こころのはなし

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精神刺激薬離脱

精神刺激薬離脱 Stimulant Withdrawal

疾患の具体例

23歳、男性。仕事で悩んでいる時に旧友からコカインを勧められ、以後、依存するようになりました。数年にわたって使用していましたが、警察に逮捕され、裁判で執行猶予つきの判決を受けました。その後、医療機関に通院して断薬を試みており、不眠や興奮、疲労感などの離脱症状に苦しんでいます。

特 徴

「精神刺激薬離脱」の基本的特徴は、長期間にわたって使用していた精神刺激薬(アンフェタミン、コカインなど)を中止または著しく減量したあと、数時間~数日以内に起こる不快な症状です。疲労感、鮮明で不快な夢、不眠または睡眠過剰、食欲の亢進、精神運動制止または興奮のうち、2つ以上生じることが診断要件になっています。頭痛、多量の汗、こむら返り、胃けいれん、耐え難い空腹感が生じる場合もあります。最も重篤な離脱症状は抑うつで、精神刺激薬を高用量に使っていた後は特に顕著に現れます。自殺念慮や、自殺行動を引き起こす危険性もあります。 コカイン離脱の場合は、コカインを強烈に求める衝動に駆られるかもしれません。コカインを再び使用すれば、不快な離脱症状を解消できるからです。コカイン離脱の人は、アルコールや鎮静薬、睡眠薬など、別の抗不安作用のある物質で離脱症状を抑えようとすることがあります。

経 過

離脱症状は2~4日が最も強く、1~2週間で落ち着くことが多いようです。しかし、睡眠や気分、認知機能が十分に回復するにはもっと時間がかかるかもしれません。

原 因

アンフェタミンやコカインなど精神刺激薬の使用中止(または減量)。

治 療

コカインの離脱症状は、アルコールやオピオイド、催眠鎮静薬などによる離脱症状とは違い、あまり入院治療を必要としません。外来通院での治療が可能で、個人療法、集団療法、家族療法といった心理社会的治療を行います。コカインの使用を減少させる薬物療法がいくつも研究されていますが、現時点で有効性が明確なものはありません。 なお、コカインの使用者が自発的に治療に来ることはほとんどありません。治療を受けている場合は、その間にコカインを入手できないよう徹底した管理が必要です。

診断基準:DSM-5

  1. 長期間にわたっていたアンフェタミン型物質、コカイン、他の精神刺激薬の使用を中止(または減量)
  2. 不快気分および以下の生理学的変化のうち2つ(またはそれ以上)が、基準Aを満たしてから数時間~数日以内に発現する。
  1. 疲労感
  2. 鮮明で不快な夢
  3. 不眠または睡眠過剰
  4. 食欲の亢進
  5. 精神運動制止または興奮
  1. 基準Bの徴候または症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  2. その徴候または症状は、他の医学的疾患によるものではなく、他の物質の中毒や離脱を含む他の精神疾患ではうまく説明されない。

離脱症候群を生じている物質の詳細を特定せよ
すなわちアンフェタミン型物質、コカイン、または他の精神刺激薬

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)
『DSM-5 ケースファイル』(医学書院)

皆様へのお願い
非合法薬物などの治療には専門的対応が必要となります。当院ではこれに対応することはできませんので、専門の医療機関(神奈川県立精神医療センター/大石クリニック)をご受診いただけますようお願いいたします。あらかじめご了承ください。