こころのはなし
こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
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吸入剤中毒
吸入剤中毒 Inhalant Intoxication
疾患の具体例
16歳、女性。15歳から吸入剤を乱用しています。ヘアスプレーや塗料、マニキュア、除光液、漂白剤などさまざまな物質の吸引を繰り返してきました。学校に行かず、1日中、吸入剤を使用していて酔っ払ったような状態になったことや、意識を失ったことがあります。
特 徴
吸入剤中毒は、揮発性の炭化水素物質を吸引したことによって引き起こされる精神疾患です。吸入剤は接着剤、燃料、塗料などさまざまな物質があり、それらが気化した有毒ガスを吸い込むことで中毒症状が起こります。 症状は、めまいや眼振、協調運動障害(体の動きをうまくコントロールできない)、ろれつの回らない会話など多様です。使用量が多い場合は昏睡状態に陥ることもあります。無気力になって学業や仕事ができなくなったり、衝動的・攻撃的な行動をとる人もいます。また、不整脈や心停止が生じて突然死をする可能性もあります。
有病率
一般人口における吸入剤中毒の有病率は不明ですが、吸入剤使用(乱用)者のほとんどは、ある時点で吸入剤中毒の基準を満たしていると考えられます。したがって、吸入剤使用者と吸入剤中毒の有病率はほぼ同程度と推定されます。2009年と2010年のアメリカの調査では、過去1年間に吸入剤を使用した12歳以上の割合は0.8%と報告され、特に若い世代で高い割合でした(12~17歳は3.6%、18~25歳は1.7%)。。
経 過
吸入剤の使用を終えて数分~数時間以内に症状が消えることが多いとされています。そのため、何度も吸入剤の使用を繰り返す人がいます。吸入剤の使用が頻繁な場合は、持続的な医学的あるいは神経学的な問題が生じる場合もあります。
原 因
治 療
常、吸入剤中毒は医学的な治療をしなくても自然に回復します。しかし、中毒による昏睡、気管支けいれん、不整脈、外傷のような症状は、それぞれに応じた治療が必要です。ベンゾジアゼピンなどの鎮静剤は、吸入剤中毒を悪化させるので禁忌です。
診断基準:DSM-5
- 最近の意図した、または意図しない短時間の大量の吸入剤への曝露で、トルエンまたはガソリンなど揮発性の炭化水素を含む。
- 臨床的に意味のある問題となる行動的または心理学的変化(例:好争性、暴力性、無気力、判断力低下)が、吸入剤の曝露中または曝露後すぐに発現する。
- 以下の徴候または症状のうち2つ(またはそれ以上)が、吸入剤の使用中または曝露中、または直後に発現する。
- めまい
- 眼振
- 協調運動障害
- ろれつの回らない会話
- 不安定歩行
- 嗜眠
- 反射の低下。
- 精神運動制止
- 振戦
- 全身性の筋力低下
- 目のかすみまたは複視
- 昏迷または昏睡
- 多幸症
- その徴候または症状は、他の医学的疾患によるものではなく、他の物質の中毒を含む他の精神疾患ではうまく説明されない。
※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)
皆様へのお願い
非合法薬物などの治療には専門的対応が必要となります。当院ではこれに対応することはできませんので、専門の医療機関(神奈川県立精神医療センター/大石クリニック)をご受診いただけますようお願いいたします。あらかじめご了承ください。