こころのはなし
こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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変換症/転換性障害(機能性神経症状症)
変換症/転換性障害(機能性神経症状症) Conversion Disorder(Functional Neurological Symptom Disorder)
疾患の具体例
22歳、女性。大学の授業で苦手なスポーツを強制されました。帰宅しようとしたとき、肩や腕、脚を動かせなくなり、立つことも歩くともできませんでした。なんとか親に電話をして迎えに来てもらいましたが、車中でも体の動きがぎくしゃくし、言葉を発することもできませんでした。それらの症状は、帰宅してしばらくすると落ち着きました。翌日病院へ行き、内科で検査を受けましたが異常は見つからず、精神科を紹介されました。これまでも強制的にスポーツをさせられると強い不安を感じたり、気分が悪くなったりしましたが、精神疾患にかかった経験はありません。
特 徴
精神医学の世界において「変換」(転換、conversion)は、抑圧された心的葛藤が身体症状へ置き換えられる過程という意味を持ちます。変換症は、無意識のうちの心的葛藤によって、さまざまな身体的症状が生じる障害です。症状には運動症状、感覚症状、発作症状があります。それらの症状が、身体疾患や精神疾患ではうまく説明できない場合に変換症と考えられます。
運動症状
脱力、麻痺、振戦(手脚の震え)、筋力低下、ジストニア運動(顔や体が勝手に動く)のような異常な運動が含まれます。立てなくなったり、歩けなくなったりする歩行障害が生じることもあります。その場合、よろめきながら歩く、ぎくしゃくした体幹の動き、鞭を打つように腕を振り回す動きなどが見られます。
感覚症状
皮膚感覚、視覚、聴覚が弱くなったり失われたりすることがあります。「無反応」といって失神や昏睡に似ている症状もあり得ます。声が出せなくなったり(失声症)、ろれつが回らなくなったり(構音障害)、喉がつまった感覚や、ものが二重に見える(複視)ようになる可能性もあります。
発作症状
てんかんではありませんが、てんかんのように意識を失ったり、手脚が震えたりする発作(心因性、あるいは非てんかん性発作)が起こることがあります。
有病率
変換症の罹病率は、一般人口10万人あたり11~300人の範囲にあると考えられています。成人患者の男女比は少なくて1:2、多くて1:10の割合で女性に多く見られます。
経 過
発症時期は小児期後期から成人早期までが多く、10歳未満や35歳以上はまれです。症状はそれほど長くは続かず、入院患者を対象とした調査では2週間以内に急性例の95%が自然寛解していました。症状が6カ月以上続く持続例では、症状の寛解が50%以下になります。再発は、初発から1年以内に20~25%の割合で起こります。また、麻痺や失声、視覚障害は予後が良好な傾向があり、振戦と発作は予後不良となりやすいようです。
原 因
変換症は、無意識的な葛藤に抑圧されたことから発症すると考えられています。心理的・身体的ストレスや、心的外傷と関連している可能性もあります。子どもの頃に受けた虐待やネグレクトが関係しているかもしれません。
ただし、心理的ストレス因が伴わない場合でも、変換症になることがあります。例えば、本来は対処が不可能な問題へ対処する手段として、症状が現れることも考えられます。頭で「何らかの症状があれば、周囲に特別な配慮をしてもらえる」と知っていることで、身体に症状が生じ得るのです。それは詐病(仮病)ではありません。
また、最近では変換症に生物学的・神経心理学的要因が関係しているという報告が増えてきています。脳の機能障害によって、感覚障害が生じているかもしれません。
治 療
常、変換症は自然に寛解しますが、洞察指向の支持的精神療法あるいは行動療法によって改善が促されると考えられています。患者さんによっては行動的弛緩法が効果的です。また、患者さんが外傷的な出来事を経験している場合は、催眠・鎮静剤や抗不安薬が、病歴の付加的な情報を得る助けとなります。
診断基準:DSM-5
- 1つまたはそれ以上の随意運動、または感覚機能の変化の症状
- その症状と、認められる神経疾患または医学的疾患とが適合しないことを裏づける臨床的所見がある。
- その症状または欠損は、他の医学的疾患や精神疾患ではうまく説明されない。
- その症状または欠損は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている、または医学的な評価が必要である。
症状の型を特定せよ
- ●脱力または麻痺を伴う
- ●異常運動を伴う(例:振戦、ジストニア運動、ミオクローヌス、歩行障害)
- ●嚥下症状を伴う
- ●発話症状を伴う(例:失声症、ろれつ不良など)
- ●発作またはけいれんを伴う
- ●知覚麻痺または感覚脱失を伴う
- ●特別な感覚症状を伴う(例:視覚、嗅覚、聴覚の障害)
- ●混合症状を伴う
該当すれば特定せよ
急性エピソード6カ月未満存在する症状
持続性:6カ月以上現れている症状
該当すれば特定せよ
心理的ストレス因を伴う(ストレス因を特定せよ)
心理的ストレス因を伴わない
※参考文献
『『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『DSM-5 ケースファイル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)