こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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全般性不安障害

F41.1 全般性不安障害 Generalized Anxiety Disorder 全般不安症/全般性不安障害 Generalized Anxiety Disorder

疾患の具体例

46歳、女性。専業主婦。子どもの頃から心配性でしたが、ここ半年ほどでいっそう強くなりました。自分が重い病気にかかっているのではないか、夫が失業しないか、中学生の子どもがいじめられているのではないかと気になって仕方ありません。自分でも心配しすぎだとわかっていますが、気になることを止められません。その上、気分がいらいらし、家事がはかどらず、最近はめまいや動悸が感じられ、横になっていることも増えました。夜もなかなか眠れず、心配ごとに支配されています。

特 徴

全般性不安障害(全般不安症)は、様々な出来事や活動に対する過剰な不安と心配が基本的特徴です。例えば、仕事上の責任を果たすこと、健康や家計、家族への災難などを毎日のように心配しています。心配する内容は年代によって異なる傾向があります。子どもと青年は、学校の成績やスポーツの出来映えを心配し、年配者は家族の幸せや自分の健康についてよく心配します。心配の対象が移り変わることもあります。 これらの過剰な心配は、仕事や家事など、本来すべき作業を効率的に処理できないことにつながります。本人もそれに気づいていますが、自分自身で心配を抑制することが難しい障害です。
また、この障害のある人は、精神面のみならず身体にも不調を来します。WHOの診断ガイドライン「ICD-10」によると、運動性緊張といって、絶えずいらいらし、振戦(震え)、筋肉の緊張などを経験することがあります。さらに、自律神経性過活動といって、発汗、頭のふらつき、動悸、めまいとみぞおちの不快感を覚える人も多くいます。

有病率

アメリカの一般市民における全般不安症の12ヵ月有病率は、青年で0.9%、成人では2.9%です。他の国における12ヵ月有病率は0.4~3.6%の範囲とされています。なお、女性は男性よりも2倍、この障害になりやすいことがわかっています。有病率のピークは中年期で、加齢とともに減少します。

経 過

全般不安症の発症年齢の中央値は30歳です。生涯を通じて慢性で、増悪と寛解を繰り返し、完全寛解する比率は非常に低いとされています。

原 因

気質要因:
行動抑制(人見知り・内気・はにかみ・引っ込み思案)や否定的感情(神経症的特質)、危険回避といった気質は、全般不安症の発症に関連しています。

環境要因:
子どもの頃に経験した逆境や親の過保護は、全般不安症と関連するとされています。しかし、この障害特有のものであるとか、診断を下すのに不可欠または十分な環境要因とは限りません。

遺伝要因と生理学的要因:
全般不安症になるリスクの1/3は遺伝要因ですが、神経症的特質や他の不安症、気分障害、特にうつ病とも共通しています。

治 療

全般不安症の最も有効な治療法は、精神療法、薬物療法、支持的接近の併用ではないかと考えられています。しかし、治療にはかなりの時間がかかります。 精神療法で主に用いられる技法は、認知行動療法、支持的療法、洞察指向的精神療法です。
認知行動療法のうち認知療法は、患者さんの“認知の歪み”を理解するように働きかけ、適切な認知ができるように訓練します。また、行動療法では、主にリラクセーション(呼吸法や筋弛緩など)や、バイオフィードバック(生体自己制御)を行います。バイオフィードバックは、特殊な装置を用いて自律神経系などを測定し、それを制御しようとする技法です。 支持的療法は、医師が患者さんの話を聞いてその意見を支持する技法です。患者さんに安心を提供しますが、長期的有効性は疑問です。洞察指向的精神療法は、無意識の葛藤をとり、自我の強さを欠くところに焦点を当てる技法で、深層心理の分析などを含みます。
薬物療法で使用が考えられる薬物は、ブスピロン、ベンゾジアゼピン系薬物、SSRIです。薬物治療期間は6~12ヵ月とされていますが、長期に及ぶ場合もいます。人によっては一生にわたります。およそ25%の患者さんは治療中止から1ヵ月後に再発し、60~80%は1年以内に再発します。

診断基準:ICD-10

患者は、少なくとも数週、通常は数カ月、連続してほとんど毎日、不安の一次症状を示さなければならない。それらの症状は通常、以下の要素を含んでいなければならない。

  1. 心配(将来の不幸に関する気がかり、「いらいら感」、集中困難など)
  2. 運動性緊張(そわそわした落ち着きのなさ、筋緊張性頭痛、振戦、身震い、くつろげないこと)
  3. 自律神経性過活動(頭のふらつき、発汗、頻脈、あるいは呼吸促迫、心窩部不快、めまい、口渇など)

小児では、頻回に安心させる必要があったり、繰り返し身体的訴えをすることがあるかもしれない。 他の症状で、とりわけ抑うつが一過性に(一度に付き2、3日間)出現しても、主診断として全般性不安障害を除外することにはならないが、患者はうつ病エピソード、恐怖性不安障害、パニック障害、あるいは強迫性障害の診断基準を完全に満たしてはならない。

診断基準:DSM-5

  1. (仕事や学業などの)多数の出来事または活動についての過剰な不安と心配(予期憂慮)が、起こる日のほうが起こらない日より多い状態が、少なくとも6ヵ月間にわたる。
  2. その人は、その不安を抑制することが難しいと感じている。
  3. その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6ヵ月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)。
    注:子どもの場合は1項目だけが必要
  1. 落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
  2. 疲労しやすいこと汗
  3. 集中困難、または心が空白となること
  4. 易怒性
  5. 筋肉の緊張
  6. 睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または、落ち着かず熟眠感のない睡眠)
  1. その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  2. その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。
  3. その障害は他の精神疾患ではうまく説明されない[例:パニック症におけるパニック発作が起こることの不安または心配、社交不安症(社交恐怖)における否定的評価、強迫症における汚染または、他の強迫観念、分離不安症における愛着の対象からの分離、心的外傷後ストレス障害における外傷的出来事を思い出させるもの、神経性やせ症における体重が増加すること、身体症状における身体的訴え、醜形恐怖症における想像上の外見上の欠点や知覚、病気不安症における深刻な病気をもつこと、または、統合失調症または妄想性障害における妄想的信念の内容、に関する不安または心配]

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)