こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
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心気障害

F45.2 心気障害 Hypochondriacal disorder 病気不安症 Illness Anxiety Disorder

疾患の具体例

31歳、男性。半年以上前から、自分の腸の動きが異常だと感じるようになりました。毎晩、ベッドに入ってから腹部を丁寧に触り、おかしな動きをしていることを確認しようとします。腹部を押すと痛みを感じるように思われます。インターネットで調べているうちに、「自分は大腸がん」だと信じるようになりました。しかし、病院を受診しても検査結果に異常はありません。3つの病院を受診しても同じように言われましたが、自分の考えを変える気にはなりません。気分は常に憂うつで、恐怖を感じています。毎日のように大腸がんについて調べていると、さらに不安が増していきます。

特 徴

心気障害は、「自分は重篤で進行性の病気にかかっているはずだ」という頑固なとらわれが本質的病像です。身体の不調や、外見の異常について執拗に訴え、恐れている病名などを名指しすることもあります。以前から悩んでいた病気の他、新たな病気があるかもしれないという可能性は、通常、喜んで受け入れようとします。また、顕著な抑うつと不安がしばしば存在します。 なお、アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル「DSM-5」では、健康に対する高い不安を持ちながら身体症状のない心気症(心気障害)を「病気不安症」と位置づけています。

有病率

『カプラン 臨床精神医学テキスト』によると、ある研究では6ヵ月間における一般内科診療所の患者さんのうち、4~6%は心気症だったという報告があります。しかし、実際は15%程度に及んでいる可能性もあります。男女差はなく、発症年齢はさまざまですが、20~30代に最も多く見られます。

経 過

50歳以降に初めて心気障害が現れることはまれです。通常、経過は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、慢性的に続きます。『カプラン 臨床精神医学テキスト』によると、十分に構造化された大規模な研究はないものの、心気症の患者さんの3分の1から半分は有意に改善します。心気的な子どものほとんどは、青年期後期あるいは成人期前期までに回復します。

原 因

『カプラン 臨床精神医学テキスト』によると、心気症の人は、誤った認知様式のために身体の感覚を誤解して心配する、としています。たとえば、正常な人は腹部圧と感じるところを、腹部痛として感じるのです。
また、心気症は解決が難しい問題に直面している人の「病気と認めて欲しい」という気持ちが原因になるとも考えられています。重い病気にかかっていれば、受け入れたくない難題を後回しにできるかもしれないためです。
あるいは、他の精神疾患の変形として心気症が生じる可能性もあります。心気症と最もよく関連すると仮定される障害は、うつ病性障害と不安障害です。心気症の患者さんの80%はうつ病性障害あるいは不安障害を持っているとされています。 他に、他者への攻撃や敵対的願望が、身体的な不調の訴えへ転換されているという説もあります。患者さんは、過去に失望や拒否、喪失を経験しており、援助や関心を懇願するものの、それらは効果がないものとして拒否し、憤りを表出すると考えられています。

治 療

心気症の患者さんは、一般に精神医学的治療を受けたがりません。もし、内科で精神医学的治療が行われ、ストレスの縮小と慢性疾患の対処法教育に焦点があてられるのであれば、受け入れる患者さんもいます。その場合は、集団精神療法が選択されます。患者さんの不安を小さくする交流などがあるためです。他に、洞察指向の個人精神療法、行動療法、認知療法、催眠療法なども有用です。
薬物療法は、患者さんが不安障害や大うつ病性障害といった薬物に反応する疾患がある時のみ、心気症状を緩和します。

診断基準:ICD-10

心気障害

確定診断のためには、以下の2つのものがなければならない。

  1. 繰り返される検索や検査により、何ら適切な身体的説明ができないにもかかわらず、現在の症状の基底に少なくとも1つの重篤な身体的疾病が存在するという頑固な信念、あるいは奇形や醜形があるだろうという頑固なとらわれ。。
  2. 症状の基底に身体疾患や異常が存在しないという、数人の異なる医師の忠告や保証を受け入れることへの頑固な拒否。

診断基準:DSM-5

病気不安症

  1. 重い病気である、または病気にかかりつつあるというとらわれ
  2. 身体症状は存在しない、または存在してもごく軽度である。他の医学的疾患が存在する、または発症する危険が高い場合(例:濃厚な家族歴がある)は、とらわれは明らかに過度であるか不釣り合いなものである。
  3. 健康に対する強い不安が存在し、かつ健康状態について容易に恐怖を感じる。
  4. 病気についてのとらわれは少なくとも6ヵ月は存在するが、恐怖している特定の病気は、その間変化するかもしれない。
  5. その病気に関連したとらわれは、身体症状症、パニック症、全般不安症、醜形恐怖症、強迫症、または「妄想性障害、身体型」などの他の精神疾患ではうまく説明できない。

いずれかを特定せよよ

疼痛が主症状のもの(従来の疼痛性障害):この特定用語は身体症状が主に痛みである人についてである。

該当すれば特定せよ

持続性:持続的な経過が、重篤な症状、著しい機能障害、および長期にわたる持続期間(6ヵ月以上)によって特徴づけられる。

該当すれば特定せよ

医療を求める病型:受診または実施中の検査および手技を含む、医療を頻回に利用する。

医療を避ける病型:医療をめったに受けない。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)