こころのはなし
こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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非器質性遺尿症
F98.0 非器質性遺尿症 Nonorganic enuresis / 遺尿症 Enuresis
疾患の具体例
6歳、男児。一人でおしっこをできるようになりましたが、昼間、おもらしをしてしまうことがよくあります。学校の授業中にトイレに行きたいのに我慢したり、休み時間は遊びに夢中になってトイレに行きそびれたりします。週に2回はおもらしをするため、クラスメイトからからかわれ、学校に行きたくないというようになってきました。
特 徴
「非器質性遺尿症」は、身体の機能に異常がないのに、尿をもらしてしまう(遺尿/失禁)障害です。診断されるには排尿が自分でできる年齢(少なくとも5歳)であり、遺尿によって著しい苦痛を感じていることなどが要件です。 夜、寝ている時の遺尿(おねしょ)がもっともよくみられるパターンで、典型的には寝付いてから最初の1/3の時間帯に発生します。昼間だけの遺尿には2パターンあります。「切迫性失禁」は、排尿に関係する筋肉のはたらきが不安定で、急に切迫した尿意を感じます。もう一つの「排尿遷延」は、結果的に失禁するまで自分で排尿を引き延ばしてしまいます。例えば、遊びに没頭するがあまり、トイレに行かずにもらしてしまうのです。 遺尿がただ一つの症状として生じる場合と、他の情緒あるいは行動障害と関連している場合とがあります。
有病率
遺尿症の有病率は5歳児でおよそ5~10%、10歳児で3~5%、15歳以上でおよそ1%です。
経 過
遺尿症の経過には、2つのパターンがあります。
「原発型」 ・・・・ 自分で排尿ができるようになる前に症状が現れるパターン。だいたい5歳くらいで始まります。
「続発型」 ・・・・ 自分で排尿ができるようになってから症状が現れるパターン。もっともよく発症するのは5~8歳ですが、いつでも発症する可能性があります。
どちらにしても、5歳以上での自然寛解は年間5~10%です。ほとんどは、青年期までに症状が治まっていきますが、約1%は大人になっても続きます。昼間の遺尿症は、9歳以降ではあまりみられません。小児期半ばでは、たまに昼間の遺尿が起きることは珍しくありません。遺尿症が小児期後期または青年期まで続いている時は、尿失禁の頻度が増えるかもしれません。一方で、早いうちに自分で排尿ができるようになることは、夜間の遺尿症の減少と関係しています。
原 因
環境要因
トイレトレーニング(排泄のしつけ)がきちんとなされていないことや、ストレスなどが原因になると考えられています。
遺伝要因と生理学的要因
体内で尿を作るサイクルの発達が遅れることで、夜中の多尿や、「バソプレッシン」(利尿を妨げるはたらきをするホルモン)の感受性に異常が生じる場合があります。また、膀胱の過剰反応を伴う膀胱容量の低下(不安定膀胱症候群)とも関連しています。
夜間の遺尿症は、遺伝と関係している場合があります。遺伝率は、夜間の遺尿性のある母親の子どもで約3.6倍、父親に尿失禁がある場合で10.1倍と高くなります。
治療
遺尿症は、治療をしなくとも自然に軽快することも比較的多くみられます。いずれにしてもまずトイレトレーニングが適切だったかを確認します。十分でなかった場合は、排泄の記録をつけたり、寝る前の水分を控えたり、夜間にトイレに連れて行くなどのトイレトレーニングをします。 治療をする場合は、以下の3種類があります。
行動療法 ・・・
古典的なベル付きパッド装置(アラーム療法)は、もっとも効果のある治療です。子どもの下着や寝具にパッドをつける方法で、尿をするたびにアラームが鳴り、目を覚まさせます。これを繰り返すことで、尿を膀胱に溜めておける量が増えます。50%以上の患者さんに失禁がなくなります。
薬物療法 ・・・・
遺尿症によって著しく不便を感じている場合は、薬物の使用が検討されます。「イミプラミン」(トフラニール)は有効で、「原発型」の遺尿症への短期使用が認められています。30%の患者さんに失禁がなくなり、85%に失禁の頻度が低下します。しかし、しばしば投薬を中断した途端に再発します。投薬から6週間で身体が慣れて、薬が効かなくなる場合もあります。この薬は心臓に有害な作用をする場合があるため、第一選択肢ではありません。 また、三環系薬物もあまり使われません。「デシプラミン」(Norpramin, Pertfrane)を服用した注意欠如・多動性障害の子どもの突然死が起こると報告されたからです。 鼻にスプレーをする「デスモプレシン」(DDAVP)は、使い始めに夜尿症を減少させます。しかし、大多数の研究では薬をやめると短期間で尿症が再発すると報告されています。この薬は低ナトリウム発作、頭痛、鼻づまり、鼻血、胃痛などの有害作用があります。
精神療法 ・・・・
精神療法のみの治療は有効ではありません。ただし、もともと精神科的な問題があり、二次的に遺尿症がある場合は、精神療法も有用です。
診断基準:ICD-10
排尿調節の獲得年齢の正常範囲と遺尿症との間に明確な境界はない。しかしながら、ふつう5歳未満もしくは精神年齢が4歳未満の小児では、遺尿症の判断はされない。遺尿症が(他の)情緒あるいは行動障害と合併しているならば、不随意的な排泄あるいは排尿が少なくとも1週間に数回以上あり、そして他の症状が遺尿と継時的に共通の変動を示した場合にのみ、通常は遺尿症が主判断となる。遺尿症は時に遺糞症と同時に発生する。この場合は遺糞症と診断すべきである。 時として小児は膀胱炎や(糖尿病から来るような)多尿症の結果として、一時的な遺尿症になることがある。しかしながら、感染が治癒したあとでも、あるいは多尿が統制されたあとでも遺尿が持続するならば、これらの疾患だけで遺尿症を説明するのは不十分である。遺尿から二次的に膀胱炎が発症することはまれでなく、いつも濡れているために(とくに女児において)尿路の上行性感染が生じる。
<含>
非器質性遺尿症(一次性)(二次性)
機能性あるいは心因性遺尿症
非器質性尿失禁
<除>
特定不能の遺尿症(R32)
診断基準:DSM-5
- 不随意的であろうと意図的であろうと、ベッドまたは衣服の中への反復性の排尿。
- この行動は臨床的に意味のあるものであり、週に2回の頻度で少なくとも連続して3ヵ月間起こり、または、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、学業的(職業的)、または他の重要な領域における機能の障害が存在することによって明らかとなる。
- 暦年齢は少なくとも5歳(または、それと同等の発達水準)である。
- その行動は物質(例:利尿薬、抗精神病薬)または他の医学的疾患(例:糖尿病、二分脊椎、けいれん疾患)の生理学的作用のみによるものではない。
いずれかを特定せよ。
夜間のみ:夜間睡眠中にのみ。
昼間のみ:覚醒時間中に排尿がある。
夜間および昼間:上記2つの下位分類の組み合わせ。
※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)