は、遺伝やストレスなどが要因によって引き起こされると考えられているのに対し、「器質性妄想性障害」は脳そのものの病気や損傷などが原因になります。 症状は似通っていても、原因は異なる病気です。

原 因

脳の病気や損傷、機能不全、あるいは身体の疾患などによって引き起こされます。

症状・経過

基礎にある病変の経過にともなって変化します。

治 療

元となっている病気が治療可能な状況であれば、その病気の治療をします。

診断基準:ICD-10

F06に定めた器質性原因を推定する基準を満たさなければならない。さらに妄想(迫害、身体的変化、嫉妬、疾病、あるいは自己や他人の死に関するもの)が存在しなければならない。幻覚、思考障害、あるいは孤立した緊張病性現象を推定させる証拠非特異的であったり、脳室拡大(CT検査により認められた)や「ソフト」な神経学的徴候などに限られているときはくだすべきではない。
※「F06脳損傷、脳機能不全および全身疾患による他の精神障害」に定めた基準

  1. 脳の疾患、損傷か機能不全、あるいは身体の系統的疾患の存在が確かで、列挙された症候群の中の1つと関連していることが明らかである。
  2. 基礎疾患の経過と精神症候群の発症の間に(数週間あるいは2~3ヵ月の)時間的関連がある。。
  3. 基礎にあると推定される原因の除去あるいは改善に伴い、精神障害も回復する。
  4. 精神症候群の原因として他のものを示唆する証拠(重い負因のある家族歴、あるいは誘因となるストレスなど)がない。

条件(a)(b)を満たせば暫定的な診断ができる。4つの条件がそろえば、診断分類はかなり確実となる。 諸状態の中で、以下のようなものがこの項目に分類される症候群をかなり誘発しやすいことで知られている。てんかん、辺縁系領域の脳炎、ハンチントン病、頭部外傷、脳腫瘍、中枢神経に遠隔的影響を与える頭蓋外の悪性新生物(特に膵臓癌)、脳血管障害、脳血管の損傷あるいは奇形、SLEあるいは他の膠原病、内分泌疾患(特に甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、クッシング病)、代謝性疾患(低血糖症、ポルフィリア、低酸素症など)、熱帯性伝染性寄生虫疾患(トリパノソーマ症など)、非向精神薬(プロプラノロール、L-ドーパ、メチルドーパ、ステロイド、降圧剤、抗マラリア薬)による中毒作用。

診断基準:DSM-5

記載なし

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)