こころのはなし

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睡眠関連低換気

睡眠関連低換気 Sleep-Related Hypoventilation

疾患の具体例

40歳、男性。高度な肥満で、睡眠中に呼吸が少なくなったり、何度も目が覚めたりします。日中も眠く、仕事に支障があります。医師の勧めでダイエットをし、CPAP治療(持続陽圧呼吸療法)も受けましたが、あまりよくなりません。ほかに肺や神経などの病気はなく、薬物も使用していません。

特 徴

睡眠関連低換気は、寝ている時の呼吸が少なくなり、体内の酸素が不足(低酸素血症)して二酸化炭素が蓄積(高二酸化炭素血症)する障害です。こうした血液中のガスの乱れは、肺血管のれん縮(けいれん性の収縮)を引き起こし、重篤な場合は右心不全(心臓の右側の機能不全)につながる可能性があります。患者さんによっては、日中の過剰な眠気、睡眠中の頻回な覚醒、朝の頭痛、不眠を訴えることがあります。または認知機能障害や、抑うつが生じる人もいます。 睡眠関連低換気だけが発症することもありますが、他の疾患に併存するほうが多く見られます。アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル『DSM-5』では、睡眠関連低換気の病態を3つに下位分類しています。

特発性低換気
睡眠関連低換気が単独で生じる病態です。肺疾患や肥満、脊椎後側湾症など低換気を起こし得る疾患は併存していません。肺の機能が低下し、特に睡眠時に血中酸素飽和度が低下します。患者さんはしばしば日中の眠気や、夜の頻回な覚醒、不眠を訴えます。

先天性中枢性肺胞低換気
出生直後から現れる病態で、浅い呼吸や睡眠中のチアノーゼと無呼吸を特徴とする病態です。呼吸中枢の自動調節機能に障害が生じることで、睡眠中の肺胞低換気が引き起こされると考えられています。重症例では、継続的な換気補助療法が必要になります。

併存性睡眠関連低換気
何らかの疾患に併発するタイプの低換気です。肺疾患(例:間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患)、神経筋疾患や胸壁の疾患(例:筋ジストロフィー、ポリオ後症候群、頸部脊髄損傷、脊柱後側湾症)、医薬品(例:ベンゾジアゼピン、オピオイド)に関連する疾患などに伴うことがあります。 また、肥満に併発することもあります(肥満性低換気障害)。その場合は、通常体格指数が30を超えており、覚醒中に高二酸化炭素血症が見られます。

有病率

成人における特発性睡眠関連低換気はきわめてまれです。先天性中枢性肺胞低換気もまれであると考えられています。一方で、併存性睡眠関連低換気はかなりよく見られます。 睡眠関連低換気の男女比は、併存する疾患の男女比を反映します。例えば、慢性閉塞性肺疾患は男性によく見られ、加齢とともに増加します。

経 過

特発性睡眠関連低換気は、ゆるやかに進行すると考えられています。 先天性中枢性肺胞低換気は、通常、出生時に浅く不安定な呼吸、あるいは無呼吸が認められます。胎生期、小児期、成人期に明らかになる場合もあります。この疾患のある子どもは、自律神経系の障害、ヒルシュスプルング病、神経節腫瘍、特徴的な箱形顔貌(顔が短い)が伴いやすいとされています。 なお、他の疾患に併存する場合は、もととなる疾患の重症度を反映して、特発性睡眠関連低換気も進行します。

原 因

環境要因
呼吸をしようする力は、中枢神経系を抑制する物質(例:ベンゾジアゼピン、オピオイド、アルコール)を使用していると低下する可能性があります。

遺伝要因と生理学的要因
特発性睡眠関連低換気は、肺の換気をコントロールする神経の欠陥が関係している可能性があります。先天性中枢性肺胞低換気は、胎生期の自律神経系と神経幹の分岐の発達に重要なPHOX2Bの遺伝子変異が関係しています。この障害のある子どもは、ノンレム睡眠期における高二酸化炭素血症に対して換気反応が鈍くなります。

診断基準:DSM-5

  1. 二酸化炭素値の上昇と関連する呼吸減少のエピソードがポリソムノグラフィで認められる(注:二酸化炭素の客観的測定がない場合、無呼吸/低呼吸と関連しない持続性のヘモグロビン酸素飽和度の定値は、低換気を示唆するかもしれない)。
  2. その障害は現在認められている他の睡眠障害ではうまく説明されない。。

いずれかを特定せよ
特発性低換気
この下位分類は、いかなる既存の特定される状態によらない。

先天性中枢性肺胞低換気
この下位分類は、まれな先天性疾患で、その人は定型的には周産期に浅い呼吸、または睡眠中にはチアノーゼと無呼吸を呈する。

併存性睡眠関連低換気
この下位分類は、肺疾患(例:間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患)、または神経筋疾患や胸壁の疾患(例:筋ジストロフィー、ポリオ後症候群、頸部脊髄損傷、脊柱後側湾症)、または医薬品(例:ベンゾジアゼピン、オピオイド)のような医学的疾患の結果として生じる。それは、肥満とともに生じ(肥満性低換気障害)、胸壁協働低下による呼吸運動の仕事量の増大、換気/血流の不一致、さまざまに減少した換気推進力の組み合わせを反映している。そのような人は、通常体格指数が30を超えており、覚醒中の高二酸化炭素血症(二酸化炭素分圧が45を超える)によって特徴づけられ、他の低換気の証拠がない。

現在の重症度を特定せよ
重症度は、睡眠中に存在する低酸素血症と高二酸化炭素血症の程度とそれらの異常によって生じる終末器官の障害(例:右心不全)によって点数がつけられる。覚醒時の血液ガス異常の存在は、より高い重症度を示している。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)