こころのはなし
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小児期の性同一性障害
F64.2 小児期の性同一性障害 Gender identity disorder of childhood / 性別違和 Gender dysphoria
疾患の具体例
小学校2年生の男の子。幼稚園の頃からままごと遊びが好きで、友達のほとんどは女の子でした。こっそり、母親の化粧品を顔に塗ったり、スカートを身につけたりしたこともあります。周囲は、いずれ治るだろうと思っていましたが、小学校入学が近くなると「自分は女の子になりたい」と言うようになりました。ランドセルは黒や紺ではなく、赤やピンクなど女の子らしい色を望みました。入学後はプールの授業で海パンをはくのを嫌がり、学校から連絡がありました。精神科医に相談したところ、「小児期の性同一性障害」と診断されました。
特 徴
自分は「男の子ではない」「女の子ではない」と、生まれ持って割り当てられた性別と心が一致しない障害です。通常、小児期早期(思春期以前)に明らかとなります。少女のおてんばや、少年の女々しい行動というレベルではなく、強い苦悩を持ちます。
出生時が女性の場合、「男の子になりたい」という願望を強く表出したり、男の子である、あるいは成長して男性になると主張したりすることがあります。男の子のような服装や髪型を好み、男の子の名前で呼んで欲しいと頼んだりもします。ドレスやスカートなど女の子らしい衣服を着せようとすると、強く拒否反応を示します。学校の制服や、スポーツのユニフォームなど、女の子ならではの服装をしなくてはならないことも拒絶し、不登校になったり、行事に参加しなかったりする場合もあります。
人形遊びやごっこ遊びなど、女の子が好む遊びにはほとんど関心を示しません。逆に、体が接触するスポーツ、乱暴で荒々しい遊びなどを好み、遊び相手も男の子が中心です。時に、立ったまま排尿したいと言います。陰茎を持ちたい、または陰茎を持っている、成長したら発達してくると主張することもあります。
一方、出生時が男性の場合は、女の子になりたい、女の子である、あるいは成長して女性になると主張することがあります。彼らは、女性の服装や髪型にすること好み、時にはタオルやスカーフを使ってスカートやエプロンを作ることもあります。乗り物や荒々しいスポーツなど、男の子が興味を持つものに関心を示さず、女の子の典型的な遊び(ままごと、お絵かきなど)を好みます。
陰茎を持っていないと主張したり、座って排尿すると言い張ったりすることもあります。まれに、自分の陰茎や陰嚢が気持ち悪いと言い、それを取り除きたい、あるいは膣がある、膣がほしいと言うこともあります。
思春期が近づくと、出生時が女の子の場合は胸が大きくなることを嫌がり、前かがみで歩いたり、大きめのセーターを着たりして胸を隠すことがあります。出生時が男性の子どもはすね毛を剃ったり、勃起を隠すために性器を縛り付けたりなど、男らしさを隠そうとします。
有病率
出生時が男性の成人では、有病率は0.005~0.014%、出生時が女性の成人では0.002~0.003%と報告されています。子どもにおいては、出生時が男性と女性の比率は2:1~4.5:1で、いずれにしても男性のほうに多く見られます。なお、小児期から青年・成人期にいたるまで症状が続く割合は、出生時が男性の場合で2.2~30%。出生時が女性の場合は12~50%と言われています。
経 過
もう一つの性になりたい欲求は通常、小児期に表出されます。思春期が近づくに従って、性器や胸など体に対する違和感の表出が増えます。就学前の子どもの中には、もう一つの性になりたいと言ったり、「自分はもう一つの性だ」と信じたりしていることがあります。親から「あなたはもう一つの性別ではなく、ただそう望んでいるだけ」と言われて、初めて苦痛を感じる子どももいます。年長の子どもにおいては、いじめやからかいの対象になり、集団からの孤立と苦痛につながることがよくあります。
診断基準:ICD-10
本質的な診断的特徴は広汎で持続的な、割り当てられた性とは逆の性でありたいという患者の欲望(あるいは自分が逆の性であることへの固執)であり、また、割り当てられた性への行動、属性、および/または装いに対する拒絶である。典型的には修学以前の時期に最初に現れるが、診断するためには、本障害が思春期前に明らかになっていなければならない。どちらの性でも、自分自身の性の解剖学的構造を否定することがある。しかしこれは通常は認められない、おそらくまれな症状である。特徴的なこととして、性同一性の障害を持った子どもは、家族や仲間の期待と衝突したり、いじめ、および/または拒絶を受けたりして困っているにしても、そのために悩まされることはないという。
これらの障害は少女よりも少年のほうが多いことが知られている。典型的には、就学以前の時期から以後ずっと、少年は、決まって女性に関連づけられるタイプの遊びやその他の活動に心を奪われ、しばしば好んで少女や女性の衣服を着用することがある。しかしながら、このような服装の交換で(大人のフェティシズム性服装盗撮症とは違って)、性的興奮が引き起こされることはない。彼らは少女のゲームや遊戯に加わることに極めて強い欲望を持つこともあり、女の子の人形がしばしば彼らのお気に入りの玩具で、彼らが望む遊び仲間は少女と決まっている。仲間外れにされることが、学童期の初期に生じる傾向があり、しばしば他の少年たちによる屈辱的ないじめとなって学童中期にピークに達する。はなはだしく女性的な行動は思春期早期に減少していくことがあるが、予後調査によれば、小児期の性同一性障害を持つ少年の約3分の1から3分の2は思春期の間にあるいはその後に同性愛的な傾向を示すという。しかしながら(性転換願望症の成人はほとんどが小児期に性同一性の問題を訴えていたとする報告にもかかわらず)、成人になってからの生活で性転換願望症をあらわにするものはごくわずかである。
臨床例では、性同一性障害は少年よりも少女のほうに少ないが、この性差が一般人口に適用できるかどうかはわからない。少女の場合も少年の場合のように、決まって逆の性に関連づけられる行動に心を奪われるという初期症状が通常見られる。典型的には、このような障害を持つ少女は男の友達を持ち、スポーツや粗野でころげ回る遊びに強い興味を示す。彼女たちは人形とか「ままごと遊び」のようなごっこ遊びで女性の役を演じることに興味を示さない。性同一性障害を持つ少女は、小児期後期や思春期にいじめられるとしても、少年と同程度の仲間外れを経験することは少ない。ほとんどの者は、思春期に近づくに従って男性的な活動や服装への過度な固執をやめるが、あるものは男性同一化を保持し、同性愛的傾向を示し続けることがある。
まれに性同一性障害が、割り当てられた性の解剖学的構造を否認し続けることにいたる場合がある。少女では、このことは、自分がペニスを持っている、あるじは生えてくると繰り返し主張したり、座って排尿することを拒絶したり、あるいは乳房が大きくなり、月経が出現することを望まないと主張したりすることによって明らかになることがある。少年では、自分が身体的に成長したら女性になる、ペニスや睾丸が嫌だ、あるいは消えてなくなる、および/またはペニスや睾丸がないほうがよいと繰り返し主張することでわかることがある。
診断基準:DSM-5
子どもの性別違和
- その人が体験し、または表出するジェンダーと、指定されたジェンダーとの間の著しい不一致が、少なくとも6ヵ月、以下のうち6つ以上によって示される(その中の一つは基準A1でなければならない)。
- 反対のジェンダーになりたいという強い欲求、または自分は違うジェンダー(または指定されたジェンダーとは異なる別のジェンダー)であるという主張。
- (指定されたジェンダー)が男の子の場合、女の子の服を身につけること、または女装をまねることを強く望む。また、(指定されたジェンダーが)女の子の場合、典型的な男性の衣服のみを身につけることを強く好み、典型的な女の子の衣服を着ることへの強い抵抗を示す。
- ごっこ遊びや空想遊びにおいては、反対のジェンダーの役割を強く望む。
- 反対のジェンダーに定型的にしようされたりまたは行われたりする玩具やゲームまたは活動を強く好む。
- 反対のジェンダーの遊び友達を強く好む。
- (指定されたジェンダーが)男の子の場合、男の子に定型的な玩具やゲーム、活動を強く拒み、乱暴で荒々しい遊びを強く避ける。また、(指定されたジェンダーが」女の子の場合、女の子には定型的な玩具やゲーム、活動を強く拒む。
- 自分の性器の構造を強く嫌悪する。
- 自分の体験するジェンダーに合う第一次および第二次性徴を強く望む。
※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)