こころのはなし
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小児期の反応性愛着障害
F94.1 小児期の反応性愛着障害 Reactive attachment disorder of childhood
反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害
Reactive Attachment Disorder
疾患の具体例
4歳、男児。親から虐待を受けていたため、児童養護施設に保護されました。おやつを食べたり、遊んだりする時間でも笑うことがなく、自分から甘えに来ることもありません。施設の職員に抱きしめられても真横を向き、無表情です。他の子どもにかみついたり、ふいに壁に自分の頭を打ち付けたりしていることがあります。
特 徴
WHOの診断ガイドライン「ICD-10」に記載されている「小児期の反応性愛着障害」は、素直に大人に甘えたり、頼ったりできないことが基本的特徴です。0歳児の頃から親に無視されたり、虐待されたりするなど、著しく不適切な養育環境におかれた子どもにみられます。言葉の遅れや、低栄養による身体的な成長の遅れがみられる場合もあります。
この障害のある子どもは相手を過度に警戒しており、大人に近づくときに視線をそらしていたり、抱っこされている間もとんでもない方向をじっと見ていたりします。なだめたり、はげましたりしても効果がありません。自分や他人への攻撃性がみられ、みじめさを感じています。
アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル「DSM-5」においては「反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害」として解説されています。選択的アタッチメント(養育者との愛着関係)を作る能力はあるのに、産まれてから早い段階で無視されたり、虐待されたりしたため、苦痛を感じたときにも抱っこされたり、はげましてもらったりしようとしません。陽性の感情(楽しい、嬉しいなど)を表すことが少なく、陰性の感情(恐怖、悲しみ、いらだちなど)をよく示します。
なお、この障害は愛着関係を作ることができる発達段階以前の子どもには診断されません。 少なくとも生後9ヵ月の発達年齢に達していることが診断要件の一つです。
有病率
有病率は不明ですが、臨床場面では比較的まれにみられる障害です。里親のもとや施設で育てられる前に、重度のネグレクトを受けた幼い子どもにみられます。しかし、そうした子どもの中でも一般的ではなく、10%未満にしか生じません。
経 過
適切な養育環境におかれても改善や回復がみられない場合は、少なくとも数年間は障害が持続するかもしれません。
原 因
環境要因:深刻な社会的ネグレクトは、反応性アタッチメント障害の診断要件の一つであり、唯一、知られている危険要因です。しかし、重度のネグレクトを受けた子どもでも、大多数はこの障害にならないことから、ネグレクトのあとの養育環境が悪いことも原因だと考えられています。
診断基準:ICD-10
中核的な特徴は、5歳以前に形成された養育者との異常な関係パターンであり、正常な子どもにはふつうではみられない不適応の特徴をもち、持続的であるが、育て方が十分にはっきりと変化すればそれに反応する。
この症候群の幼児は、別離や再会のときに最も明瞭となる、ひどく矛盾したあるいは両価的な社会的な反応を現す。たとえば、幼児は視線をそらしながら近づいたり、抱かれている間とんでもない方向をじっと見ていたり、養育者がなだめても、近づいたり避けたり逆らったりして複雑な反応を示す。情緒障害は明らかなみじめさ、情緒的反応の欠如、床にうずくまるなどの引きこもり反応、および/または自分自身や他人の悩みに対する攻撃的な反応で示される。はげましても効果がない恐れと過度の警戒(しばしば「凍りついた用心深さ」といわれる)が生じる場合もある。大部分の例で仲間たちとの相互交流に興味をもつが、しかし陰性の情緒反応により一緒に遊ぶことは妨げられている。愛着障害には、身体的発達不全を合併し、身体の成長の障害される例もある〔随伴する身体的コードを付加する(R62)〕。 多くの正常な子どもは、どちらか一方の親に選択的な愛着をもつというパターンが安定していないが、反応性愛着障害と混同してはならない。これはいくつかの重要な点で異なっている。愛着障害は、異常な不安定さが特徴的であり、正常な子どもではほとんどみられない、著しく矛盾する社会的反応として現れる。異常な反応はさまざまな社会的状況にわたって広がり、特定の養育者との一対の関係に限られていない。はげましへの反応が欠如していること、無感情、みじめさや、恐怖という形の情緒障害を伴う。
5つの主な特徴によってこの病態は広汎性発達障害から鑑別される。第一に、反応性愛着障害の小児は社会的な相互関係と反応性の正常な能力をもっているが、広汎性発達障害の小児はもっていない。第二に、反応性愛着障害では、最初はさまざまな状況で社会的反応の異常なパターンが行動の全般的特徴であるが、もし継続的に責任をもった養育が行われる正常な環境に育てられれば、大幅に改善する。広汎性発達障害ではこうした改善は起こらない。第三に、反応性愛着障害の小児は言語発達が障害されることがあるが(F80.1で記述された型)、自閉症に特徴的なコミュニケーションの質的な異常は示さない。
第四に、自閉症と異なり、反応性愛着障害は、環境の変化に反応を示さない持続的で重篤な認知上の欠陥を伴わない。第五に、行動、関心、活動にみられる、持続的な、限局した、反復性で、常同的なパターンは反応性愛着障害の特徴ではない。
反応性愛着障害はほとんど常に、ひどく不適切な子どもの養育に関係して生じる。これは心理的虐待あるいは無視の形をとる(過酷な懲罰、子どもの申し出にいつも反応しないこと、あるいは非常にばかげた養育で示される)、あるいは身体的な虐待あるいはネグレクトである(子どもの基本的な身体的欲求をいつも無視すること、繰り返して故意に傷つけること、あるいは栄養補給の不適切さで示される)。不適切な養育とこの障害との間の密接な関連について知見が十分でないので、環境上の不全とゆがみは診断に必要なものではない。しかしながら、虐待やネグレクトの証拠なしにこの診断をくだす場合には注意を要する。逆に虐待やネグレクトがあったからといって、機械的にこの診断をくだしてもいけない。虐待されたりネグレクトされたりする子どもがすべてこの障害を示すとは限らない。
<除>
アスペルガー症候群(F84.5)
小児期の脱抑制性愛着障害(F94.2)
身体的問題をもたらす被虐待児症候群(T74)
選択的な愛着のパターンの正常な変異
小児期の性的身体的虐待、心理社会的問題を生じるもの(Z61.4-Z61.6)
診断基準:DSM-5
- 以下の両方によって明らかにされる、大人の養育者に対する抑制され情動的に引きこもった行動の一貫した様式:
- 苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽を求めない。
- 苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽に反応しない。
- 以下のうち少なくとも2つによって特徴づけられる持続的な対人交流と情動の障害
- 他者に対する最小限の対人交流と情動の反応
- 制限された陽性の感情
- 大人の養育者との威嚇的でない交流の間でも、説明できない明らかないらだたしさ、悲しみ、または恐怖のエピソードがある。
- その子どもは以下のうち少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している。
- 安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
- 安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる、主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
- 選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)
- 基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた適切な養育の欠落に続いて始まった)。
- 自閉スペクトラム症の診断基準を満たさない。
- その障害は5歳以前に明らかである。
- その子どもは少なくとも9カ月の発達年齢である。
該当すれば特定せよ
持続性:その障害は12カ月以上存在している。
現在の重症度を特定せよ
反応性アタッチメント障害は、子どもがすべての症状を呈しており、それぞれの症状が比較的高い水準で現れているときは重度と特定される。
※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)