こころのはなし
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性欲欠如あるいは性欲喪失
F52.0 性欲欠如あるいは性欲喪失 Lack or loss of sexual desire
女性の性的関心・興奮障害 Female sexual Interest/Arousal Disorder /
男性の性欲低下障害 Male Hypoactive sexual Desire Disorder
疾患の具体例
38歳、女性。結婚して10年がたちますが、夫との性行為がうまくできず、子どもはいません。厳しい両親のもとに育てられ、思春期の頃から性に対して嫌悪感を持っていました。結婚当初は、なんとか夫の求めに応じて性行為をしていましたが、性的な興奮や快楽を得ることはありません。そのうちにセックスレスとなり、夫から不満を訴えられるようになりました。自分としても、今の状態に苦痛を感じています。一度、婦人科の診察を受けましたが、女性機能としては問題が見つかりませんでした。精神科に相談すると「性的関心・興奮障害」と診断されました。
症 状
性的な楽しさあるいは興奮がなく、自発的な性行為が少なく、なおかつ何らかの苦痛を伴う状態です。自分から性行為をしようと行動を起こさず、パートナーが行動を起こしてきても最小限しか応じられません。男性にも女性にも起こります。男女ともに、加齢による性的思考の標準的な衰えや、短期間の性的関心・興奮の減退はよく見られることです。それらを考慮した上で、6ヵ月以上にわたり性的関心が低下、または欠如している場合に「性的関心・興奮障害」または「性欲低下障害」と診断が下されることがあります。 ただし、男性は性欲が低い場合でも、性的活動(自慰行為やパートナーとの性的活動)を行うことがあります。
有病率
比較的幸福な夫婦を対象にした調査では、33%の女性が性的気分を持続することが難しいと述べています。 男性の性欲低下障害は、出身国や調査方法によって異なるものの、若年男性(18~24歳)の約6%、高齢男性(66~77歳)の41%になんらかの問題があると言われます。しかし、性に関する興味が6ヵ月以上持続して欠如する割合は、16~44歳のわずか1.8%です。
原 因
【女性】
気質要因
性に関する否定的な認知(心配、罪悪感、恐怖など)や、精神疾患の既往歴が原因になっていることがあります。性に関する情報が不足していたり、性行為に対して非現実的な期待や基準を持っていたりする人もいます。性的苦痛と、性生活の不満も高い相関性があります。
環境要因
親との関係性や子どもの頃のストレスなど生育歴が関係している場合があります。また、大人になってからの性的・身体的虐待、全般的な精神機能、アルコールの使用と併存している場合もあります。
伝要因と生理学的要因
糖尿病、甲状腺機能障害など、いくつかの医学的疾患が原因となり得ます。遺伝要因が強く影響することもあります。また、炎症性または過敏性腸疾患が性的興奮の問題と関係しています。
【男性】
気質要因
気分や不安の症状は、男性の性欲低下の有力な予測因子となります。精神疾患の既往歴のない男性には15%しかいないのに比べ、精神疾患の既往を持つ男性の半分に達する人が、中程度から重度の性欲低下を持つとも言われています。
環境要因
アルコールの使用は性欲低下の発症を増加させるかもしれません。また、その男性にとって有害な問題(例えば、関係の解消を考えている女性の妊娠を懸念するなど)に対する適応的反応として、性欲が低下している可能性があります。なお、同性愛の男性においては、自分に向けられた同性愛恐怖、対人関係の問題、態度、適切な性教育の欠如、幼少期の経験からの心的外傷を考慮しなくてはなりません。。
遺伝要因と生理学的要因
高プロラクチン血症などの内分泌疾患が、男性の性欲低下に影響を及ぼす可能性があります。性腺機能低下症の男性には性欲低下がよく見られます。また、勃起および射精の心配と男性の性欲低下障害が関連することもあります。勃起しなかったり、持続しなかったりした経験が、性的活動に対する興味を失わせるかもしれません。
診断基準:ICD-10
記載なし
診断基準:DSM-5
【女性の性的関心・興奮障害】
- 以下のうち3つ以上で明らかになる性的関心・興奮の欠如、または意味のある低下
- 性行為への関心の欠如・低下。
- 性的・官能的な思考または空想の欠如・低下。
- 性行為を開始することがない、または低下しており、典型的には相手の求めに受容的ではない。。
- ほとんどすべて、またはすべて(70~100%)の性的出会い(そのような状況的環境、または全般型ではあらゆる状況)における、性行為中の性的興奮や快楽の欠如・低下。
- 内的または外的な性的、官能的な手がかり(例:記述、言葉、映像)に反応した性的関心・興奮の欠如・低下。
- ほとんどすべて、またはすべて(70~100%)の性的出会い(そのような状況的環境、または全般型ではあらゆる状況)における、性行為中の性器または性器以外の感覚の欠如・低下。
- 基準Aの症状は、少なくとも約6ヵ月は持続している。
- 基準Aの症状は、その人に臨床的に意味のある苦痛を引き起こしている。
- その性機能不全は、性関連以外の精神疾患、または重篤な対人関係上の苦痛(例:パートナーによる暴力)、または他の意味のあるストレス因の影響ではうまく説明されないし、物質・医薬品または他の医学的疾患の作用によるものではない。
いずれかを特定せよ
来型:その障害は、その人の性的活動を始めたときから存在していた。
獲得型:比較的正常な性機能の期間の後に発症した。
全般型:ある特定の刺激、状況、または相手に限られない。
状況型:ある特定の刺激、状況、または相手の場合にのみ起こる。
該当すれば特定せよ
中毒中の発症:その物質・医薬品による中毒の基準を満たし、症状が中毒中に発症した場合は、この特定用語が用いられるべきである。
中断または離脱中の発症:その物質・医薬品の中断/離脱の基準を満たし、症状が物質・医薬品中止の期間中または直後に発症した場合は、この特定用語が用いられるべきである。
【男性の性欲低下障害】
- 性的・官能的な思考または空想、および性的活動への欲求が、持続的または反復的に不十分である(または欠如している)。不十分かどうかの判断は臨床医によってなされ、年齢やその人の人生の全般的および社会的文化的背景など、性的活動に影響を与える要因を考慮に入れる。
- 基準Aの症状は、その人に臨床的に意味のある苦痛を引き起こしている。
- その性機能不全は、性関連以外の精神疾患、または重篤な対人関係上の苦痛、または他の意味のあるストレス因の影響ではうまく説明されないし、物質・医薬品または他の医学的疾患の作用によるものではない。
いずれかを特定せよ
来型:その障害は、その人の性的活動を始めたときから存在していた。
獲得型:比較的正常な性機能の期間の後に発症した。
全般型:ある特定の刺激、状況、または相手に限られない。
状況型:ある特定の刺激、状況、または相手の場合にのみ起こる。
※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)