こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

     

精神病性障害

F1x.5 精神病性障害 Psychotic disorder

疾患の具体例

44歳男性。うつ病を患い、ベンゾジアゼピン系の薬を投与されていました。治療が長引くにつれて薬が効きにくくなり、自己判断で大量服薬することもありました。やがてうつ病の症状が悪化したため、インターネットで調べると「ベンゾジアゼピンが原因」という情報を見ました。そうかと思って一切の薬を中断したところ、不安感や頭痛が生じ、意識ははっきりしているのに幻聴が聞こえるようになりました。誰もいないはずの部屋で、自分を責めたり、ばかにしたりする声が聞こえるのです。また、目の前を小人が歩く幻視も見えます。医師に相談すると、薬物を中断したことによる「精神病性障害」と説明されました。

症 状

幻覚
通常、精神作用物質の使用中か使用直後に、リアルな幻視や幻聴、幻臭(感じないはずの臭いを感じる)などの幻覚が生じることがあります。人によっては同時に2種類以上の幻覚が表れます。どんな幻覚かは、原因となる物質や患者さんの身体状況などによって異なります。 例えば、コカインを使用した場合は、昆虫が皮膚をはっているような感覚の幻触がよく表れます。また、精神活性物質を使用していた患者さんは、幻聴が生じやすいと言われています。幻臭は、側頭葉てんかんによって起こることがあります。幻視は白内障によって目が見えない状態の人に生じやすいことがわかっています。よくあるのは、小さな人間や小動物が集まっているように見える状態です。 これらの幻覚は、何度もしつこく繰り返すのが特徴です。患者さんによっては、幻覚に従って行動をすることがあります。例として、アルコール依存症の人の幻覚は、第三者から批判されたり、侮辱されたりする声が聞こえるほか、時には誰かを傷つけるように命令する声が聞こえます。自殺や他殺につながる可能性があることから、十分な注意が必要です。

妄想
まったく関係のない出来事を、自分のことのように捉える人がいます。例えば、誰かが自分を攻撃しているのではないかと疑ったり、自分は迫害されていると妄想したりするのです。 物質によって誘発された妄想は、意識が覚醒した状態で出現するのが一般的です。ただ、患者さんによっては軽い認知障害がともなう場合もあります。周囲から見ると、患者さんは困惑し、話の筋が通らず、非常識な行動をとっているようにも感じます。

その他
目の前の人を誤認することがあります。また、興奮しすぎたり昏睡に陥ったりといった精神運動障害を呈することもあります。通常、意識がはっきりと覚醒した状態の時に表れますが、少なからず意識が混濁しているのが典型例です。 部分的な症状は少なくとも1カ月以内に収まり、6カ月以内には完全に消失すると考えられています。

原 因

精神病性障害は、病気によって引き起こされることもあれば、物質・医薬品などが原因となることもあります。物質・医薬品が原因の場合は、大量使用や長期投与が密接に関係すると言われています。

治療・予後

まずは、症状を引き起こした病気や物質・医薬品の特定を特定し、それらを治療したり、計画的に物質を減量することが先になります。そのうえで、症状を抑える方向で治療をします。身体状態によっては、入院が必要になります。適切量のベンゾジアゼピン系の薬物は、患者の焦燥感や不安を制御する作用があり、精神病性障害の症状を短時間で制御する際にも有用です。 体内から原因となっている物質が除去されると、症状も消失していきます。

診断基準:ICD-10

薬物使用中あるいは中止直後(通常48時間以内)に生じる精神病性障害は、せん妄を伴う薬物離脱状態でなかったり、あるいは中止から遅れた発症でなければ、ここにコードすべきである。遅発性精神病勢障害(薬物使用を中止して2週間以降の発症)は起こりうるが、その場合はF1x.75にコードすべきである。 精神作用物質による精神病性障害は多様なパターンの症状を呈しうる。それらは使用された物質のタイプと、使用者の人格に影響されるであろう。コカインやアンフェタミンのような刺激性の薬物の場合、薬物惹起性の精神病性障害は、一般にそうした薬物の大量使用および/または物質の長期投与と密接に関連している。 精神病性障害の診断は、使用された物質が一時的に幻覚惹起作用を持つ場合(たとえばLSD、メスカリン、多量の大麻)には、単に知覚の歪みや幻覚体験に基づいてくだすべきではない。そのような場合、そしてまた錯乱状態に対しても、急性中毒という診断の可能性を考慮すべきである。 精神作用物質による精神病性障害という診断が適切であるのに、誤ってより重篤な状態(たとえば統合失調症)と診断しないようにとくに注意をしなければならない。精神作用物質による精神病状態の多くは、アンフェタミン精神病とコカイン精神病の場合のように、それ以上薬物を摂取しない限り持続期間は短い。そのような場合誤診は患者と医療サービスにとって苦痛と高い代償をもたらすものになることがある。

診断基準:DSM-5

記載なし

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)