こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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選択性緘黙

F94.0 選択性緘黙 Elective mutism

疾患の具体例

7歳女児。家にいるときは普通に話しますが、学校では一言も話しません。教師が何かを訊ねても下を向いているだけで、授業で教科書を音読するように言われてもできません。友達もおらず、クラスで孤立しています。こうした状況が半年以上続いています。

特 徴

緘黙(かんもく)とは、言語能力があるにもかかわらず、話せなくなってしまうことを指します。選択的緘黙は、家族や親しい友人とは話せるのに、学校や知らない人など、特定の状況下では沈黙してしまう障害です。祖父母やいとこなど、第2親族の前でも話せない場合もあります。時々、言葉以外の手段(例:音をたてる、指差す、書く)などでコミュニケーションをとるかもしれません。
この障害は、社会的不安、引きこもり、敏感さ、あるいは抵抗を含む際立った性格的特徴と結び付いていることが普通です。
学校において教師が読み方などの技能を評価することが難しいため、成績に影響しがちです。必要なことを教師に報告しない(例:学級内の当番を理解していない、トイレに行きたい)ため、トラブルになることもあります。

有病率

選択的緘黙は比較的まれな障害です。統計のとり方によって異なりますが、有病率は0.03~1%の間と推計されています。低年齢の子どもにより出現しやすいことがわかっています。

経 過

通常5歳未満に発症しますが、学校に入るまで障害に気付かれないことがあります。持続期間はさまざまですが、成長にともなって症状がみられなくなることが多いようです。

原 因

気質要因:親の恥ずかしがり、社会的孤立、社交不安と同様、否定的感情(神経症的特質)または行動抑制(知らない人や物に近づかない)が原因となっているかもしれません。
環境要因:親に社会的抑制(何かに取り組んでいても、他人が見ているとできなくなる)があると、子どもが寡黙になったり、選択的緘黙になったりするかもしれません。選択的緘黙のある子どもの親は過保護で管理的で、何らかの不安症群をもっていることがあります。
遺伝要因と生理学的要因:選択的緘黙と社会不安症には著しい重複があるので、この二つの間で遺伝要因が共通しているかもしれません。

治 療

選択的緘黙は、個人療法、認知行動療法、行動療法、家族療法など、さまざまな治療法を用いることがよいと考えられています。学齢期には、個人での認知行動療法が第1選択として推奨されています。また、家族教育と家族の協力も有益です。それらの心理社会的治療が十分に効かない場合は、薬物療法を用いることがあります。例えばSSRIが使われます。

診断基準:ICD-10

診断の前提となるのは、以下の3つのことである。

  1. 正常あるいはほぼ正常な言語理解能力の水準。
  2. 社内的コミュニケーションに十分な表出性言語能力の水準。
  3. ある状況において正常あるいはほぼ正常に話すことができることが明らかなこと。

しかしながら選択的緘黙の小児のうち、言語発達の遅れか発音の障害の既往をもつものが少数ある。診断は、もし有効なコミュニケーションにとって適切な言語をもちながら、ある状況では流暢に話すが異なった状況では緘黙あるいはほとんどそれに近い、というような社会的背景に応じた言語使用の大きな不釣合がみられるならば、この問題があるということになり、そのことでくだされる。また、ある社会的状況では話せないが、他の状況ではそうではない。診断には一定時間持続して話せないこと、話せる状況と話せない状況に関して一貫性があって予想できることが必要である。 大部分の症例で他の社会的情緒障害が認められるが、しかし診断に必要な特徴の一部とは限らない。このような障害は一貫したパターンで続くわけではないが、異常な気質特徴(とくに社会的過敏性、社会的不安、社会的引きこもり)はふつうにみられ、反抗的な行動も起こる。

診断基準:DSM-5

  1. 他の状況では話しているにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会的状況(例:学校)において、話すことが一貫してできない。
  2. その障害が、学業上、職業上の成績、または対人的コミュニケーションを妨げている。
  3. その障害の持続期間は、少なくとも1カ月(学校の最初の1カ月だけに限定されない)である。
  4. 話すことができないことは、その社会状況で要求されている話し言葉の認識、または話すことに関する楽しさが不足していることによるものではない。
  5. この障害は、コミュニケーション症(例:小児期発症流暢症)ではうまく説明されず、また自閉スペクトラム症、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)