こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

     

小児性愛

F65.4 小児性愛 Pedophilia / 小児性愛障害 Pedophilia Disorder

疾患の具体例

35歳、男性。自分が思春期の頃から、小さな男の子に対する性的関心が強いと自覚していました。少年を対象とした性的な漫画やアニメを好み、少年と性的に関わることをいつも空想しています。テレビで、少年が犠牲になった性犯罪が報道されると、自分も真似たくなります。一人で歩いている少年を見かけると、連れ去りたい衝動に駆られます。この性的嗜好は、自分自身が幼い頃に親戚から性的虐待を受けていたことが関係しているのではないか、という気がしています。

特 徴

小児性愛とは、思春期以前あるは思春期早期の子どもに対し、性的関心を持つことを言います。思春期以前の自分の子どもを性的にからかう人は、時に他の子どもたちにも同様な近づき方をします。つまり、小児性愛を示唆する行動であると言えます。
診断基準では、最低6ヵ月にわたり、子どもへの性行為に関する空想、性的衝動、または行動が反復することが要件になっています。性的な行動で多いのは、子どもの性器の愛撫とオーラルセックス(口唇性交)です。近親姦の場合を除き、膣内または肛門内への性器の挿入はまれだと言われています。 人によっては、少女にだけ惹きつけられますが、少年にだけ、または両性に興味を持つ人もいます。子どもが犠牲になった性犯罪で注目を集めるのは女児ですが、加害者の告白によれば犠牲者の60%が男児だとされています。
また、小児性愛の人の中には、根っから子どもにしか性的関心を向けない人もいれば、成人の性的パートナーの代償として子どもに向かう人もいます。成人の異性と性的に関わることに失敗している人などです。
小児性愛は近親姦とも深い関わりがあります。近親姦は、大人と子どもの関係の優位性という特質を利用して、自分の子どもに性的な行為を求めます。

有病率

小児性愛障害の一般人口における有病率はわかっていませんが、男性の最も高い有病率は3~5%と報告されています。女性の有病率はさらに不明確ですが、男性の数分の1であると考えられます。

経 過

小児性愛障害を持つ成人男性は、思春期の頃、子どもに対する強い性的関心を自覚することがあります。この性的嗜好は生涯にわたって続くと思われます。しかし、治療によって、または治療なしでも主観的苦痛(罪悪感、羞恥心、強烈な性的欲求不満、孤独)、または時間経過によって変化していく可能性があります。年をとるにつれて、子どもに対する性的関心が揺れたり、憎悪したり、軽快したりするのです。

原 因

気質要因:
小児性愛障害と反社会性は相互作用があると考えられています。例えば、両方の特性を持つ男性は、子どもへの性的な関わりを行いやすい傾向にあると言われます。反社会性パーソナリティ障害は小児性愛障害の危険要因と考えていいかもしれません。また、ある研究によると、子どもが犠牲になった性犯罪の50%が大量飲酒下での出来事で、加害者のうちのかなりの人数は現在、あるいは過去に露出症、窃視症や強姦に関わっていると報告されています。

環境要因:
小児性愛の成人男性は、自分が子どもの時に性的虐待を受けたと報告することがあります。小児期に性的虐待を受けると、成人後も引き続き虐待を甘受しやすくなり、逆に虐待するようになりやすいという説があります。人によっては、メディアで報じられた性行動を真似たり、自分が過去に受けた性的虐待を思い出したりすることも発症の原因だと考えられています。しかし、子ども時代の性的虐待が成人の小児性愛の原因になるかどうかの相関は明らかではありません。
フロイトの説によると、小児性愛はエディプスコンプレックス(母親を手に入れたくて父親に対抗する気持ち)にまつわる無力感の埋め合わせで、犠牲者に対して優位で支配的であろうとする行動だと考えられています。

診断基準:ICD-10

記載なし

診断基準:DSM-5

  1. 少なくとも6ヵ月間にわたり、思春期前の子どもまたは複数の子ども(通常13歳以下)との性行為に関する強烈な性的に興奮する空想、性的衝動、または行動が反復する。
  2. これらの性的衝動を実行に移したことがある、またはその性的衝動や空想のために著しい苦痛、または対人関係上の困難を引き起こしている。
  3. その人は少なくとも16歳で、基準Aに該当する子どもより少なくとも5歳は年長である。

注:青年期後期の人が12~13歳の子どもと性的関係を持っている場合は含めないこと。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)