こころのはなし
こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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フェンシクリジン中毒
フェンシクリジン中毒 Phencyclidine intoxication
疾患の具体例
19歳、男性。路上で混乱していたところを警察に保護され、病院に搬送されました。看護師や医師に対して攻撃的な行動を取りましたが、静かで暗くした診察室に座らせると落ち着きました。これまでフェンシクリジンを乱用していたこと、この日はいつもより多く使用したことを話しました。
特 徴
フェンシクリジンは、「麻薬及び向精神薬取締法」で麻薬に指定されている物質です。フェンサイクリジン、PCP(Phencyclidine)、エンジェルダストとも呼ばれます。フェンシクリジン中毒は、この物質を使用したことによって行動や精神状態に異常が現れる障害です。よく見られる症状として、時間や場所、人がわからなくなる見当識障害、幻覚を伴わない錯乱、幻覚または妄想、緊張病様症候群(体が硬直し、興奮または昏迷する)、さまざまな程度の昏睡が挙げられます。 また、フェンシクリジン中毒になった結果として、心血管系毒性や神経毒性(例:てんかん発作、ジストニア、ジスキネジア、カタレプシー、低体温または高体温)が生じる場合もあります。
有病率
の障害の有病率ははっきりとわかっていませんが、一般人口の約2.5%が過去にフェンシクリジンを使用したことがある、という調査結果があります。この使用率から、フェンシクリジン中毒の有病率を推定できるかもしれません。
経 過
フェンシクリジン中毒の持続時間は、通常、数時間ですが、他の物質も使用している場合は、数日またはそれ以上持続する可能性があります。
治 療
治療の基本は、安心と支持的精神療法です。静かな環境、口頭での安心感、時間の経過によって体内のフェンシクリジン濃度が低下するのを待ち、再びフェンシクリジンを使用しないように導きます。発作や低体温症、高血圧クリーゼ(血圧の急上昇)などの身体的な危険に対しては、その都度対症療法をすることになります。不安が強い場合は、抗精神病薬やベンゾジアゼピンを投与することもありますが、どの薬物の効果が優れているかはよくわかっていません。
診断基準:DSM-5
- フェンシクリジン(または薬理学的に同様の物質)の最近の使用
- 臨床的に意味のある問題となる行動変化(例:反抗性、攻撃性、衝動性、予測困難性、精神運動興奮、判断力低下)が、フェンシクリジン使用中または使用後すぐに発現する。
- 以下の徴候または症状のうち2つ(またはそれ以上)が、1時間以内に発現する。
注:その薬物が喫煙、“鼻腔吸引”または静脈注射で使用された場合には、発現は特に急速であるかもしれない。
- 垂直の、または水平の眼振。
- 高血圧または頻脈
- 知覚麻痺または痛みへの反応の低下。
- 運動失調
- 構音障害
- 筋強剛
- てんかん発作または昏睡
- 聴覚過敏。
- その徴候または症状は、他の医学的疾患に起因するものではなく、他の物質による中毒を含む他の精神疾患ではうまく説明されない。
※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)
皆様へのお願い
非合法薬物などの治療には専門的対応が必要となります。当院ではこれに対応することはできませんので、専門の医療機関(神奈川県立精神医療センター/大石クリニック)をご受診いただけますようお願いいたします。あらかじめご了承ください。