こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

     

身体化障害

F45.0 身体化障害 Somatizaion disorder 身体症状症 Somatic symptom disorder

疾患の具体例

25歳、女性。総合病院の内科にかかっていましたが、精神科を紹介されました。内科には2年ほど前から通院しており、毎日のように生じる吐き気や腹痛を診てもらっていましたが、どんなに検査をしても異常は見つかりません。それ以前に、身体のあちこちがかゆいために皮膚科を受診。月経不順のために婦人科を受診していましたが、やはり検査をしても異常はありませんでした。病院を変えたり、担当の医師を変更してもらっても結果は同じです。もともと家族関係が不安定で、両親に症状を訴えても「またか」という顔をされます。気分は抑うつ的で、常に不安で仕方なく、職を転々としています。

特 徴

WHOによる診断ガイドライン「ICD-10」における身体化障害は、さまざまな身体の不調が長く続くのに、これといった病気が見つからない障害です。アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル「DSM-5」では「身体症状症」として解説されています。
症状は、消化器系の不調(痛み、おくび、嘔吐、悪心など)や、皮膚の不調(かゆみ、灼熱感、うずき、しびれ、痛み、できもの)がよくみられます。性に関する訴えや、月経に関する不調を訴える人もいます。それらの症状は多発的で繰り返し起こり、しばしば変化していきます。
患者さんが精神科を受診するまでに、通常、数年間はかかります。ほとんどの場合、かかりつけ医と専門の医療機関の両方を受診しており、長く複雑な病歴を持っています。その間に多くの検査が行われていますが、結果が陰性だったり、手術が無効だったりすることがあります。ただ、身体化障害は本当の身体疾患を持っている場合もあります。頻繁な薬物治療をしたために、しばしば薬物(通常は鎮静剤と鎮痛剤)への依存と乱用が生じます。
また、精神面では著しい抑うつと不安が存在し、治療が必要な場合があります。

有病率

『カプラン 臨床精神医学テキスト』によると、一般人口における障害発生率は女性が0.2%~2%、男性が0.2%です。この障害のある女性は、男性の5~20倍に達します。これは、当初、男性が身体化障害と診断されることはなかったためと考えられます。それでも、女性と男性の比率は5対1です。一般人口における女性の障害発生率は1~2%で珍しい障害ではありません。

経 過

通常は成人早期に始まる障害です。慢性的で何年にもわたって続き、深刻な心理的苦痛や社会的、職業的機能の障害を引き起こします。いくつもの医療機関を受診するなど、過度に医療的技術を求める傾向があります。また、症状が悪くなったり、新しい症状が現れたりする期間は6~9ヵ月も続くと考えられます。その後、比較的症状の少ない時期が9~12ヵ月続きますが、身体化障害の患者さんが1年以上も治療を求めずにいることは滅多にありません。なお、増大した、あるいは新しいストレスがある期間は、症状が悪化する可能性があると考えられています。

原 因

心理社会的要因:
身体化障害の原因はよく知られていませんが、責任を回避したり(例:行きたくない仕事)、情動を表出したり(例:配偶者に対する怒り)、感情あるいは信念を象徴(例:内蔵の痛み)することの現れとも考えられています。また、この障害のある人の中には不安定な家庭に育ち、身体的な虐待を受けた人もいます。社会的、文化的な要因も原因になるのです。

生理学的要因:
身体化障害の患者さんは、特徴的な注意と認知の障害があるとされています。過度の注意散漫、反復する刺激になかなか慣れないことなどです。また、遺伝的要素があり、身体化障害の患者さんの第一度親族の10~20%に同じ障害があるとも報告されています。

治 療

身体化障害は、1人の医師が主治医として治療することがよい結果に結び付くとされています。主治医は定期的(一般には毎月)に診察することが望ましいでしょう。精神療法が効果的だとされています。気分障害や不安障害に身体化障害が併存するときに向精神薬を処方することは危険ですが、併存する障害の治療としては適応となります。

診断基準:ICD-10

身体化障害

確定診断には、以下のものすべてが必要である。

  1. 適切な身体的説明が言い出せない、多発性で変化しやすい身体的症状が少なくとも2年間存在する。。
  2. 症状を身体的に説明できる原因はないという、数人の医師の忠告あるいは保証を受け入れることを拒否しつづける。
  3. 症状の性質とその結果としての行動に由来する、社会的および家族的機能のある程度の障害。

診断基準:DSM-5

身体症状症

  1. 1つまたはそれ以上の、苦痛を伴う、または日常生活に意味のある混乱を引き起こす身体症状。
  2. 身体症状、またはそれに伴う健康への懸念に関連した過度な思考、感情、または行動で、以下のうち少なくとも1つによって顕在化する。
  1. 自分の症状の深刻さについての不釣り合いかつ持続する思考
  2. 健康または症状についての持続する強い不安
  3. これらの症状または健康への懸念に費やされる過度の時間と労力
  1. 身体症状はどれひとつとして持続的に存在していないかもしれないが、症状のある状態は持続している(典型的には6ヵ月以上)。

該当すれば特定せよ

疼痛が主症状のもの(従来の疼痛性障害):この特定用語は身体症状が主に痛みである人についてである。

該当すれば特定せよ

持続性:持続的な経過が、重篤な症状、著しい機能障害、および長期にわたる持続期間(6ヵ月以上)によって特徴づけられる。

該当すれば特定せよ

軽度:基準Bのうち1つのみを満たす。

中等度:基準Bのうち2つ以上を満たす。

重度:基準Bのうち2つ以上を満たし、かつ複数の身体愁訴(または1つの非常に重度な身体症状)が存在する。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)