こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

     

抜毛症(抜毛癖)

F63.3 抜毛症(抜毛癖)  Trichotillomania 疾患の具体例

疾患の具体例

16歳、女性。幼い頃から内気な性格でした。高校に入ってからもなかなか友人ができず、放課後はまっすぐ帰宅。時間をもてあましていました。いつの間にか、髪の毛を引き抜くことが癖になり、家族から指摘されてもやめられなくなりました。やがて頭皮が透けて見えるほど髪の毛がなくなり、学校ではヒソヒソと陰口を言われます。校則で帽子を被ることも許されず、不登校になってしまいました。家族に連れられて精神科を受診すると「抜毛症」と診断されました。

特 徴

体毛を引き抜くこと(抜毛)をやめられない障害です。自分自身でやめようと思っても、どうしても繰り返してしまいます。最もよく見られる部位は、髪の毛、眉毛、まつげで、比較的少ない部位は、わき、顔、陰部、肛門周辺です。抜毛は、1日の中で短時間行われることもあれば、何時間も長く続くこともあります。本人はほとんど無自覚に、自動的に抜毛することもあります。
人によっては抜毛の仕方にこだわり、特定の種類の体毛を探して引き抜いたり、毛根が損なわれないように慎重に引き抜いたりします。抜いた体毛を手で触ったり、口に入れたりして感触を確かめる人、飲み込む人などもいます。
抜毛をする前には心地よい緊張感があり、抜いたあとには満足、快楽、安堵感につながることがあります。抜毛をすることで、頭皮のむずむず感のようなものが緩和されると言う患者さんもいます。 しかし、抜毛をしたために体毛が失われます。例えば、髪の毛を抜く人は、頭頂部の髪を引き抜く傾向があり、襟首の部分を残した完全な禿げ頭の様式(いわゆる剃髪抜毛症)になることがあります。また、眉毛やまつげが完全に喪失する人もいます。その結果、社会的、職業的に苦痛を感じることになります。体毛がないことが恥ずかしくて人前に出られないばかりでなく、自己制御できない感覚が本人を苦しめます。そのため、仕事や学校、その他の公共の場面に出掛けることを避けるようになりがちです。
なお、通常は家族以外の人の前では抜毛を行いません。しかし、人によっては他人の体毛を引き抜きたい衝動にかられたり、ペットや人形、他の繊維製の物質(セーター、絨毯)から抜毛したりする人もいます。

有病率

一般人口(成人と青年)における12カ月の有病率は、推定1~2%です。男女比は、約10:1の割合で女性に多く見られます。女性の方が多いのは、髪の毛のないことの社会的ダメージが大きく、積極的に受診するためとも考えられています。子どもの患者さんの場合は、男女差がありません。

経 過

発病平均年齢は10代前半で、最も多いのは17歳以前です。しかし人生の後半での発病も報告されています。経過は、慢性的になる人と、軽快する人がいます。1年またはそれ以下の期間にわたり治療を受けた患者さんの約3分の1が軽快しますが、20年以上も続く場合もあります。13歳以降の発病は慢性的になりやすいと考えられています。未治療の場合には、寛解と憎悪を繰り返す場合があります。女性の場合は、ホルモン変化(月経や閉経期周辺)に伴って症状が悪化しやすいと言われています。

治 療

精神科医と皮膚科医の連携が必要です。精神皮膚疾患の治療に用いられてきた治療法としては、局所のステロイドや水酸化塩酸塩、抗ヒスタミン特性をもつ抗不安薬、抗うつ薬、セロトニン物質、そして抗精神薬があります。うつ病があってもなくても、抗うつ薬によって皮膚症状の改善を認めるとされています。

原 因

不安あるいは退屈な感覚が引き金となり、抜毛に至ることがあります。また、強迫症をもつ人や、その第一度親族(両親、兄弟姉妹、子ども)では、一般人口に比べて抜毛症になる人が多く見られます。

診断基準:ICD-10

記載なし

診断基準:DSM-5

  1. 繰り返し体毛を抜き、その結果体毛を喪失する。
  2. 体毛を抜くことを減らす、またはやめようと繰り返し試みる。
  3. 体毛を抜くことで、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  4. 体毛を抜くこと、または脱毛は、他の医学的疾患(例:皮膚科学的状態)に起因するものではない。
  5. 体毛を抜くこと、他の精神疾患の症状(例:醜形恐怖症における本人に認識された外見上の血管や傷を改善する試み)によってうまく説明されない。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)