こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

     

精神刺激薬使用障害

精神刺激薬使用障害 Stimulant Use Psychosis

疾患の具体例

31歳、男性。数年前からコカインを使用しています。職場の机の引出にコカインを隠し持ち、毎日のように仕事を抜け出して鼻からコカインを吸っていました。家族への発覚を避けるため、自宅で使用することはまれでしたが、常にコカインを渇望する気持ちが強く、朝早く会社に出勤してコカインを使用することもありました。

特 徴

「精神刺激薬使用障害」は、アンフェタミンやコカインといった精神刺激薬の多量あるいは長期的な使用を、やめようと思ってもやめられない障害です。精神刺激薬を使用したいという強い欲求が存在し、そのために借金をしたり、犯罪的な行為をしたりする場合もあります。

これらの物質は注射や吸入などによって摂取しますが、使用後すぐに覚醒、幸福感、自信がみなぎる感覚などが生じます。長期にわたって精神刺激薬使用障害が続くと、混乱した行動、攻撃的行動、性機能不全、社会的孤立などが起こります。精神刺激薬を使用しているために仕事や学校へ行けなくなったり、家族や友人との関係が悪くなったりします。アンフェタミンの乱用は身体徴候(例:体重減少、妄想観念)が出現します。また、コカインの乱用は、易刺激性、集中力障害、強迫行為、重度の不眠、体重減少などを招きます。コカインを鼻から吸うため、鼻粘膜に炎症が生じることがよくあります。 この障害のある人は薬物に関連した情報(例:テレビで白い粉を見る)に反応しやすいという特徴も持ち、それが再発しやすい要因でもあります。

なお、最初は精神刺激薬を乱用するつもりがなく、ダイエット、あるいは勉強や仕事、スポーツの能力向上などを目的にアンフェタミンやコカインなどを使用し始め、結果として精神刺激薬使用障害になる人もいます。

有病率

アメリカにおけるアンフェタミン型精神刺激使用障害の12カ月有病率は、12~17歳で0.1%、18歳以上で0.2%と推計されています。コカインによる精神刺激薬使用障害の12カ月有病率は、12~17歳で0.2%、18歳以上で0.3%と推計されています。。

経 過

アンフェタミンあるいはコカインを使用した人は、1週間という速さで精神刺激薬使用障害になる可能性がありますが、人によってはもっと時間がかかります。また、繰り返し使用しているうちに耐性がつき、より多い量の精神刺激薬を求めるようになります。

原 因

気質要因:
双極性障害、統合失調症、反社会性パーソナリティ障害、他の物質使用障害が併存している人は、精神刺激薬使用障害の発症や、コカイン使用の再燃のリスクが高いと考えられています。

環境要因:
10代でコカインを使用している人は、胎児期にコカインの曝露をしたり、生まれてから親がコカインを使用していたり、子どもの頃に地域で暴力にさらされていた人が含まれています。若年者(特に女性)にとってのリスク要因として、不安定な家庭環境、精神疾患などが挙げられます。

遺伝要因:
双生児研究によると、一卵性双生児は二卵性双生児に比べると精神刺激薬使用障害になる一致率が高いことがわかっています。

治 療

精神刺激薬使用障害の原因物質がアンフェタミンであってもコカインであっても、通常、入院とさまざまな治療法(個人精神療法、家族精神療法、集団精神療法など)が行われます。しかし、どちらも断薬を続けることは難しいことが共通しています。精神刺激薬を使用したいという強い渇望があるためです。原因物質がアンフェタミンの場合は、特定の薬物(例:抗精神病薬、抗不安薬)を短期間使用することがあります。慢性のコカイン使用者については、ドパミン機能を変化させるような薬物が治療に使えるかどうか検討されていますが、まだ効果が証明されていません。

診断基準:DSM-5

  1. アンフェタミン型物質、コカイン、またはその他の精神刺激薬の使用様式で、臨床的に意味のある障害や苦痛が生じ、以下のうち少なくとも2つが、12カ月以内に起こることにより示される。
  1. 精神刺激薬を意図していたよりもしばしば大量に、または長期間にわたって使用する。
  2. 精神刺激薬を減量または制限することに対する、持続的な欲求または努力の不成功がある。
  3. 精神刺激薬を得るために必要な活動、その使用、またはその作用から回復するのに多くの時間が費やされる。
  4. 渇望、つまり精神刺激薬使用への強い欲求、または衝動
  5. 精神刺激薬の反復的な使用の結果、職場、学校、または家庭における重要な役割の責任を果たすことができなくなる。
  6. 精神刺激薬の作用により、持続的、または反復的に社会的、対人的問題が起こり、悪化しているにもかかわらず、その使用を続ける。
  7. 精神刺激薬の使用のために、重要な社会的、職業的、または娯楽的活動を放棄または縮小している。
  8. 身体的に危険な状況においても精神刺激薬の使用を反復する。
  9. 身体的または精神的問題が、持続的または反復的に起こり、悪化しているらしいと知っているにもかかわらず、精神刺激薬の使用を続ける。
  10. 耐性、以下のいずれかによって定義されるもの:
    (a)中毒または期待する効果に達するために、著しく増大した量の精神刺激薬が必要
    (b)同じ量の精神刺激薬の継続的使用で効果が著しく減弱
    注:この基準は注意欠如・多動症またはナルコレプシーのための投薬のような適切な医学的指導のもとにおいてのみ精神刺激薬が摂取される際には考慮されない。
  11. 離脱、以下のいずれかによって明らかとなるもの:
    (a)持続的な精神刺激薬離脱症候群がある。
    (b)離脱症状を軽減または回復するために、同じ精神刺激薬(または、密接に関連した物質)を摂取する。
    注:この基準は注意欠如・多動症またはナルコレプシーのための投薬のような適切な医学的指導のもとにおいてのみ精神刺激薬が摂取される際には考慮されない。

該当すれば特定せよ
寛解早期:精神刺激薬の基準を過去に完全に満たした後に、少なくとも3カ月以上12カ月未満の間、精神刺激薬使用障害の基準のいずれも満たしたことがない(例外として、基準A4の「渇望、つまり精神刺激薬使用への強い欲求、または衝動」は満たしてもよい)。

寛寛解持続:精神刺激薬の基準を過去に完全に満たした後に、12カ月以上の間、精神刺激薬使用障害の基準のいずれも満たしたことがない(例外として、基準A4の「渇望、つまり精神刺激薬使用への強い欲求、または衝動」は満たしてもよい)。

※参考文献
『『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)
『DSM-5 ケースファイル』(医学書院)

皆様へのお願い
非合法薬物などの治療には専門的対応が必要となります。当院ではこれに対応することはできませんので、専門の医療機関(神奈川県立精神医療センター/大石クリニック)をご受診いただけますようお願いいたします。あらかじめご了承ください。