こころのはなし

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他の医学的疾患による精神病性障害

293.81~293.82 他の医学的疾患による精神病性障害 Psychotic Disorder Due to Another Medical Condition

疾患の具体例

24歳、女性。幼少期にてんかんと診断されました。時々、てんかん発作が生じますが、その時に実際にはない悪臭を感じる(幻嗅)ことがあります。幻嗅が生じると精神的に不安定になり、日常生活に大きな支障を来しています。てんかん以外の病気にはかかっていません。医師は、てんかんによる精神病性障害だろうと言いました。

特 徴

「他の医学的疾患による精神病性障害」の基本的特徴は、なんらかの病気によって精神病性障害(幻覚または妄想)が引き起こされることです。重い病気に対するストレス反応ではなく(その場合は短期精神病性障害などとなる)、他の精神疾患の症状でもなく、医学的な病気の症状として生じた幻覚・妄想である点が特徴的です。

幻覚はあらゆる感覚(視覚、嗅覚、味覚、触覚、または聴覚)に現れますが、原因となる病気によっては特有の幻覚が現れます。例えば、側頭葉てんかんは嗅覚による幻覚(幻嗅)がよく見られます。また、幻覚は単純で単発のものから、複雑に体系化されたものまで内容が様々です。 妄想は、被害的な内容のものがもっともよく見られます。ほかに身体的、誇大的、宗教的なものもあります。 症状は重度になることが多いものの、原因となる疾患によってかなり多様です。どちらかというと、幻覚が強く現れることが、「他の医学的疾患による精神病性障害」らしい症状とされています。

なお、幻覚や妄想が病気によって引き起こされているかを決定する絶対的な指針はありませんが、いくつか考慮すべきポイントがあります。一つは、その病気の発症、増悪、寛解と精神病性障害が生じた時間的な関係です。それぞれのタイミングに精神病性障害が関連していれば、病気が原因で幻覚・妄想が現れていると判断できるようになります。 二つ目は、通常の精神病性障害にはあまり見られない特徴を持つことです。例えば、精神病性障害では典型的でない発症年齢、幻覚、妄想があることです。

有病率

「他の医学的疾患による精神病性障害」は原因となる病気がさまざまなため、有病率を特定することは困難とされています。あくまで推定の範囲ですが、生涯有病率は0.21~0.54%と見積もられています。年代別の有病率は、65歳以上が若年層と比べて0.74%と高いと見られています。おそらく、年を取ると体が衰えたり(目や耳の障害など)、病気(認知症など)が増えたりすることが関係していると思われます。
なお、高齢層は女性に「他の医学的疾患による精神病性障害」が多く見られますが、他の年代の性差は明らかになっていません。

経 過

生涯のうち一度だけ発症する人もいれば、原因となる病気の憎悪と寛解に連動して再発を繰り返す人もいます。原因となる病気の治療によって、幻覚や妄想がよくなることもありますが、常にそうとは限りません。原因となっている病気が慢性疾患の場合は、精神病も長期にわたって続く傾向があります。 なお、原因となる病気を治療することが経過に大きな影響を与えますが、先に中枢神経系の障害(頭部外傷、脳血管障害など)があると経過が悪くなることがあります。

原 因

「他の医学的疾患による精神病性障害」を引き起こす病気によくあるのは、未治療の内分泌・代謝疾患、自己免疫疾患(例:全身性エリテマトーデス)、抗NMDA(N-methy-D-aspartate)、受容体自己免疫性脳炎、側頭葉てんかんが挙げられます。てんかんによる精神病は、発症するタイミングによってさらに分けられており、発作時精神病、発作後精神病、発作間欠期精神病があります。このうちもっとも多いのは発作時精神病で、てんかんの患者さんの2~7.8%に見られます。 なお、世代別の傾向を見ると、若者はてんかん、頭部外傷、自己免疫疾患が多いようです。若者と中年世代はがんが多く、老年層では脳卒中、低酸素の病態、他系統の併存疾患により多く罹患しています。

診断基準:DSM-5

  1. 顕著な幻覚または妄想
  2. 病歴、身体診察、臨床検査所見から、その障害が他の医学的疾患の直接的な病態生理学的結果であるという証拠がある。
  3. その障害は、他の精神疾患ではうまく説明されない。
  4. その障害は、せん妄の経過中にのみ出現するものではない。
  5. その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を起こしている。

いずれかを特定せよ
優勢な症状に基づいてコードせよ:
293.81(F06.2)妄想を伴う:妄想が優勢な症状である場合
293.82(F06.0)幻覚を伴う:幻覚が優勢な症状である場合
コードするときの注:精神疾患名にその医学的疾患名を入れておくこと[例:162.9(C34.9)悪性肺新生物;293.81(F06.2)悪性肺新生物による精神病性障害、妄想を伴うもの]。

現在の重症度を特定せよ
重症度の評価は精神病の腫瘍症状の定量的評価により行われ、妄想、幻覚、異常な精神運動行動、陰性症状が含まれる。それぞれの症状について、0(なし)から4(あり,重度)までの5段階で現在の重症度(直近7日間で最も重度)について評価する(「評価尺度」の章の臨床家評価による精神病重症度ディメンションを参照。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)