こころのはなし
こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸
閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸 Obstructive sleep apnea hypopnea
疾患の具体例
54歳、男性。日中の眠気と倦怠感が強いため、医療機関を受診しました。毎晩7時間以上眠っていますが、頻繁に目が覚め、朝起きたときに頭痛がします。重度の肥満で、糖尿病と高血圧症もあります。大きないびきをかくため、数年前から妻と寝室が別です。妻によると、彼は眠っている間に断続的に呼吸が止まり、喘ぐように息をしているそうです。
特 徴
閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸は呼吸関連睡眠障害の一つで、もっとも発症頻度の高いタイプです。眠っている間に上気道(鼻腔から喉頭まで)が部分的、または完全に閉じてしまうことで、呼吸が止まったり浅くなったりします。成人では、少なくとも10秒間持続する呼吸量の低下、子どもでは2回の呼吸欠損があります。寝ている時に大きないびきをかき、何度も目が覚め、日中の眠気が強いことが特徴です。患者さんによっては、胸焼け、夜間多尿、朝の頭痛、口の渇き、勃起障害、性欲減退などを訴えることもあります。
成人の場合、ポリソムノグラフィ(終夜睡眠ポリグラフ検査)を用いて、睡眠中の脳波や血液中の酸素の量、心電図などを確認します。その結果、睡眠1時間あたり5回以上の閉塞性無呼吸または低呼吸があり、夜間の呼吸障害(いびき、鼻鳴らし、喘ぎ、または呼吸停止)と、日中の眠気、疲労感などが認められ、なおかつ他の疾患によるものではない場合に、閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸と診断されます。いびきや日中の眠気などがなくても、1時間に15回以上の閉塞性無呼吸・低呼吸が確認されれば、この疾患と診断されることもあります。
この疾患のある人は、いびきや眠気の影響で業務災害の危険性が2倍になることが報告されています。また、無呼吸低呼吸指数の値が上昇している人は、自動車事故にあう頻度が7倍になることがわかっています。閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸で精神科を紹介された人の1/3が抑うつ症状を訴えており、10%に中等度~重度の抑うつ症状があります。
有病率
非常に頻度の高い疾患で、子どもの1~2%、中年成人の2~15%、高齢者の20%以上に発症していると推測されています。男性に多く、男女比は2:1~4:1とされています。女性は閉経後に発症頻度が増加します。もっとも多い世代は40~60才で、子どもは鼻づまりが生じやすい3~8才の有病率が高いことがわかっています。
経 過
通常、いつの間にか発症し、徐々に進行して慢性の経過をたどります。大きないびきは、しばしば幼少期から何年も続いています。体重増加は症状を悪化させることがあります。
原 因
遺伝要因と生理学的要因:最大のリスク要因は、肥満と男性です。ほかに、下顎後退や小顎症、睡眠時無呼吸の家族歴もリスク要因になります。ダウン症やトリーチャー・コリンズ症候群、扁桃腺肥大といった上気道の開放性を減らす遺伝的疾患が原因のこともあります。
治 療
閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸の治療法には、減量指導、陽圧呼吸法、手術、口腔内装具などがあります。多くの患者さんで減量が有効ですが、体重を減らして、さらに維持することは難しいため、他の治療法も並行して行うことが一般的です。
○陽圧呼吸法
睡眠呼吸障害の治療においてもっとも一般的な方法です。「CPAP療法」(Continuous Positive Airway Pressure)といって、寝ている間に専用の送風機を鼻に装着します。送風機についているエアチューブを通して鼻に空気が送り込まれ、気道の閉塞を防ぎます。圧が適切に設定されると、最重症の睡眠時無呼吸でも劇的に改善します。
○手術
気道の閉塞や形状異常を矯正する方法として、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)があります。睡眠時無呼吸症状のほとんどが改善すると報告されていますが、長期に有効な患者は30~50%に止まっています。UPPPが有効な患者さんは、中咽頭閉塞のあることが多いようです。
○口腔内装具
軽症~中等症の閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸に有効だと考えられています。マウスピース型の装具を口に入れ、下顎を前に動かしたり、口蓋を持ち上げたり、舌を保持したりすることが一般的です。
診断基準:DSM-5
- 1)または(2)のいずれか:
- ポリソムノグラフィにおいて、睡眠1時間あたり5回以上の閉塞性無呼吸または低呼吸の証拠、および以下の睡眠時の症状のいずれか。
(a)夜間の呼吸障害:睡眠中にいびき、鼻鳴らし、喘ぎ、または呼吸停止。
(b)日中の眠気、疲労感、睡眠をとる機会が十分だったにもかかわらず回復感のない睡眠で、(睡眠障害を含む)他の精神疾患ではうまく説明できず、他の医学的疾患によるものではない。 。 - 随伴症状とは関係なく、ポリソムノグラフィにおいて睡眠1時間あたり15回以上の閉塞性無呼吸および/または低呼吸の証拠がある。
現在の重症度を評価せよ
軽度:無呼吸・低呼吸指数が15より低値
中等度:無呼吸・低呼吸指数が15~30
重度:無呼吸・低呼吸指数が30より高値
※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)
『DSM-5 ケースファイル』(医学書院)