こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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乳幼児期および小児期の哺育障害

F98.2 乳幼児期および小児期の哺育障害 Feeding disorder of infancy and childhood
反芻症/反芻性障害 rumination disorder

疾患の具体例

1歳6カ月、男児。離乳食を始めたばかりの頃からずっと、ほとんど食べません。おかゆのように柔らかいものは少し食べますが、一度飲み込んでから吐き出し、再び噛んで飲み込んでいることがあります。特に胃腸が悪いわけではありません。栄養がたりないようで、体重は半年にわたって十分に増えず、身長も低いほうです。

特 徴

WHOの診断ガイドライン「ICD-10」に記載されている「乳幼児期および小児期の哺育障害」は、適切な養育者がいて十分に食事が与えられ、身体の病気がないにもかかわらず、食べることを拒否したり、極端な偏食があったりする障害です。反芻(はんすう)といって、吐き気や胃腸疾患がないにもかかわらず、吐き戻して再び噛むこともあります。
アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル「DSM-5」では、その反芻が伴う哺育障害「反芻症/反芻性障害」について解説しています。反芻症の基本的特徴は、少なくとも1カ月間にわたり、食べたあとに吐き戻しを繰り返すことです。吐き戻しは少なくとも週に数回、典型的には毎日起こります。特に重篤な例では、食べた直後に吐き戻しをするため、栄養が十分に摂取できない問題が生じます。 また、反芻症のある子どもは、舌で吸う運動をしながら頭を後ろに倒し、背中を反らして弓形になるという特徴的な姿勢をとります。吐き戻しと吐き戻しの間はイライラしており、お腹を空かせています。
年長の患者さんのなかには、吐き戻しが社会的に望ましくないことを理解し、意図的に食べることを制限する人もいます。そのため、体重減少や低体重がみられることがあります。

有病率

哺育障害
幼児や幼い子どもの15~35%になんらかの哺育の問題があると見積もられています。しかし、いくつかのコミュニティを対象にした資料では、発育不全症候群のある子どもは3%で、哺育障害のある幼児はだいたいその半分であるとされています。

反芻症/反芻性障害
まれな障害で、有病率を確定させるほどのデータはありません。この障害は知的能力障害のある人など、一定の集団において有病率が高いと報告されています。

経 過

哺育障害
1歳未満で哺育障害を示す乳児は、ほとんどの場合、適切な診断と介入(治療や支援)があれば発育不全に陥ることはありません。2~3歳と発症が遅く、障害が数カ月続くと、成長や発達に影響が出る場合があります。1歳までに食物を拒否し続けた乳児の70%は、小児期にも何らかの哺育問題を持ち続けると見積もられています。

反芻症/反芻性障害
小児期から成人期までのどの時期においても起こりえます。幼児の場合、通常、生後3~12カ月の間に発症します。自然に寛解することが多いものの、重篤な栄養不良など、緊急性を要する事態に発展することもあります。症状は一時的なもので落ち着く人もいれば、治療されるまで続く人もいます。

原 因

哺育障害
記載なし

反芻症/反芻性障害
環境要因:外部からの刺激が足りない環境、ネグレクトを受けていたり、ストレスの多い生活環境に置かれていたりする心理社会的問題、親子関係の問題は、幼児または年少の子どもが反芻症を起こす原因となりえます。

治 療

哺育障害
まず親子関係に問題がないか確認します。援助が必要であれば、幼児の体力に見合った授乳や食事ができているか、幼児が疲れているかどうかに親が気付くように助言し、親子関係の改善を目指します。

反芻症/反芻性障害
親子関係に問題がある時は、親への指導が効果をあげることがあります。行動療法的介入として、反芻が起こるたびに、乳児の口にレモン汁を吹きかける方法も効果があります。反芻は3~5日のうちになくなると言われています。その後の再発もなく、体重は増加し、活動的になって人への反応もよくなると報告されています。

診断基準:ICD-10

軽度の摂食困難は幼児期や小児期ではよくみられる(偏食、推定される少食、あるいは過食の形で)。しかしそれだけで障害を示すものと考えてはならない。明らかに正常範囲を超えているか、あるいは摂食問題が質的に異常な特徴をもつか、あるいは少なくとも1ヶ月以上体重増加がないか体重減少があるならば、この診断をくだすべきである。 <含>反芻性障害

【鑑別診断】
以下のものから鑑別することが重要である。
子どもが、いつも養育する者以外の大人からは容易に食物を受け取る状態。
摂食拒否を十分説明できる器質的障害。
神経性無食欲症およびその他の摂食障害 (F50.-)。
より広範囲な精神科的障害。
異食症(F98.3)。
哺育困難と養育過誤(R63.3)。

診断基準:DSM-5

  1. 少なくとも1カ月間にわたり、食物の吐き戻しを繰り返す。吐き戻された食物は、再び噛んだり、飲み込んだり、吐き出されたりする。
  2. この繰り返される吐き戻しは、関連する消化器系または他の医学的疾患(例:胃食道逆流、幽門狭窄)によるものではない。
  3. その摂食の障害は、神経症ややせ症、神経性過食症、過食性障害、回避・制限性食物摂取症の経過中にのみ生じるものではない。
  4. 症状が他の精神疾患[例:知的能力障害(知的発達症)や他の神経発達症]を背景として生じる場合、その症状は、特別な臨床的関与が妥当なほど重症である。

該当すれば特定せよ

寛解状態:かつて反芻症の診断基準をすべて満たしていたが、現在は一定期間診断基準を満たしていない。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)