こころのはなし
こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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クロイツフェルト・ヤコブ病型認知症症/プリオン病による認知症
クロイツフェルト・ヤコブ病型認知症(Dementia in Creutzfeldt-Jakob disease
プリオン病による認知症(Major or Mild Neurocognitive Disorder Due to Prion Disease)
プリオン病による軽度認知障害
疾患の具体例
66歳女性。もともと元気で利発な性格でしたが、少し前から疲れやすくなり、インフルエンザのような症状が表れました。そのうち治ると思っていましたが、数週間のうちに記憶力が低下し、気持ちがふさぎ込んでいきました。 家族は「アルツハイマー型認知症だろうか?」と心配しましたが、日を追うごとに歩くことが難しくなり、だまっているつもりなのに舞踏をしているように体が動いてしまいます。 精神科を受診すると「クロイツフェルト・ヤコブ病型認知症」と診断されました。。
特 徴
クロイツフェルト・ヤコブ病型認知症は、1920年代にドイツの神経病理学者クロイツフェルトと、ヤコブの2人が研究報告したことから、この病名がつきました。 「プリオン」と呼ばれる物質に感染することで起きる「プリオン病」の一種です。ちなみに、プリオン病にはほかにもいくつかの病気があり、そのうちの一つが「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病」です。いわゆる“狂牛病”と呼ばれる病気で、ウシから人へプリオンが伝染することが原因だと考えられています。
通常のクロイツフェルト・ヤコブ病型認知症は、主に中高年に発症します。もっともよく見られる年代は精神科診療ガイドラインによって少し異なり、『ICD-10』では50歳代。『DSM-5』では67歳とされています。いずれにしても、大人であれば何歳でも起こり得ます。
全世界での発生率は、年間100万人あたり1~2症例。生存期間が短いこともあって、患者数は極めて少ない病気です。
原 因
クロイツフェルト・ヤコブ病型認知症の原因は、感染性病原体であるプリオンに感染することです。プリオンはウイルスではなく、もともと人の体に備わっている「ヒトプリオンタンパク遺伝子」が変異してできる特殊なタンパクです。 ほかに、医療行為が原因となる場合もあります。例えば、移植用の角膜や、脳の硬膜がプリオンに汚染されていたために、移植手術を受けた患者が感染したケースが報告されています。また、病気の治療のために用いるヒト成長ホルモンがプリオンに汚染されており、投与された子どもが感染したケースもあります。
症状、経過
最初は、疲労感やインフルエンザのような症状が表れます。やがて認知症の症状が見られ、記憶力の低下や、物事を判断できなくなっていきます。病気が進むとともに、思ったことを言葉にできない「失語」や、手を洗ったり着替えをしたりといった単純な行動ができなくなる「失行」も表れます。
また、意図せずに体が動く不随意運動を示すようになり、まっすぐ歩くことが難しくなります。だまっていても体が踊っているように動く「舞踏病」の症状もあります。ちょっとした物音に敏感に反応する「驚愕反射」もよく見られます。
精神面での症状もあり、情緒不安定、不安、多幸感、抑うつ、妄想、幻覚、著しい人格変化などを伴います。。
治 療
現段階で根治する治療法はありません。精神科での治療は対症療法となり、症状に応じて抗不安薬や抗うつ薬、精神刺激薬などを投与します。初期段階の患者や、その家族が病気に対処するのを援助するために「支持的精神療法」が行われることもあります。 なお、研究分野では遺伝子学的介入手段の開発が期待されています。
予 後
クロイツフェルト・ヤコブ病型認知症は、とても進行の早い病気です。発症から数ヵ月または1、2年の間に認知症が急激に進行し、言葉を発したり動いたりできなくなり、最後はこん睡を経て死に至ります。まれに、2年以上かけて進行することもあります。
診断基準:ICD-10
認知症が数ヵ月から1、2年でかなり急速に進行し、多彩な神経学的症状が合併するか続発するような場合は、すべてクロイツフェルト・ヤコブ病を疑うべきである。いわゆる筋萎縮型のような症例では、神経学的症状が認知症の発症に先行することがある。 通常四肢の進行性の痙性麻痺があり、振戦、固縮、舞踏アテトーゼ様運動を示す錐体外路症状を伴う。他の亜種では、失調、視覚障害あるいは筋れん縮や上位運動ニューロン型の筋萎縮を示すことがある。 本疾患を強く示唆する三主徴は以下のものである。
- ●急速に進行し荒廃していく認知症
- ●ミオクローヌスを伴う錐体路性および錐体外路性疾患
- ●特徴的な(三相性)脳波
診断基準:DSM-5
- 認知症または軽度認知障害の基準を満たす。
認知症
- 1つ以上の認知領域(複雑性注意、実行機能、学習および記憶、言語、知覚-運動、社会的認知)において、以前の行為水準から有意な認知の低下があるという証拠が以下に基づいている。
(1)本人、本人をよく知る情報提供者、または臨床家による、有意な認知機能の低下があったという懸念、および
(2)可能であれば標準化された神経心理学的検査に記録された、それがなければ他の定量化された臨床的評価によって実証された認知行為の障害。 - 毎日の活動において、認知欠損が自立を阻害する(すなわち、最低限、請求書を支払う、内服薬を管理するなどの、複雑な手段的日常生活動作に援助を必要とする)。
- その認知欠損は、せん妄の状態でのみ起こるものではない。
- その認知欠損は、他の精神疾患によってうまく説明されない(例:うつ病、統合失調症)。
軽度認知障害
- 1つ以上の認知領域(複雑性注意、実行機能、学習および記憶、言語、知覚-運動、社会的認知)において、以前の行為水準から軽度の認知の低下があるという証拠が以下に基づいている。
1.本人、本人をよく知る情報提供者、または臨床家による、有意な認知機能の低下があったという懸念、および
2.可能であれば標準化された神経心理学的検査に記録された、それがなければ他の定量化された臨床的評価によって実証された認知行為の軽度の障害。 - 毎日の活動において、認知欠損が自立を阻害する(すなわち、最低限、請求書を支払う、内服薬を管理するなどの、複雑な手段的日常生活動作は保たれるが、以前より大きな努力、代償的方略、または工夫が必要であるかもしれない)。
- .潜行性に発展し、障害の急速な進行が多い。
- ミオクローヌスまたは失調などのプリオン病による特徴的な運動症状が存在する。または生物学的マーカーが存在する。
- その神経認知障害の症状は他の医学的疾患によるものではなく、他の精神疾患ではうまく説明されない。
※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)