こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

     

解離性遁走[フーグ]

F44.1 解離性遁走[フーグ] Dissociative fugue

疾患の具体例

4歳、女性。公務員として就職したものの、仕事内容が過酷で厳しい上司に毎日のように怒鳴られていました。年末年始休暇が明けた出社日に、職場へは行かず、新幹線に乗って東北地方のある都市にたどり着きました。実際とは違う名前でビジネスホテルに泊まり、1週間ほど過ごしていたところに、行方不明者として捜索していた警察に見つかりました。本当の名前や住所等を確認されましたが、思い出すことができません。

特 徴

「遁走(とんそう)」とは、住み慣れた家や職場から遠く離れたところへ行き、名前や家族、職業といった重要事項を思い出せなくなることを言います。解離性遁走は、解離性健忘のすべての病像を備えている人が、意図的に家や職場から離れて放浪します。2、3日で終わることがほとんどですが、時には長期間にわたります。旅先では、まったく別の人物のように過ごし、その程度が驚くほど完璧なことがあります。解離性遁走の患者さんは静かで活気がなく、単純な職業について慎み深く暮らしていることが多いとされています。
なお、解離性健忘とは違い、たいていは自分が何かを忘れてしまっていることに気づきません。突然、遁走する以前の時間を思い出す場合もありますが、その時は遁走自体のことを忘れています。

経 過

遁走している期間は数時間~数日と短く、数ヵ月間続くことや、100マイル(訳161Km)以上になることはまれです。回復は自発的で、急速であることが一般的ですが、再発もあり得ます。

原 因

重度のアルコールの乱用は、解離性遁走の発症を促進する要因です。しかし、この疾患は基本的には心理学的な仕組みによって生じると考えられています。重要な動機因子は、苦痛を感じる体験から逃れたいという欲望です。また、気分障害やパーソナリティ障害の患者さんは、解離性遁走を起こす傾向を持ちます。

治 療

解離性遁走の治療は、解離性健忘の治療と同様です。精神科面接、薬物補助面接あるいは催眠によって、遁走を起こした心理的ストレスが明らかになることがあります。

診断基準:ICD-10

確定診断のためには、以下のことが存在しなければならない。

  1. 解離性健忘の症状(F44.0)
  2. 通常の日常的な範囲を超えた意図的な旅(旅と徘徊の区別は、その地域に詳しい人によってなされるべきである)。
  3. 基本的な自己管理(食事、入浴・清拭)と、見知らぬ人との簡単な社会的関係(乗車券やガソリンを買うこと、食事を注文すること)が保たれていること。

診断基準:DSM-5

記載なし

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)