こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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妄想性パーソナリティー障害

F60.0 妄想性パーソナリティー障害 / 猜疑性パーソナリティー障害 Paranoid personality disorder

疾患の具体例

38歳、男性。若い頃から職場でトラブルを起こし、長く仕事が続かずにきました。同僚に仕事の進み具合を尋ねられると、「どうせできないと思ってバカにしている」と憤慨し、上司がアドバイスをしても「嘘をついて自分を陥れ、首にしようとしている」と受け取り、その妄想を口にしてはけんかになっていました。過去に恋人がいたこともありますが、一緒にいる時間以外の行動を逐一報告させ、他の男性と会っていないかをしつこく詮索したために破局しました。いつしかアルコール依存症となり、精神科クリニックを受診すると「妄想性パーソナリティー障害」と診断されました。

特 徴

何かにつけて疑い深く、過度に人を信用できない障害です。客観的な根拠がなくても、他人が自分を利用する、危害を加える、だますであろうと決めてかかります。また、他人が理由もなく、自分に陰謀を企て、突然攻撃してくるかもしれないという疑いを持ちます。例えば、店員が悪意なく釣り銭を間違えて渡した場合、「わざと自分に損をさせようとした」などと思い込みます。他人から褒められても、そのまま受け取りません。仕事の業績を褒められると「もっとよい結果を出すよう強要されている」と誤解し、周囲が助けを出そうとすると「自分だけではうまくできないという批判だ」と見なすかもしれません。
また、友人や同僚の誠実さや信頼を不当に疑い、それに心を奪われて周囲の人の行動を細かく調べることもあります。少しでも不誠実さがあると、自分の推測の裏付けだと思い込みます。自分の情報が不当に扱われることを恐れているため、他人に秘密を打ち明けたがらず、親密な関係を築くことも難しい傾向があります。何か個人的な質問をされると、「あなたには関係ない」などと回答を拒否するかもしれません。
親密な関係においてもしばしば問題を生じさせます。配偶者や性的パートナーを、根拠もなく「不誠実だ」と疑い、相手の所在、行動、意図、貞節に対して絶えず尋ねて、答えを要求することがあります。
一方で、自分自身に対する批判はなかなか受け入れることができません。彼らは侮辱されたと受け取ると、すぐに怒って反応し、逆襲します。時には「裁判を起こすからな」などと言うこともあります。この障害を持つ人は好訴的であり、他人を法律問題に巻き込むことが多いとも言われています。自分が受けたと考えている侮辱、心の傷、軽蔑を許そうとせず、長期にわたって恨みを抱き続けます。
こうした過度の疑い深さと敵意は、あからさまな議論好き、繰り返される不平、または物静かだが明らかに敵意のあるよそよそしさとして表れるかもしれません。

有病率

アメリカの調査によると、猜疑性パーソナリティー障害の有病率は2~4%とされています。臨床症例では、男性に多く診断されていると言われます。

経 過

小児期から青年期にかけて発症する傾向があります。最初のうちは、孤立、友人関係の乏しさ、社交不安、学業成績不振、過敏さ、変わった思考や言葉、および奇異な空想で、「奇妙な人」「変わり者」に見えて、いじめの対象になるかもしれません。 この障害を持つ人は、ストレスに反応して短い精神病エピソードを併発する可能性が指摘されています。妄想性障害や統合失調症の発病の前兆として現れることもあります。あるいは、うつ病を発症したり、広場恐怖症や強迫症になったりする可能性が高いかもしれません。アルコールや他の物質使用障害は頻繁に生じます。

原 因

遺伝要因と生理学的要因:猜疑性パーソナリティー障害は、統合失調症の発端者の親族に有病率が高いとされています。

診断基準:ICD-10

以下によって特徴づけられる障害

  1. 退けられたり、拒まれたりすることに過度に敏感であること。
  2. ずっと恨みを抱き続ける傾向。たとえば悔いられたり、辱められたりあるいは軽蔑されたりしたことを忘れないこと。。
  3. 疑い深いこと。および体験を歪曲する傾向がすべてにわたり、他人の中立的あるいは友好的な行動を敵意あるもの、あるいは馬鹿にしているものと誤解する。
  4. 現実の状況に適合せず、戦闘的にまた執拗に個人的権利を意識すること。
  5. 配偶者あるいは性的パートナーの性的貞節を、正当な理由なしに、繰り返し疑うこと。
  6. 常に自分を引き合いに出す態度に表れる。過度の自尊心を抱く傾向。
  7. 自分の周りや世間一般に起こる出来事について、「陰謀がある」という実証のない解釈に没頭すること。

診断基準:DSM-5

  1. 他人の動機を悪意あるものと解釈するといった、広範な不信と疑い深さが成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。
  1. 十分な根拠もないのに、他人が自分を利用する、危害を与える、またはだますという疑いをもつ。
  2. 友人または仲間の誠実さや信頼を不当に疑い、それに心を奪われている。
  3. 情報が自分に不利に用いられるという根拠のない恐れのために、他人に秘密を打ち明けたがらない。
  4. 悪意のない言葉や出来事の中に、自分をけなす、または脅す意味が隠されていると読む。
  5. 恨みを抱き続ける(つまり、侮辱されたこと、傷つけられたこと、または軽蔑されたことを許さない)
  6. 自分の性格または評判に対して他人にはわからないような攻撃を感じ取り、すぐに怒って反応する、または逆襲する。
  7. 配偶者または性的伴侶の貞節について、繰り返し道理に合わない疑念をもつ。
  1. 統合失調症、「双極性障害または抑うつ障害、精神病性の特徴を伴う」、または他の精神病性障害の気渦中にのみ起こるものではなく、他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)