こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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身体表現性自律神経機能不全害

F45.3 身体表現性自律神経機能不全 Somatoform autonomic dysfunction

疾患の具体例

21歳、女性。大学のサークル仲間とけんかし、孤立するようになりました。なんとか通学はできているものの、ふとした拍子に心臓がドキドキして苦しくなります。暑くもないのに汗をかき、時に顔が赤くなることもあります。自分は心臓が悪いのではないかと不安を持ち、循環器科を受診するも特に異常は見つかりませんでした。あまりに悩んでいるのを見かねた母親に連れられ、精神科クリニックを受診すると「身体表現性自律神経機能不全」と診断されました。

特 徴

身体表現性自律神経機能不全は、いわゆる自律神経失調症と呼ばれる状態に近いものです。患者さんは、自律神経によってコントロールされている器官や系統の不調を示します。例えば、心血管系や消化器系、呼吸器系、時として生殖器泌尿器系に不調があると訴えるのです。それらの機能や構造に明らかな障害は見つからず、自律神経の機能不全によって不調が生じていると考えられます。
よくある例は、心血管系が障害されることによって生じる心臓神経症、呼吸器系の心因性過呼吸としゃっくり、消化器系の胃神経症と神経性下痢です。 また、症状には2つの型があります。第1は、動悸、発汗、紅潮、振戦(ふるえ)のような自律神経亢進徴候に基づく症状です。身体表現性自律神経機能不全の大部分がこれに当たります。第2の型は、一過性の鈍痛や疼痛、灼熱感、重たい感じ、しめつけられる感じや、膨れ上がっている、あるいは拡張しているという感覚など、主観的で特異体質的な症状です。
この疾患では、しゃっくり、鼓腸(腸内にガスが溜まり、お腹が張る感覚)、過呼吸のようなわずかな障害が存在することもありますが、それらの器官や系統の生理学的機能を乱すことはありません。

原 因

身体表現性自律神経機能不全の患者さんの多くは、この疾患と関連するように見える心理的ストレス、あるいは現在の困難や問題が認められます。しかし、診断基準を満たしていても、この疾患ではない患者さんも多くいます。

診断基準:ICD-10

確定診断のためには、以下のすべてが必要である。

  1. 動悸、発汗、紅潮のような持続的で苦痛を伴う自律神経亢進症状。
  2. 特定の器官あるいは系統に関連づけられる付加的な主観的症状。
  3. 訴えのある器官あるいは系統の重篤な(しかししばしば特定不能の)障害の可能性に関するとらわれと苦悩で、医師が説明と保証を繰り返しても反応しないもの。
  4. 訴えのある系統あるいは器官の構造あるいは機能に明らかな障害の証拠がないこと。

診断基準:DSM-5

記載なし

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)