こころのはなし
こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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中枢性睡眠時無呼吸
中枢性睡眠時無呼吸 Central Sleep Apnea
疾患の具体例
43歳、男性。以前から心不全を患っていましたが、ここ1年は仕事が忙しくて治療を受けられず、症状が悪化していました。仕事中に動悸や息切れを感じ、夜間も呼吸が苦しくて目が覚めるようになりました。日中は眠たくて仕方がありません。
特 徴
中枢性睡眠時無呼吸は、呼吸中枢の異常によって睡眠時の呼吸が障害される疾患です。呼吸中枢は脳の延髄にあり、肺や胸郭、末梢神経などに指令を出して呼吸運動を引き起こしています。しかし、何らかの影響によって指令が出なくなり、呼吸が止まったり浅くなったりするのです。睡眠ポリグラフ検査で1時間あたり5回以上の中枢性無呼吸が確認されることが、診断要件になっています。同じ睡眠時無呼吸に「閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸」もありますが、こちらは呼吸しようと努力するのに対し、中枢性睡眠時無呼吸はそうした努力が見られません。
アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル『DSM-5』では、中枢性睡眠時無呼吸の病態を3種類に分類しています。そのうちの一つ、「特発性中枢性睡眠時無呼吸」は特定の原因が見当たらない病態です。閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸に見られる気道の閉塞もありません。 「チェーンストークス呼吸」は、呼吸の亢進(激しい呼吸)と呼吸努力が低下して無呼吸・低呼吸になる状態が交互に現れます。呼吸パターンは独特で、1回の換気量(肺を出入りするガスの総量)が徐々に増えたあと、徐々に減っていく漸増漸減を示します。夜間は呼吸が苦しくて、何度も目を覚まします。心不全、脳卒中、腎不全のある人に起こりやすい病態です。 もう一つの病態は「オピオイド使用に併存する中枢性睡眠時無呼吸」で、鎮痛剤のオピオイドを長期間使っている人に生じることがあります。オピオイドの影響で、呼吸に関わる神経筋がうまくコントロールできなくなると考えられています。
なお、『DSM-5』の分類にはありませんが、中枢性睡眠時無呼吸はほかにもいくつかの病態が存在します。「高地での中枢性睡眠時無呼吸」は、しばしば標高7600メートル以上の高地で起こります。高地で過換気になった結果として、低酸素ガス血症という状態になり、睡眠時の換気が抑制されると考えられています。また、「チェーンストークス呼吸以外の身体疾患による中枢性睡眠時無呼吸」もあり、脳幹の病変が原因となっていることが多いようです。薬物関係では、オピオイド以外の薬物・物質でも神経筋制御に影響を与え、中枢性睡眠時無呼吸を引き起こす場合があります。
有病率
特発性中枢性睡眠時無呼吸の発症頻度はよくわかっていませんが、まれであると考えられています。 チェーンストークス呼吸の発症頻度は、心室駆出率(心臓の収縮力を示す値)が低下した人に多いとされています。45%の心室駆出率の人にチェーンストークスが生じる頻度は20%以上と報告されています。また、急性脳卒中を起こした人の約20%にチェーンストークス呼吸が生じるという報告もあります。 オピオイド使用に併存する中枢性睡眠時無呼吸は、がん以外の痛みで慢性的にオピオイドを服用している人と、メサドン(鎮痛薬)を使っている人の約30%に生じると言われています。
原 因
遺伝要因と生理学的要因
特発性中枢性睡眠時無呼吸の原因はよくわかっていません。チェーンストークス呼吸は、心不全や脳卒中、腎不全と関係しています。心不全に関しては、潜在する換気の不安定さが呼吸を調整する化学受容体の感度を高めたり、肺血管のうっ血を引き起こして過換気になったり、循環を遅れさせたりするためと見られています。
診断基準:DSM-5
- ポリソムノグラフィで睡眠1時間あたり5回以上の中枢性無呼吸の証拠。:
- その障害は、現在認められている他の睡眠障害ではうまく説明されない。
いずれかを特定せよ
特発性中枢性睡眠時無呼吸
換気努力の多様性によって引き起こされているが気道閉塞の証拠がない。睡眠時の無呼吸と低呼吸のエピソードの反復によって特徴づけられる。
チェーンストークス呼吸
1回換気量は周期的な漸増漸減型の様式で、それが1時間あたり少なくとも5回の頻度で中枢性の無呼吸と低呼吸を起こしており、頻回の覚醒を伴う。
オピオイド使用に併存する中枢性睡眠時無呼吸
この下位分類の病態生理は、オピオイドの延髄呼吸リズム中枢への影響および低酸素対高二酸化炭素による呼吸促進への差動性影響によるものである。
現在の重症度を特定せよ
中枢性睡眠時無呼吸の重症度は、呼吸障害の頻度と、繰り返される換気障害の結果として生じる関連する酸素飽和度低下と睡眠の断片化の程度によって分けられる。
※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)