こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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演技性パーソナリティ障害

F60.4 演技性パーソナリティ障害 Histrionic personality disorder

疾患の具体例

24歳、女性。事務員として働いていますが、毎日、肌の露出の多い服を身につけ、厚化粧をして通勤しています。同僚や出入りの業者の男性に対し、勤務中にもかかわらず抱きついたり、「大好き」「あなたは特別」などとささやいたりして、性的に誘惑します。女性上司から注意されてもやめようとせず、「みんなで私を攻撃してくる」と泣きじゃくることもあります。女性の同僚の多くは、彼女を避けようとします。会議では、「重大な発表があります」などと前置きし、情熱的な口ぶりで発言しますが、内容は当たり前のことばかりです。注目を集められないとわかると、とたんに不機嫌になり、怒り出します。

特 徴

演技性パーソナリティ障害の基本的特徴は、広い範囲の対人関係において、過度に注意を引こうとする行動です。無意識のうちに、他人との関係で役柄(例:犠牲者やお姫様)を決め、それを演じてしまうことがあります。話題の中心になっていなければ気が済まず、泣いたり、周囲を非難したりすることがあります。何か作り話をしたり、騒動を起こしたりして注目を浴びようとするかもしれません。自殺のそぶりや脅しを行う危険性が高いとも言われています。
すべてのものを実際以上に重要に感じ、考え方や感情を誇張する傾向があります。些細な出来事をとめどなく悲しんだり、かんしゃくを起こしたりしますが、そうした表出は非常に速く出たり消えたりするため、真実味に欠けます。
この障害のある人は、男女ともに不適切なほど性的に挑発的、誘惑的な外見や行動をします。異性として興味のある人に対してだけでなく、仕事上知り合っただけの人や、自分の主治医などに対しても性的なアピールをする場合があります。そのため、同性の友人と関係が悪くなりがちです。しかし、性的に積極的であるわけではなく、人一倍恥ずかしがったり、遊戯的(遊び半分の気分)だったりします。心理的な性機能障害を持っている人もいます。
また、強い調子で自分の意見を言いますが、その理由はたいていあいまいで、説得力に欠ける面があります。例えば、ある人のことをとても素晴らしいと言いながらも、裏付けとなる具体的な例を示すことができない、などです。しばしば非常に熱狂的に仕事や事業を始めますが、その興味はすぐに薄れることがあります。 人間関係を実際より親密だと思っていることも特徴の一つです。知人程度の関係の人にも「私のかけがえのない親友」と言ったり、一度や二度、診察を受けただけの医師を下の名前で呼んだりすることがあります。公衆の面前でちょっとした知り合いに情熱的な抱擁をし、相手を困らせたり、嫌がられたりすることもあります。しかし、長期にわたる人間関係は、新しい対人関係から得られる興奮に取って代わられ、長続きしない傾向があります。
ほかに、この障害のある人は、他人の意見に影響されやすく、だまされやすい特徴もあります。

有病率

アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル「DSM-5」によると、2001~2002年に行われた「全米におけるアルコールおよび関連疾患に関する全国疫学調査」では、演技性パーソナリティ障害の有病率を1.84%と推定しています。男女比は同等だとする報告があります。

経 過

演技性パーソナリティ障害は、年齢とともに症状が治まっていく傾向があります。

治 療

演技性パーソナリティ障害の患者さんは、自分の本当の感情に気づかないことが多いため、精神療法による内的感情の解明が重要とされています。薬物療法は、症状が絞られた時に補助的に用いられます。例えば、抑うつや身体愁訴には抗うつ薬、不安には抗不安薬、現実感消失や幻覚には抗精神病薬などの選択があり得ます。

診断基準:ICD-10

以下によって特徴づけられるパーソナリティ障害:

  1. 自己の演劇化、芝居がかった態度、感情の誇張された表出。
  2. 他人や周囲から容易に影響を受ける被暗示性。
  3. 浅薄で不安定な情緒。
  4. 興奮および自分が注目の的になるような行動を持続的に追い求めること。
  5. 不適切なほど誘惑的な外見や行動をとること。
  6. 身体的魅力に過度に関心を持つこと。

関連病像として自己中心性、自分勝手、理解されたいという熱望の持続、傷つきやすい感情、および自分の欲求達成のために他人を絶えず操作する行動が含まれる。
^ヒステリー性および精神幼児性パーソナリティ(障害)

診断基準:DSM-5

過度な情動性と人の注意を引こうとする広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。

  1. 自分が注目の的になっていない状況では楽しくない。
  2. 他者との交流は、しばしば不適切なほど性的に誘惑的な、または挑発的な行動によって特徴づけられる。
  3. 浅薄ですばやく変化する感情表出を示す。
  4. 自分への関心を引くために身体的外見を一貫して用いる。
  5. 過度に印象的だが内容がない話し方をする。
  6. 自己演劇化、芝居がかった態度、誇張した情緒表現を示す。
  7. 被暗示的(すなわち、他人または環境の影響を受けやすい)。
  8. 対人関係を実際以上に親密なものと思っている。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル