こころのはなし

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乳幼児期および小児期の異食症

F98.3 乳幼児期および小児期の異食症 Pica of infancy and childhood / 異食症 Pica

疾患の具体例

4歳、男児。腹痛を訴え、母親に連れられて病院を受診しました。腹痛の原因は、土や石を食べたことでした。食べ物以外を食べて腹痛を起こすのは初めてではなく、2歳頃から繰り返していました。

特 徴

WHOの診断ガイドライン「ICD-10」にある「乳幼児期および小児期の異食症」は、栄養にならないもの(土、絵の具のかすなど)を食べることが持続する疾患です。異食症は、精神遅滞児にもっとも多くみられます。精神障害(自閉症など)の症状の1つとして現れることもありますが、独立した精神病理的行動として現れることもあります。通常、独立した症状として現れたときのみ、この診断名がつけられます。
アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル「DSM-5」によると、異食症は小児期の発症がもっとも多く報告されているものの、青年期、成人期にも発症しうるとしています。正常に発達している子どもに起こりうる一方、成人では知的障害または他の精神疾患の経過中に起こりやすいようです。妊娠中にみられることもありますが、医学的に危険なほど摂取する場合のみ、異食症と診断されます。

有病率

異食症の有病率は明らかではありませんが、知的能力障害のある人のなかでは、その重症度が上がるにつれて異食症の有病率も増加するようです。

経 過

「DSM-5」によると、経過は長引くことがあり、医学的な緊急事態に至る場合もあります。例えば、腸閉塞、急激な体重減少、中毒などです。食べたものによっては致命的になる可能性もあります。『カプラン 臨床精神医学テキスト』には、子どもの異食症は年齢が上がるにつれて解決されるのが普通、と書かれています。

原 因

環境要因:ネグレクト、監督欠如、発達の遅れは、この状態の危険性を増加させる可能性があります。

治 療

異食症には決定的な治療法はありません。ほとんどの場合、教育と行動の修正を目標とした心理社会的環境的、行動的、家族指導的接近が行われます。

診断基準:ICD-10

記載なし

診断基準:DSM-5

異食症

  1. 少なくとも1ヵ月間にわたり、非栄養的非食用物質を持続して食べる。
  2. 非栄養的非食用物質を食べることは、その人の発達水準からみて不適切である。
  3. その摂食行動は文化的に容認される慣習でも、社会的にみて標準的な慣習でもない。
  4. その摂食行動が他の精神疾患[例:知的能力障害(知的発達障害)、自閉症スペクトラム症、統合失調症]や医学的疾患(妊娠を含む)を背景にして生じる場合、特別な臨床的関与が妥当なほど重篤である。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)