こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
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精神刺激薬中毒

精神刺激薬中毒 Stimulant Intoxication

疾患の具体例

19歳、男性。異常なまでの興奮、荒い呼吸、頻脈、瞳孔の散大などが生じていたところを友人に発見され、救急搬送されました。病院スタッフに対してけんか腰で、診察室で大声をあげます。彼は多量のコカインを使用していることを後に認めました。

特 徴

精神刺激薬中毒の基本的特徴は、アンフェタミン型物質やコカインの使用中または使用後すぐに現れる病的な行動や、身体的・精神的変化です。 精神刺激薬を使用すると、最初のうちは気分が高揚し、多幸感や過活動、過覚醒、饒舌などの変化が現れます。これによって仕事や勉強がはかどるように感じる人もいます。しかし、次第に不安、緊張、怒り、常動行動(同じ行動を繰り返す)などの中毒症状も現れ、慢性中毒の場合は倦怠感や悲哀感を感じながらも感情が鈍くなり、社会的引きこもりに至る人もいます。ほかに頻脈または徐脈、瞳孔の散大、血圧の上昇または下降など様々な身体症状が伴い、なかでも幻聴はよく認められます。重症の場合は、けいれん、不整脈、異常高熱が生じ、最悪の場合は死に至ります。コカインの使用者は、けいれん発作や呼吸抑制、脳血管障害、心筋梗塞などが起こり得ますが、その前に失神や胸痛などの徴候が生じることがあります。それでも、コカインを使用したい気持ちを抑制できません。 また、人によっては妄想観念のような症状が生じます。統合失調症など独立した精神病性障害と区別されなくてはなりません。

原 因

アンフェタミン型物質、コカインまたは他の精神刺激薬の使用

治 療

精神刺激薬中毒の治療は、断薬の維持が必要不可欠です。精神刺激薬を入手できないように入院し、頻回かつ不定期な尿検査をすることがあります。認知行動療法や精神療法で断薬を目指す場合、医師と患者さんの協力関係が重要になります。しかし、患者さんが薬物に強く依存してるために難しい場合が多いようです。

診断基準:DSM-5

  1. アンフェタミン型物質、コカインまたは他の精神刺激薬の最近の使用
  2. 臨床的に意味のある問題となる行動、または心理学的変化(例:多幸症、または感情鈍麻、社交性の変化、過覚醒、対人関係過敏、不安、緊張、易怒性、常動性の行動、判断力の低下)が、精神刺激薬を使用中、または使用後すぐに発現する。
  3. 以下のうち2つ(またはそれ以上)の徴候または症状が、精神刺激薬を使用中、または使用後すぐに発現する。
  1. 頻脈または徐脈
  2. 瞳孔散大
  3. 血圧の上昇または下降
  4. 発汗または悪寒
  5. 嘔気または嘔吐
  6. 体重減少の証拠。
  7. 精神運動興奮または抑制
  8. 筋無力、呼吸抑制、胸痛または不整脈
  9. 混乱、けいれん、ジスキネジア、ジストニア、または昏睡
  1. その徴候または症状は、他の医学的疾患によるものでなく、他の物質の中毒を含む他の精神疾患ではうまく説明されない。

中毒物質の詳細を特定せよ
(すなわち、アンフェタミン型物質、コカイン、または他の精神刺激薬)

該当すれば特定せよ
知覚障害を伴う:この特定用語は、現実検討が保たれた状態での幻覚、または聴覚、視覚、触覚性の錯覚が、せん妄の存在なしに起こる場合に記されるかもしれない。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)

皆様へのお願い
非合法薬物などの治療には専門的対応が必要となります。当院ではこれに対応することはできませんので、専門の医療機関(神奈川県立精神医療センター/大石クリニック)をご受診いただけますようお願いいたします。あらかじめご了承ください。